心ゆくまで異世界観光

natuumi

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鉄と蒸気の国、マキナガルド

世界の狭間に根差す大樹、世界樹

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 世界樹とは。樹というと葉や枝のある植物を思わせるが、それは古代の人々が中を歩いて地図にしたときその外観が木の根に見えた事からつけた名前で、実際は亀裂や網目のような構造をした道らしい。
 世界樹の根と呼ばれる入口は神出鬼没で、玉座に出てきてそのまま世界規模の大戦が起こったり、他の世界からペッと1人の人間を吐き出してすぐに消える事もあるらしい。
 その中でも安定していて認知された世界樹の根は「ターミナル」として世界の窓口になっており、貿易や観光、果ては物流の拠点にもなってたりする。
 世界樹のその構成物質や原理は長年の研究の甲斐なく全くの謎とされており、神の奇跡とされて一部の旅人から信仰対象として崇められている。

「世界樹観光へようこそ」
 うわっホントに日本語で喋った。
 陶器でできた胸像ような女性に俺が日本語で喋りかけると日本語で返してきた。
「言語学習能力を持つ案内ゴーレムだよ。学習した言語を他のゴーレムと共有して喋ることができる。高度に魔法が進んだ世界からの輸入品だ」
 つまりは魔法で組んだAIを搭載したIoTロボットか…。おそらく、ウチの世界より技術水準が進んでる世界なんてザラにあるんだろうな。
 世界樹と言うからどんな魔法チックな所かと思ったが、意外と機械化が進んだ先進的な航空窓口のようだった。
 真っ白な床にカウンター。受付に立つのは人間ではなく全て陶器のような真っ白なゴーレム。
 おそらく、世界樹を管轄しているのは技術がかなり進んだ世界の人間なのだろう。大勢いる客以外に人間らしき職員は1人も見当たらなかった。
「通行券はお持ちでしょうか?」
「え、いや。通行券をこれから買いたいんだ」
「了解しました。急な発光にご注意ください」
 彼女が一瞥すると、目から青い光が伸び、脳のシナプスの映像のような図が展開される。おそらく世界樹の縮図なのだろう、世界の名称と思しき名前がいくつも見える。その中で一際目立つ赤い点滅しているアイコン、そこには「マキナガルド」という名前と「現在地」というUIが下がっている。
「行き先をタッチ、あるいは声に出して言ってください」
 行き先…か。えーっと…そういえば、俺の世界ってなんていう名前なんだ?現世?いやそれは多分自分の世界を主軸とした呼び方だろう。地球…アース…うーん…。そういえばガルドって確か国とかそういう意味だったよな。
「アースガルド…?」
 ロキが突然肩を震わせる。
「アースガルズですね?少々お待ち下さい」
 銅像のような女性が世界樹の地図をグルグルと巡らせ始める。その間、ロキがこちらを睨んでいた。
「いや、実は自分の世界がなんて呼ばれてるか知らなくて…」
 そういうと、彼は安心したような呆れたような溜息をついた。
「申し訳ありません。アースガルズの世界は崩壊したため、現在通行不能となっております」
 あ、一応あったんだ、アースガルズ。
 うーんそれにしても困ったぞ…俺の世界…なんて呼ばれてたんだろう。そもそも世界樹が繋がってるのか?それも危うい所だ。
「この男の言語から元いた世界を割り出せないか?ショートは突発的に異世界に飛ばされたんだ」
 おお!ロキ、ナイスアシスト!
「了解しました。少々お待ち下さい」
 再び受付嬢の展開する世界樹の地図がグルグルと巡り始める。
「ゴーレムが言語を学習してるって事はほぼ確実にそれを使う世界が世界樹に繋がっている証拠だ。多分これで見つかるよ」
 確かに日本から来た人間が複数人いなきゃゴーレムも学びようがないからな。これは期待大だ。
「3件見つかりました」
 受付嬢が地図で3つの点を黄色く光らせる。
「天界、地獄、現世うつしよ、の3つです」
 あー、成る程。「げんせ」ではなく「うつしよ」か。確かに死後の世界でも言語使われるっちゃそうだよな。まぁ俺が来た場所は明確だし、ここは現世を…。
「しかし残念ながら、通行可能な世界はありません」
「えっ?」
 これまたどうして…世界樹は繋がってるんだろ…?死後の世界は死ななきゃ行けないから通行不可なのはわかるが…。
「どうしてだ?俺は多分その現世から来たんだ。ついこの前までいたんだから帰れるだろ?」
「いいえ」
「まさか、この数時間の間で消えてなくなったとでも?そんな事あるわけ」
「はい。現世うつしよ含め3つの世界は現在消滅しております。その為現在は通行不可です」
 …え?
 消えた…?
 あの世界が…?
 俺の住んでた、世界が…?
 不意に足に力が入らなくなり、膝から崩れ落ちる。体の芯から砂になって溢れていくような脱力感が身体を襲った。
「ショート!」
 ロキが咄嗟に俺の肩を掴んで支えるも、立ち上がる気力が起きなかった。
「気を確かに、ショート」
「…ああ、すまない…」
 彼の言葉でようやく我に帰ったが、ショックの後は胸の奥が熱くなり、絞り出されるように目から涙が溢れた。
 故郷を失った主人公が叫ぶシーンは色んな映画やアニメで見たけど、自分はもはや咽び泣く気すらも起きない虚無感に苛まれていた。
「すまないが注文はキャンセルだ」
「了解しました。またのご利用をお待ちしております」
 受付嬢は何事もなかったかの様に応対する。当たり前だ、彼女は所詮ゴーレム。
 いや、ゴーレムでなくても当然だ。ここには無数の世界とそれらに繋がる世界樹がある。その一つが消えた所で、周りの人は足を止めたりはしない。行けないのかぁと嘆息を漏らして別の世界か、あるいは自分の住む世界に帰るのだ。
 自分の住む世界に。
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