願えば初恋

わいあーる

文字の大きさ
40 / 125
◇私になくてアイツにあるもの◇

-40-

しおりを挟む
「何やってんだよ?マジで心配だから、こんな暗い中一人で行くなよ」

耳元で発せられるその言葉に、さっきまでの乱暴さはなく。

だけど、コイツは何故私を抱き締めてるのか?
彼女がいるのに、何で平気でこんな事が出来るのか?

「苦しいから離してよ」

「なら車に乗れよ」

「はぁ?嫌よ!」

「じゃあ俺も嫌だ。車に乗るって言うまで離さない」

いっこうに弱まらない腕の力に、どうにかここから抜け出そうと必死でもがき、砂東フロア長を見上げる。


「え、帰国子女だっけ?」

ひねり出した私の答え。

「は?お前、何言ってんだ」

砂東フロア長から返ってきた返事。

だよな。
そんな訳ないよな。

砂東フロア長、英語の中間テスト18点だったし。

「とにかく乗れよ?な?」

心配そうに私を見つめるその眼差し。
私も伝えたい事があると、砂東フロア長を見つめ返す。

「ねぇ、砂東フロア長」

「何?甘味」

本来なら、こんな顔面の持ち主に抱き締められたら照れない訳がないだろう。

それに、ドラマの様なこの展開も私好みではあるが。

なんせ相手が、砂東フロア長じゃ…

「ここが私のアパートなのよ!早く離しなさいよねバカ!!」

私の言葉に、砂東フロア長は私のアパートを見上げる。

「お前ん家、ここなんだ。ふーん。……店から近いのな」

「そうだけど、何よ」

ようやく力が緩まった腕から私は脱出成功。

「いや、何でも。…それよりさ、せっかくだから今から部屋に行っていい?」

「いい訳ないでしょ」

「ククッ、そうだよな。もう遅いしな」

そういう意味じゃない。

こういうズレている所も、昔から変わらない。

まともに相手をするのも疲れてしまう。


「もういいや。そういう事でも……。じゃ、今日はもう遅いから帰りなよ。私達明日もまた朝からなんだよ?それに私、もう限界」

「っだな。俺も帰るとするか」

「はーい。そうしてね。じゃあね」

「あ、ちょい待ち!」
 
「なによ!早く言ってよ!」

「あのさ、お前の携帯番号教えろよ?番号さえ知ってれば、こんな時すぐに連絡が取れるだろ?」

「やだ」

「一言目にはヤダヤダヤダやだ!って!たまには素直に言う事聞けよな!まぁ、いいや。もしお前が教えなくても他の奴に聞けばいいだけだし。平岡とかホイホイ教えてくれそうだしな」

私がコイツの事を毛嫌いしているのを知っている平岡くんの事だから、そんな軽はずみな事は行動はしないはず。

とも、言い切れないんだよな~。
 
情報通の平岡くんだからこそ、あの口の軽さは凶器だ。
自分の携帯番号は自分で守るしかない。


「てゆーかさぁ、私の番号なんか必要ないでしょ?用があるなら他の女の子の携帯鳴らしてよ?皆知ってるって言ってたよ」

「あれは聞かれたから教えただけで、とりあえず俺はお前のが知りたいの!早く教えろよ?お前は俺の番号知ってたじゃん」

「あーー。でも、今は知らない。すぐシュレッダーにかけたから。ゴミ箱にポイしなかっただけでも感謝してよね」

個人情報取り扱いマニュアルにのっとっての、正しい個人情報の取り扱いをしたまでなのに砂東フロア長は物凄く不満顔だ。

「…ダメだった?」

「当たり前だろ!早く携帯出せよ!じゃないと、、、」

何をするかと思いきや、大きく息を吸い込んだ砂東フロア長は、そのまま第一声を発しようとし。

「甘っ!!」

あきらかに私の名前を大声で出そうとしている砂東フロア長の口を慌てて両手で塞ぐ。

「バカ!こんな夜中に何してんのよ!近所迷惑考えなさいよ!!」

「なら、早く教えろよ。じゃないと、また、、」と、砂東フロア長は私の手をいとも簡単に退けて、同じ行動を繰り返す。

「わかった!わかったからそれやめてよ!本当ガキ!信じらんない!じゃあ、言うわよ!0×0-……」

「俺の番号も教えとくから携帯だせよ」

「私は別に大丈夫」

「全然学ばねー奴だな」

再び息を吸い込み出した砂東フロア長に慌てて携帯電話をバッグから取りだし、画面を操作しこれで番号交換終了だ。

「じゃ、次はLINEな」

「は?」

「LINEの方が連絡が取りやすいだろ。QRが手取り早いか?」

それじゃあ、今までの時間はなんだったのか。

自分の携帯電話を操作しだす砂東フロア長に、仕方ないなと提案する私の妥協案。

「メアドでいいでしょ」

「それはいらない」

秒でポイっと一蹴された妥協案。

気軽に使えるLINEなんて教えたら頻繁に連絡がくるのは目に見えている。

私たちのやりとりはまた振り出しだ。


「LINE?それこそ必要ないでしょ?何かあれば熊野フロア長にLINEするわよ」

「お前の上司は俺だろ?!上司が部下の連絡先しらねーでどうすんだよ?!熊野フロア長に教えてんなら尚更教えろよ!」

ど正論に怯む私。
もうこれ以上、拒む手段を持ち合わせていない。

どんどん搾取される私の個人情報と私の体力。

「なにー、このアイコン」

センスを疑うようなアイコンを見ても、もう笑い飛ばす気力すらもない。

「フッ、お前のもだろ。なぁ甘味、帰り着いたらLINEしてい?」

砂東フロア長も、今日はだいぶ疲れたのだろうか。
もしくは、もうお眠なのだろうか。

自分が発する言葉すら脳で処理しきれてないんだな、きっと。

「勘弁してよ。私もうクタクタなんだよ。それにさ、明日は歓迎会もあるんだよ?私たち、もう若くないんだから流石に明日に響くって」

「そっか。悪かったな。じゃあ、もう帰ろうかな」

「それさっきも聞いたし。今度こそは絶対よ!絶っっ対帰ってよ!」

「おう!」

白い歯を見せニコッと笑う砂東フロア長の顔は、疲れ知らずか、こんな時間でも爽やかだ。

そんな笑顔に見送られ、私はやっと砂東フロア長のもとを後にする。

「甘味っ」

アパートの階段を登り出していた私は足を止め。

「何ぃ?!もう帰るんじゃなかったの?!」

「おやすみ」

何でコイツはっ。

私は返事を返さず階段を登り出す。

「甘味!おやすみって!」

そういえば、あの頃もそうだった。
一緒に帰っていた帰り道。

別れ際、「バイバイ!」と手を振る砂東くんを一瞥して、そのまま帰ろうとした私の名前をしつこく呼んで。

何でコイツは、全く成長してないんだ。

私は肩をガクッと落とし。


「もーーー!!はい、はい、はい、はい。おやすみ!」

「じゃあな!」

やっと帰ってくれる砂東フロア長の車を確実に見送った私の携帯には、使う予定のない砂東フロア長の携帯番号と変なアイコンのLINEだけが残った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました

瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。

ひとつの秩序

水瀬 葵
恋愛
ずっと好きだった職場の先輩が、恋人と同棲を始めた。 その日から、南莉子の日常は少しずつ噛み合わなくなっていく。 昔からの男友達・加瀬透真は、気づけばやたら距離が近くて、優しいのか、図々しいのか、よく分からない。 好きな人が二人いるわけじゃない。 ただ、先輩には彼女がいて、友達は友達の顔をしなくなっていく。 戻れると思っていた関係が、いつの間にか戻れなくなっている。 これは、仕事も恋もちゃんとやりたいのに、だいたい空回りしている大人たちの、少し不器用なラブコメディ。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...