願えば初恋

わいあーる

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◇私になくてアイツにあるもの◇

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「何やってんだよ?マジで心配だから、こんな暗い中一人で行くなよ」

耳元で発せられるその言葉に、さっきまでの乱暴さはなく。

だけど、コイツは何故私を抱き締めてるのか?
彼女がいるのに、何で平気でこんな事が出来るのか?

「苦しいから離してよ」

「なら車に乗れよ」

「はぁ?嫌よ!」

「じゃあ俺も嫌だ。車に乗るって言うまで離さない」

いっこうに弱まらない腕の力に、どうにかここから抜け出そうと必死でもがき、砂東フロア長を見上げる。


「え、帰国子女だっけ?」

ひねり出した私の答え。

「は?お前、何言ってんだ」

砂東フロア長から返ってきた返事。

だよな。
そんな訳ないよな。

砂東フロア長、英語の中間テスト18点だったし。

「とにかく乗れよ?な?」

心配そうに私を見つめるその眼差し。
私も伝えたい事があると、砂東フロア長を見つめ返す。

「ねぇ、砂東フロア長」

「何?甘味」

本来なら、こんな顔面の持ち主に抱き締められたら照れない訳がないだろう。

それに、ドラマの様なこの展開も私好みではあるが。

なんせ相手が、砂東フロア長じゃ…

「ここが私のアパートなのよ!早く離しなさいよねバカ!!」

私の言葉に、砂東フロア長は私のアパートを見上げる。

「お前ん家、ここなんだ。ふーん。……店から近いのな」

「そうだけど、何よ」

ようやく力が緩まった腕から私は脱出成功。

「いや、何でも。…それよりさ、せっかくだから今から部屋に行っていい?」

「いい訳ないでしょ」

「ククッ、そうだよな。もう遅いしな」

そういう意味じゃない。

こういうズレている所も、昔から変わらない。

まともに相手をするのも疲れてしまう。


「もういいや。そういう事でも……。じゃ、今日はもう遅いから帰りなよ。私達明日もまた朝からなんだよ?それに私、もう限界」

「っだな。俺も帰るとするか」

「はーい。そうしてね。じゃあね」

「あ、ちょい待ち!」
 
「なによ!早く言ってよ!」

「あのさ、お前の携帯番号教えろよ?番号さえ知ってれば、こんな時すぐに連絡が取れるだろ?」

「やだ」

「一言目にはヤダヤダヤダやだ!って!たまには素直に言う事聞けよな!まぁ、いいや。もしお前が教えなくても他の奴に聞けばいいだけだし。平岡とかホイホイ教えてくれそうだしな」

私がコイツの事を毛嫌いしているのを知っている平岡くんの事だから、そんな軽はずみな事は行動はしないはず。

とも、言い切れないんだよな~。
 
情報通の平岡くんだからこそ、あの口の軽さは凶器だ。
自分の携帯番号は自分で守るしかない。


「てゆーかさぁ、私の番号なんか必要ないでしょ?用があるなら他の女の子の携帯鳴らしてよ?皆知ってるって言ってたよ」

「あれは聞かれたから教えただけで、とりあえず俺はお前のが知りたいの!早く教えろよ?お前は俺の番号知ってたじゃん」

「あーー。でも、今は知らない。すぐシュレッダーにかけたから。ゴミ箱にポイしなかっただけでも感謝してよね」

個人情報取り扱いマニュアルにのっとっての、正しい個人情報の取り扱いをしたまでなのに砂東フロア長は物凄く不満顔だ。

「…ダメだった?」

「当たり前だろ!早く携帯出せよ!じゃないと、、、」

何をするかと思いきや、大きく息を吸い込んだ砂東フロア長は、そのまま第一声を発しようとし。

「甘っ!!」

あきらかに私の名前を大声で出そうとしている砂東フロア長の口を慌てて両手で塞ぐ。

「バカ!こんな夜中に何してんのよ!近所迷惑考えなさいよ!!」

「なら、早く教えろよ。じゃないと、また、、」と、砂東フロア長は私の手をいとも簡単に退けて、同じ行動を繰り返す。

「わかった!わかったからそれやめてよ!本当ガキ!信じらんない!じゃあ、言うわよ!0×0-……」

「俺の番号も教えとくから携帯だせよ」

「私は別に大丈夫」

「全然学ばねー奴だな」

再び息を吸い込み出した砂東フロア長に慌てて携帯電話をバッグから取りだし、画面を操作しこれで番号交換終了だ。

「じゃ、次はLINEな」

「は?」

「LINEの方が連絡が取りやすいだろ。QRが手取り早いか?」

それじゃあ、今までの時間はなんだったのか。

自分の携帯電話を操作しだす砂東フロア長に、仕方ないなと提案する私の妥協案。

「メアドでいいでしょ」

「それはいらない」

秒でポイっと一蹴された妥協案。

気軽に使えるLINEなんて教えたら頻繁に連絡がくるのは目に見えている。

私たちのやりとりはまた振り出しだ。


「LINE?それこそ必要ないでしょ?何かあれば熊野フロア長にLINEするわよ」

「お前の上司は俺だろ?!上司が部下の連絡先しらねーでどうすんだよ?!熊野フロア長に教えてんなら尚更教えろよ!」

ど正論に怯む私。
もうこれ以上、拒む手段を持ち合わせていない。

どんどん搾取される私の個人情報と私の体力。

「なにー、このアイコン」

センスを疑うようなアイコンを見ても、もう笑い飛ばす気力すらもない。

「フッ、お前のもだろ。なぁ甘味、帰り着いたらLINEしてい?」

砂東フロア長も、今日はだいぶ疲れたのだろうか。
もしくは、もうお眠なのだろうか。

自分が発する言葉すら脳で処理しきれてないんだな、きっと。

「勘弁してよ。私もうクタクタなんだよ。それにさ、明日は歓迎会もあるんだよ?私たち、もう若くないんだから流石に明日に響くって」

「そっか。悪かったな。じゃあ、もう帰ろうかな」

「それさっきも聞いたし。今度こそは絶対よ!絶っっ対帰ってよ!」

「おう!」

白い歯を見せニコッと笑う砂東フロア長の顔は、疲れ知らずか、こんな時間でも爽やかだ。

そんな笑顔に見送られ、私はやっと砂東フロア長のもとを後にする。

「甘味っ」

アパートの階段を登り出していた私は足を止め。

「何ぃ?!もう帰るんじゃなかったの?!」

「おやすみ」

何でコイツはっ。

私は返事を返さず階段を登り出す。

「甘味!おやすみって!」

そういえば、あの頃もそうだった。
一緒に帰っていた帰り道。

別れ際、「バイバイ!」と手を振る砂東くんを一瞥して、そのまま帰ろうとした私の名前をしつこく呼んで。

何でコイツは、全く成長してないんだ。

私は肩をガクッと落とし。


「もーーー!!はい、はい、はい、はい。おやすみ!」

「じゃあな!」

やっと帰ってくれる砂東フロア長の車を確実に見送った私の携帯には、使う予定のない砂東フロア長の携帯番号と変なアイコンのLINEだけが残った。
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