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にぃにの学生時代(中学二年生・秋)
にぃにの学生時代
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図書室の机に、今日もお気に入りの本を広げていたときだった。
ふと、背後で戸が開く音がして、俺は顔を上げた。
「……あの、本、どこに返せばいいですか?」
小さな声でそう言ったのは、一年生らしき男の子。
「それ、俺も好きだよ。」
そう言ったとき、自分の声が少し震えているのに気づいた。
あの時、自分がもらった言葉の重みを、いま誰かに渡している——その事実が、胸に迫ってきた。
その子が図書室を出て行ったあと、にぃにはしばらく席を立てなかった。
心の奥がざわざわして、目の奥が熱くなっていた。
——あのとき、あのプリントを見た教室。
——沈む夕日と、誰もいない静けさ。
——「空気読めない」って、投げつけられた言葉。
全部、笑ってやりすごしたけど、本当は泣きたかった。
誰かに「わかってるよ」って言ってほしかった。
でも、言えなかった。ただ、黙って飲み込んできた。
俺は、机に伏せた。
——でも、今日、あの子の顔を見て思った。
あのとき泣けなかった俺が、いま、誰かの涙を受け止められた。
あのとき欲しかった言葉を、いま、自分が誰かに渡せた。
それだけで、少しだけ、過去の自分を許せる気がした。
その瞬間、図書室の奥の本棚の前に、司書の先生が立っていた。
いつからそこにいたのかわからない。でも、静かに、やさしく言った。
「あなたが、誰かの“物語の途中”に立ち会える人になるといいね。」
“物語の途中”——
それは、まだ傷ついて、まだ悩んで、それでも歩いている人の時間。
俺は立ち上がった。
本棚の奥、まだ読んでない物語が、いくつも並んでいた。
そして、自分の中にもまた、ひとつの物語が始まろうとしていた。
あの日から、俺は毎日のように図書室に通っていた。
ただ本を読むだけじゃなく、ときどき先生の手伝いをしたり、他の生徒とも少しずつ言葉を交わすようになっていた。
そんなある日、図書室に走るようにして飛び込んできた子がいた。
「……あの、ここ、入っていいですか?」
顔を伏せ、肩を震わせたその子は、前に俺が話しかけた一年生だった。
彼の制服の袖には、泥がついていた。
「なにか、あった?」
問いかけると、その子はしばらく黙って、やがてポツリと言った。
「……ロッカーに、靴、入ってなかった。」
——その言葉に、にぃには全身がひりついた。
「そっか。」
自分にもあった。誰にも言えなかった、あの日のこと。
俺はそっと、隣に座った。
「……俺も、昔、そういうことされたことあるよ。」
「え?」
「プリントに悪口書かれて、机に置かれてた。笑って捨てたけど、本当は泣きたかった。」
その子は驚いたように顔を上げた。
「先輩……そんなふうに見えない。」
俺は笑った。
「強そうに見える人だって、泣いたことあるよ。でも、大丈夫。君もきっと、大丈夫になる。」
その日、俺は司書の先生と一緒に、その子の話をゆっくり聞いた。
先生が連絡を入れてくれて、担任にも伝わった。
少しずつ状況が動き始めた。
——数日後。
その子が俺のところに走ってきて、真っすぐに言った。
「俺、がんばってみる。怖いけど……でも、もう一人じゃないって思えたから。」
俺は、その言葉に胸がいっぱいになった。
かつて誰にも言えなかった自分が、
今、誰かに「言ってもいいんだよ」って伝えられた。
それは、何よりも強く、自分自身を救う力になっていた。
ふと、背後で戸が開く音がして、俺は顔を上げた。
「……あの、本、どこに返せばいいですか?」
小さな声でそう言ったのは、一年生らしき男の子。
「それ、俺も好きだよ。」
そう言ったとき、自分の声が少し震えているのに気づいた。
あの時、自分がもらった言葉の重みを、いま誰かに渡している——その事実が、胸に迫ってきた。
その子が図書室を出て行ったあと、にぃにはしばらく席を立てなかった。
心の奥がざわざわして、目の奥が熱くなっていた。
——あのとき、あのプリントを見た教室。
——沈む夕日と、誰もいない静けさ。
——「空気読めない」って、投げつけられた言葉。
全部、笑ってやりすごしたけど、本当は泣きたかった。
誰かに「わかってるよ」って言ってほしかった。
でも、言えなかった。ただ、黙って飲み込んできた。
俺は、机に伏せた。
——でも、今日、あの子の顔を見て思った。
あのとき泣けなかった俺が、いま、誰かの涙を受け止められた。
あのとき欲しかった言葉を、いま、自分が誰かに渡せた。
それだけで、少しだけ、過去の自分を許せる気がした。
その瞬間、図書室の奥の本棚の前に、司書の先生が立っていた。
いつからそこにいたのかわからない。でも、静かに、やさしく言った。
「あなたが、誰かの“物語の途中”に立ち会える人になるといいね。」
“物語の途中”——
それは、まだ傷ついて、まだ悩んで、それでも歩いている人の時間。
俺は立ち上がった。
本棚の奥、まだ読んでない物語が、いくつも並んでいた。
そして、自分の中にもまた、ひとつの物語が始まろうとしていた。
あの日から、俺は毎日のように図書室に通っていた。
ただ本を読むだけじゃなく、ときどき先生の手伝いをしたり、他の生徒とも少しずつ言葉を交わすようになっていた。
そんなある日、図書室に走るようにして飛び込んできた子がいた。
「……あの、ここ、入っていいですか?」
顔を伏せ、肩を震わせたその子は、前に俺が話しかけた一年生だった。
彼の制服の袖には、泥がついていた。
「なにか、あった?」
問いかけると、その子はしばらく黙って、やがてポツリと言った。
「……ロッカーに、靴、入ってなかった。」
——その言葉に、にぃには全身がひりついた。
「そっか。」
自分にもあった。誰にも言えなかった、あの日のこと。
俺はそっと、隣に座った。
「……俺も、昔、そういうことされたことあるよ。」
「え?」
「プリントに悪口書かれて、机に置かれてた。笑って捨てたけど、本当は泣きたかった。」
その子は驚いたように顔を上げた。
「先輩……そんなふうに見えない。」
俺は笑った。
「強そうに見える人だって、泣いたことあるよ。でも、大丈夫。君もきっと、大丈夫になる。」
その日、俺は司書の先生と一緒に、その子の話をゆっくり聞いた。
先生が連絡を入れてくれて、担任にも伝わった。
少しずつ状況が動き始めた。
——数日後。
その子が俺のところに走ってきて、真っすぐに言った。
「俺、がんばってみる。怖いけど……でも、もう一人じゃないって思えたから。」
俺は、その言葉に胸がいっぱいになった。
かつて誰にも言えなかった自分が、
今、誰かに「言ってもいいんだよ」って伝えられた。
それは、何よりも強く、自分自身を救う力になっていた。
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