心ゆくまで異世界観光

natuumi

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砂と骨の都市、サザノール

銘酒サザンビア

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 ソリから降りて背を伸ばす。何時間も座りっぱなしで肩腰が凝りに凝ってる。まぁただで乗せてもらってるからリクライニングなんて贅沢言えないよな。
「にしても、着いたかサザノール」
 白い干し煉瓦の質素な建築。だが道路からベンチまで統一して白煉瓦が使用された様式は古き良き下町のようで観光向きではありながらも実に居心地が良い。
 そして見上げるとそこにはいつでも巨人の肋骨。これならば常に巨人の寵愛を受けていると感じて信心深くなる気持ちもわかるというものだ。
「明後日の日暮れからカーニバルは始まる。ワシは今日明日で品物を売ってカーニバルの前には町を出るつもりじゃ」
 ソリから荷物を下ろしながら今後の予定を話す老人。
「え、見て行かないんですか、カーニバル」
「あぁ、あんなもの、一度でたくさんじゃわい」
 聞く限りでは面白そうなのに…なんでこうもこの老人はカーニバルを避けたがるんだろう。
「ほれ、お前はどうするんじゃ?」
「え、どうするって…」
「ワシが町を出る時、一緒に来るかと聞いておるんじゃ」
 この老人紳士か…!?行きだけでもだいぶ助かったのに帰りもだなんて…!
「なに、気にするでない。ワシも次の場所に向かうまでに話し相手が欲しいだけじゃからな」
「うーん…でもカーニバル見たいしなぁ…」
「ふぅん、ロクなもんじゃないんじゃがな。まぁ好きにせい。明後日の日暮れまでは待っておるからな」
 そう言い残すと彼はその小さな体躯に気合わない積荷をおぶった。あまりの超過積載ぶりに手伝おうとも考えたがその歩があまりに軽やかで声をかける前にそそくさと宿屋の扉に消えていってしまった。

 さて、私には旅の お決まりルーティンがある。一晩泊まった翌朝は町の歴史を調べるとか、昼飯は必ず携帯食料で済ますとか色々あるが、何よりも重要な物が一つある。町についたら宿よりも何よりもまずは飯だ。
 身体が長旅で臭って温浴が有名な観光地でも関係はない。まずは飯だ。
 ただの飯でもダメだ。大通りに面しているような大きな店ではなく裏路地にあるような小さなレストラン、なんだったら酒場でもいい。
 そして何よりも彼よりも口コミや情報誌に頼らず自分の嗅覚で探し出すのが原則だ。

 今回はそこまでかからず条件に見合う店を見つけることができた。細い道で店頭に灯りも付けず、真っ暗闇に等しい場所にある小さな店だが、こういう所が良いのだ。
「カランの腹ワタ」
 とても食事処と思えない店名だが、これは…パン…それに脂だな、鼻をくすぐる香ばしいこの匂いに間違いはないだろう。
「あら、お客さん?それも観光客の方ね、珍しい」
 ホウキをを持った長身の若い女性がニッコリと微笑みかける。店の看板娘といった所だろうか。
「今開店したばかりでまだ誰もいないわよ。良かったら騒がしくなる前に上がっていきなさい」
 美女にそう手招きされれば断るのも難というものだ。にやけヅラを引き締めつつ近づくと、異常な事に気がついた。
 この女性、デカい。身長は優に2m、いや2m50cmはある。サザノールが巨人たちの末裔の町だということを嫌でも思い知らされる。
 顔は褐色の肌に彫りの深いエキゾチックな顔立ち。その表情は慈愛に満ちていた。
「私はサザニア。どうぞ、お客さん」
 私はその巨大な女性の笑顔に招かれるまま店の中に入って行った。

 中はカウンターと厨房だけの狭く細長い間取り、まさに大衆居酒屋と言った風貌の店だ。
 カウンターの中で肉切り包丁を振り下ろす太った男性がここの店主なんだろう。彼も気がいいのが滲み出る笑顔でコチラに話しかけてきた。
「いらっしゃい!旅の方ですか?」
「まぁ、そんな所です」
「珍しいねぇこんな辺鄙な場所に来るなんて!もしかして迷いました?」
「私が招いたのよ」
 後から入ってきたサザニアがフフンと子供っぽく自慢げに鼻を鳴らす。
「サザニア様!?そんな恐れ多い!」
 え、この人店の人じゃないの!?
「いつもご馳走してもらってるから。これくらいどうってことないわ」
 上機嫌なサザニアを他所に店主はバツが悪そうに頭をかいてる。どうやらこのお嬢さんは相当身分が高いらしい。
「お客さん、何にしますか?」
 とりあえずと席につき、厨房の壁に直接刻まれたメニューを見渡す。
 「アマンの膵臓パイ」
 「ダカンのラードパイ」
 「ガナンの目玉パイ」
 んー…とても食べる気の起きない名前だなぁ…もうちょっと考えてみたらどうかな店長…。まぁこれが郷土料理ということなのだろう、口を挟むのは無粋というものだ。
「じゃあ、アマンの膵臓パイとサザンビア(サザンのビール)下さい」
「あぁ、ごめんよ旅の方。このメニューはサザノール人専用なんだ」
「サザノール人専用?」
 聞き返すとサザニアが説明を加えてくれた。
「町の古くからのしきたりででね。サザノールで取れた食材はサザノール人しか口にしてはいけないの」
 なるほど…これは失敗したな…この中では何も頼めないということか。
「大丈夫、他所から来た客向けに輸入品で代替した同じような料理を作れるよ。アマンの膵臓パイだと…ミートパイ、それとサザンビアだね、はいよ!」
 そういうと彼は包丁をまな板に突き刺し食材の棚卸しを始めた。
 んー…私の狙いとは大分違ってしまったな。私としてはちゃんと地元の食材を使った郷土料理を所望してたんだが。このままではただのミートパイが来てしまう…。まぁこの様子だと他の店でもありつけはしないだろう。
 一息つけた所で店内を見渡す。
 壁にはメニューのほか、何かの大きな肋骨が立てかけてあったり、客と撮った集合写真もある。写真には店長夫婦の他、砂まみれの獣人やドワーフがシャベルやピッケルを手に笑っている。
 この10席もない狭い店ではあるが、狭い中は笑顔で満たされている。砂漠の夜を越すのには良い暖かさだ。
「はい、これ。とりあえずサザンビアね」
 ほどなくして店主がカウンター越しに黒く発砲した飲み物をジョッキを渡してきた。悲しいかなジョッキに触れた指からは冷感は伝わらない。疲れた体に流し込むキンキンのビールがこの世の何よりも美味いというのに…。
「あ、冷えてなくてガッカリしたでしょ。違うんですよまたこれが!騙されたと思って飲んで見なさいよ!」
 サザニアが大声で囃立てる。何かを期待するかのような眼差しだ。まぁそこまでいうなら。そう思いつつ口をつけ、ジョッキを傾けた。
 口に入れた途端、溢れるような小麦の香りが喉から鼻へと抜けてった。口の中で起る燻る火のような発泡は爽快感ではない、全てがこの香りを鼻腔に届けるための装置になっていた。この豊潤な香りとは裏腹に苦味は少ない。
 そうか、普通のビールが爽快感と喉越しで疲れを吹き飛ばすなら、サザンビアは直接鼻腔に届ける癒しのアロマ!だからこそ冷たさなんて必要ないのか。
 気づけばもっと鼻へ香りを送ろうと物欲しそうに顎が上下していた。
「サザンビアはね、火と砂にまみれた巨人族の戦士を癒す為に、サザン様とその妻のカラン様が戦場で緩くなっても疲れを癒せるとして発明した飲み物なのよ。その素晴らしさを広める為に、このサザンビアだけはサザンの麦を使って外国人に振る舞う事が許可されてるわ」
 なるほど。そことなく歴史を感じる香りなわけだ。
 …というか店名のカランってサザンの妻なのか。その腹ワタって…なんとも不埒な名前を。
「いいなぁ、私も一緒に飲みたい」
「サザニア様はまだ成人してなさいませんので…」
 うっそぉ…。背丈の割にやけに子供っぽいとは思ってたけどまだ20も超えてないのか。
「いいじゃない。もう飲めないかもしれないんだし、今のうちにさ」
「ダメなものはダメです」
「ケチ。じゃあこの人の勘定私に回しといて。よかったね、旅の人、お代はいらないよ」
「そんなぁ」
 まるで我儘お嬢様とその執事のやりとりのようだ。暖かくて、笑顔が絶えない。
「おや、お客さん、もう飲んだのかい?」
 気がつくと先ほどまで満杯に注がれていたジョッキのサザンビアは1割ほどまで減っていた。
 私はそのまま残りの1割を飲み干してカウンターに上げる。
「おかわり、お願いします」
「はいよ!」
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