贖罪の篝火

ねりうむ

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第四話

◆1/無彩色の紫陽花

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 セピア色の景色。
 篝と夕霧の二人が、家路を歩いている。
 脇には弾ける波しぶきのように、色彩豊かな紫陽花が咲き誇っていた。
 空は一面の曇天。アスファルトから立ち上る雨の匂いが鼻をかすめた。

「キレイだね」
 夕霧が道端にしゃがみこんで、紫陽花を見ている。
 空を仰いだまま、篝はその声に「そうだね」と静かに返した。
 篝の鼻先にポツリ――と、雨が一粒触れる。
「あ、降ってきちゃった」
「え? 嘘。早く帰らないと濡れちゃうじゃん」
 天気予報にない雨に、慌てるふたり。
「それじゃあ、篝。また明日ね!」
 そう言って夕霧は駆け出した。振り返りながら手を振る姿が、だんだんと遠ざかっていく。
「また明日」
 篝は、その背中をずっと見つめていた。


 ――鼻をつく消毒液の臭い。

 薄く開いた目に、白い天井が映る。ぼやけた視界と濁った意識が、ゆっくりと輪郭を取り戻していく。
「ここ……は……?」
 小さく掠れた声が、喉からこぼれ落ちた。
 ズキズキと頭の隅が痛む。

「医務室よ」
 声のした方にゆっくりと頭を向けると、リンネがサイドチェアに腰を下ろしている。読んでいたであろう分厚い本が、膝の上で開いたままになっていた。
「目が覚めたのね。痛むところはない?」
「痛い……ところ……」
 夕霧の姿が脳裏に浮かぶ。

 家路を駆けていく彼女。
 狂気に駆られた彼女。
 夕霧の笑顔と爪が、篝の心を切り刻む。

 痛むのは心と体――どちらだろうか。

「……わかりません」
 篝はポツリと呟いた。
 夢から現実に戻っていく実感とともに、悲しみが喉を突く。目にじわりと熱いものがこみ上げた。

「今はゆっくりなさい。お医者様を呼んでくるから」
 そう言うとリンネは立ち上がり、音もなく病室を出ていった。


 しばらくして、禿髪の男性医師が、女性看護師を連れて入室してきた。
「お加減はいかがですか?」
 医師は、柔らかく響く低声で、篝に語りかける。
 看護師はキビキビとした動きで、篝のバイタルを確認していった。

「問題ないようですね。ゆっくりと休んでください」
 診察を終えた医師たちが、退室しようとドアの方に振り向いた時――。

 病室のドアが、そのまま飛んでいきそうな勢いでスライドした。
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