願えば初恋

わいあーる

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◇アイツの彼女◇

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そんな浮かれた女子達のグループLINEでのやり取りなんてすっかり忘れて、数日が過ぎていた土曜日。



「もうヘトヘトなんだけど!」

今の時刻は、22時55分。
私はまだ、お店の一階の倉庫の前にいる。

普段の私なら昼番でいくら遅くなったとしても、21時45分にはお店を出ている。

それがなぜ、棚卸しでもないのにこんな時間までお店に残っているかと言うと、それは今ここに一緒にいる砂東フロア長が原因なのだ。


「マジで悪いと思ってるって!」

あの頃、耳にタコが出来るくらい聞いたこの台詞。
口ではそう謝っているが、眉間に思いっきり皺を寄せながらでは全く誠意は感じられず。その態度もあの頃から何ら成長を見せない。


「クソ暑ぃーな!」

砂東フロア長はワイシャツの袖を腕まくりし、台車で売り場から持ってきた大量の商品を、私と一緒に配達商品置き場に降ろしている最中。

なんで、夜の倉庫に二人だけでこんな事になっているのか。

その理由は、昨日"砂東フロア長が休みだった"事が原因だ。



それは昨日の金曜日の話。

昨日は砂東フロア長がお休みで、私は自分のペースで仕事をする事が出来ていた。


「甘味さん、今日絶好調っすね!羨ましいっす!」

砂東フロア長と出勤が重なった日は、あいかわらず酷い有様だった私の売上。

でも今日は昼番にもかかわらず、17時すぎた時点で私の売上は裕に80万を超えていた。

フロア長達の数字には足元にも及ばないにしろ、一般社員の平日の売上にしては上出来だろう。


「そうでしょー!今日はお客様の当たりがいいんだよね~。さっきのお客様なんて"これ下さい"で、10万もする掃除機を買っていったんだよ」

ついでに作業もはかどれば気分は良くなり、ニコニコな私。

「ぶっちゃけ、それが一番ありがたいっすもんね」

「そうそう。値引きも言われなかったしね」

今のご時世、家電量販店に現物だけを見に来て、後はインターネットで安く購入する…と言うお客様も少なくない。

それはそれでいいと思う。
私だって洋服にしろ生活用品にしろ、めちゃめちゃネット通販を活用してるし、同じ商品なら1円でも安く購入したいのは誰しもだろう。

でも中には散々商品説明をさせておいて、目の前でネット価格を調べ始め、こちらが思った以上の価格をご提示出来なかったら「じゃあネットで買うわ」なんて馬鹿正直に言われた日には…。

こっちも人間。
売れなかった時の落胆は大きい。

って言うか、顔では平静を装いながらも腹は煮え繰り返っているから「それは、お客様のご自由なんで」ってついつい返してしまう私の器の狭さ。


商品の中には、数年前から導入された「メーカー指定価格」と言った、メーカーが指定した価格で販売を行い、販売店側では値段が操作できない家電もある。

どの家電取扱店で購入しても価格は同じにしなければならないとルールが設けられていて、はなから値引きが出来ないと分かっていれば気が楽だが、どう説明していかに自分の店で購入してもらおうか…そこは店員の力量の見せ所なんだろう。


「でも。一番の理由は砂東フロア長がいないから、っすかね?昨日も砂東フロア長につきっきりで大変そうでしたもんね」

「…せっかく忘れてたんだから思い出させないでよね」

話しかけてくる平岡くんの横で、私は今日受注したお客様の伝票を1枚ずつ確認する。

砂東フロア長が不在の今日、さっさと自分の仕事を終わらせておかないと、きっと明日も容赦なく仕事を押し付けてくるに違いない。

「あっ、すません。でも甘味さん?知り合いでもないのに、何でそんなに砂東フロア長の事を毛嫌いしてるんっすか?甘味さんなら気に入らない人がいても、そこのところは上手くやれるはずっすよね?」

「え?あ~~、それは、、、」

勘の良すぎる平岡くん相手に適当な返事を返すと、余計に話がややこしくなる可能性がある。

ここは適当な理由をつけてこの場を離れるか___と考えていた瞬間、タイミングよくトランシーバーのイヤホンから耳に入ってきた私の名前を呼ぶ声に助けられ。

「平岡くん。ちょっと待って」

イヤホンからは、もう一度私の名前を呼ぶ斎藤さんの声が聞こえる。


<はい!甘味です!>

<砂東フロア長から電話が入ってます。外線一番お願いします>

<……はい、了解しました>

返答し終わった後の、私のため息は深い。
これぞまさしく、噂をすればなんとやら…だ。

「平岡くんが砂東フロア長の話しなんかするから…」

「なんか、本当すません」

私は渋々、砂東フロア長からの電話を取りに行く。

面倒くさ。
ゆっくり歩いていったろ。

そしたら、痺れを切らして向こうが電話を切ってくれてたりしないかな~。

どうせ、大した用事じゃないんだろうしぃ。


仕事は"量より質"だ"質より量"だ…の論争があるが、私達に問われるのは"量と質"のどちらとも。

自分がこなした接客数で売上高の増減は著しく変わってくるし、お客様相手の仕事だから信用に欠ける仕事は出来ない。

作業にしても同様で、ごちゃごちゃ他のこともしながら同時進行でなんて不器用な私には無理だから、優先順位を考えながら一個一個正確にを常に心がけている。

だからこそ、いいパフォーマンスが出来るように常に片手を開けた状態でのぞみたい。その為には、自分がしないといけない仕事はきちんと責任を持って自分でするが、そうじゃなくていいと判断した仕事は、空いてる人に手伝ってもらい振り分ける。

ここ数日の砂東フロア長を見ていると、人一倍仕事量は多いが、その仕事の見極めはスムーズで頭の中でしっかりとしたタスク管理が出来ているのだろう。

その仕事への取り組み方や姿勢など純粋に感心はするのだが、その仕事の振り分け先を私にするのだけはやめて欲しいっ!!

それでも容赦なく、せっかく頑張って空けた両手にすらお構いなしに物凄い仕事量を乗っけてくるのが砂東フロア長という男なのだ。


「…………………はいはい。お待たせしましたね。で、何でしょう?」

「お前な?!電話に出るだけに何分かけんだよっ」
 
電話口でも騒々しい奴。
私以外の前ではあんなに紳士な態度なのに、同級生だっただけの私にこんな態度なら、彼女さんにはどんだけの態度の悪さで接しているんだろう。

「接客中だったんだから仕方ないでしょ」

「ふぅーーん。斎藤さんは、平岡くんと楽しそうにおしゃべりしてますよって言ってたけどな!」

斎藤さん!
そんな所、馬鹿正直に伝えなくてもいいじゃん!

遠くの斎藤さんに視線を向けると、当の本人は何の悪びれもなかったんだろう。私が必死で目で苦情を訴えているのに「何?」とばかりにキョトンとしている。

「…………………ご用件を手短にどうぞ」

「おいっ!って、まぁいいや!こっちも時間ねぇし。要件は、桑原様って言うお客様が今日店に行くんだけど、そのお客様の接客をお願いしたいんだ」

「やだ」

「やだじゃねーよ!てか、既にお前の名前言っちゃったしぃ」

「言っちゃったし~、なんてかわい子ぶってんじゃないわよ!なんで勝手な事すんのよ?!あんたが自分がいない日に売上を上げろって言ったから頑張ってんでしょ!自分が言った事忘れたの?!」

「悪いって!お前と俺の仲だろ?今度なんか奢るからさ!今日は頼むよ、なっ?」

陽気な店内ミュージックがかかる中、電話の向こうでかすかに聞こえた女性の声を私は聞き逃さず。

「どーせそっちは彼女とイチャイチャしながら楽しい休日を過ごしてるんでしょ!」

「もしかして、妬いてんの?」  

何でそんな発想になるのか。
私が砂東フロア長にそんな感情を抱くなんて、天地がひっくり返ってもないだろう。

「ありえません!それでは彼女と楽しい時間をお過ごし下さい!桑原様の件は仕方がないから対応しておきます!じゃあね!」

「ち、ちょっと待てって!俺、彼女っ、…!」

砂東フロア長の言葉を待たずして、私は乱暴に受話器を置き自分の持ち場へと戻っていった。
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