転売スレイヤー ~この異世界から転売ヤーを絶滅させます~

natuumi

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閑話 追放

自由

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「ヤミーくん!無事だったんだ~!」

 宿屋の一室に入ると、柔らかな羽根の束が私に飛びついてきた。

「えっ、カッツ姐さん!?」
「心配したよ~!なんか大変な事になっちゃってさ~!」

 まぎれもない、両腕が翼で足はかぎ爪、それに加えてこのやかましさはあの人しかいない。『海鳥のカッツ』だ。

「どうして!?リョーマ師匠はカッツ姐さんが死んだって…」
「リョーマさんが逃がしてくれたんだよ~!ギルドマスターからボクを処分するように言われてたみたい!それを『死んだことにするからトリスキンから出ていケ。その足でオラガ村に行ってヤミーを助けてくれる人間を呼ベ』って~。結局心配で戻って来たちゃったけど~」

 なるほど、それで村長とキセラがオラガ村から私を助けに来てくれたのか。

「ヤミーくん、リョーマさんの事、誤解しないでね~…。リョーマさん、海賊として投獄された際にギルドマスターに助けられて貿易商に転身したの。だから、ギルドマスターを裏切れないんだよ~…。でも自分でもやっていることがおかしいと思ったから、ボクを逃がしてヤミーくんを助けるようにいったワケで…」
「わかってます。様子がおかしいのはなんとなく気づいてましたから」

 師匠は義理堅い元海賊だ。多少の狡い手で稼ごうとも義理のある人間なら「やりやがったな」と笑い飛ばす度量を持っている。それが今回に限ってこれだ。おそらくギルドマスターに多大な恩があるか…あるいは弱みを握られているか…。

「話はカッツさんから話は聞いてるわ。嘘情報を流したのは人々を苦しめる転売ギルドを潰すためだって」
「ウォレットの時と同じだろう。それが、裏で糸を引くギルドマスターによってはめられてしまった、そうだろう?」
 キセラとバレット村長の親身な言葉が乾いた心に染み渡る。

「はい…だが事実、私が行ったのは詐欺まがいの事で、あくまでギルドマスターのやっている事は違法ではありません。これを誤解だと言って名誉挽回するのは…難しいでしょう」

 …助け舟はうれしいが、相手と状況が悪すぎる。これで状況が逆転したというわけではない。
 これから一体どうすれば…。

「行く当てが無いならオラガ村に戻ってきても良いんだぞ?デント家を追い出されたからって、オラガにいちゃいけないわけじゃない。君の賢さならどんな職でもみんな頼りにしてくれるはずだ。そうだ、オラガの副村長はどうだ?あのボンクラには何もさせていなかったが、本当は経理や手続きなど分担したい仕事がたくさんあるのだ」

 …それは願ってもない話だ。狭い村で両親と顔を合わせるのは面倒だが、あの村は自体は好きだし、自給自足の術もある程度学んでいる。流石にあの田舎村まで商人ギルドの手は及ばないだろう。
 でも…。

「…いえ、オラガ村には戻りません」
「両親との事は私が取り次ごう。今回の事情を話せばわかってくれるはずだ」
「そうよ、ヤミー。これ以上ここにいない方がいいわ。ここに村長が作ってくれた新しい転移の魔石が」
「いえ、お心遣いありがたいですが、私にはまだやらねばならない事があるのです」

 思い出せ、ヤミー・デント。お前の目的はなんだ。
 そうだ、私の目的は…転売ヤーを全滅させる事…!その諸悪の根源が分かり、こうして目の前でのうのうと悪事を繰り広げているにも関わらず、それを無視してのんびり異世界スローライフに洒落こむなんて、私にはできない!

「そういうと思ってたよ~ヤミーくん。さすがリョーマさんが見込んだ男」
「カッツさん、ヤミーを止めてくださいよ!もうオラガ村以外に、この国でヤミーくんを受け入れてくれる場所はないんですよ?」
「そうだね~。このトリスキンでは無理だね~。トリスキンでは」

 含みのある言い方をするカッツ姐さん。私が目を向けると、彼女はこちらにウィンクした。どうやら、私と考えている事は同じようだ。

「トリスキンを出ます。トリスキンの商人ギルドの権力が及ばない国外ならば商売ができる。そこで力を蓄えてからトリスキンに出直すんです」

 目を丸くするキセラと村長。どうやらその発想はまだなかったようだ。

「で、でも馬車も船も使えないんでしょ?歩いて隣国に向かうのはとてもじゃないけど無理よ!」
「ええ、正規の方法で出る事は無理です。でも、それ以外なら方法がある、そうですよね?カッツ姐さん」
「そだね~。偶然にもお姉さん、その方法と手伝ってくれる人達を知ってるんだ~」

 そう、『荒波のリョーマ』をはじめカイエン隊のメンバーのほとんどは元海賊、この『海鳥のカッツ』もそうだ。もちろん、未だに海賊を続けている連中や闇ギルドに移った連中とも関わりが深い。『海鳥のカッツ』はカイエン隊の情報担当で、そうした海賊や海の闇ギルドの動向に精通するエキスパートだ。

「ん~でも、問題は行先かなぁ。トリスキンの商人ギルドの取引相手は全世界にいるんだよ~?それに行先によっては、ちょ~っとお金がかかっちゃうかも~」

 確かに、行先に関しては吟味しないと…。
 それに、お金も無いんだったな。密入国にどれだけの費用がかかるか分からないが、おそらく正規のそれとは比較にならない金額になるだろう。しかしここで村長にお金を無心するわけにもいかないし…。
 …今の所持金は…1246G…。ポワルの貸ヨットにも足らない金額だ。他にはクシャクシャの追放通知だけ…。

「…ん?」

 丸めた紙の中に何か固いものが入っている。そこまで大きいものじゃないから気づかなかったが…なんだろうか。
 紙の中から出てきたのは1枚の金貨。剣と龍を組み合わせた紋章が描かれた500円玉大の金貨だ。どうしてこんなものが入って…

「…あっ!それは古アシェント金貨!」

 カッツ姐さんが取り出した金貨を指さし仰天する。

「これ、珍しいものなんですか?」
「珍しいも何も、この世界で10枚しか存在が確認されていない、幻の金貨だよ!なんでそんなもの持ってるの!?」
「これはリョーマ師匠が渡してきたギルドの追放通知と一緒に丸められてて…」

 もしかして、リョーマ師匠が通知の中に丸めてこっそりこの金貨を私に渡したのか?

「古アシェントって500年前に魔界の封印が開いた際に滅亡したっていう、あの古アシェント王国ですか?」
 と食いつくキセラ。多分、金とか実際に見たことなかったんだろうな。

「そうだよ~。古アシェント王国で爵位を持つ人間に1枚づつ与えられた金貨で、滅亡の際に世界中に散らばったんだ~。それをリョーマさんが海賊時代に沈没船の宝箱から10枚を見つけ、海賊の中で最も信頼のおける仲間7人に渡したんだよ~!」

 そんなものをどうして私に…。古アシェント…。

「これはリョーマさんも味方だよっていう証だよ~!いいな~、ボクちょっと前になく」
「カッツ姐さん、この金貨っていくらで売れますか?」

 そういうと、カッツ姐さんがまたもや仰天する。心なしかちょっと引いているな…。

「えっと…多分トリスキンの質屋でも1000万Gは下らない品だと思うけど…売るつもりなの?リョーマさんの信頼の証を?ほんとに?」
「トリスキンでなければもっと高く売れますか?」
「ほ、本気で売る気~!?…まぁ、その、多分新アシェント王国でなら、王族が交渉次第でもっと高値で買ってくれるんじゃないかな~…?あそこの王族は古アシェント王国の生き残りらしいし~」

 新アシェント王国…!500年前魔界の封印が解かれ滅亡した古アシェント王国。今からちょうど100年前に勇者キセラが魔界の扉を完全に閉じ、その跡地に自ら興した王国だ。現在でも残党魔物との戦いが続いており、文化も国力もトリスキンとは比べ物にならないほど弱い新興国だ。だが、国力増強のために行っている移民の受け入れ政策、東の大陸のほぼ全てを占める広大な国土、トリスキンからは船を要して大洋を横断しなければならないという立地。
 私は幼い頃から地理を学ぶ際に度々前世に照らし合わせて、その国の地図に星条旗がはためくのを見ていた。
 現状世界最大のトリスキン王国に対抗しうる国があるとしたら、もしかしたらここかもしれない。
 リョーマ師匠がどこまで自分の考えを見通していたかはわからない。もしかしたら、本当にただの餞別として渡した金貨かもしれない。でも…これにかけてもいいかもしれない…!

「…カッツ姐さん…、行先が分かりました」
「ん~?どこに向かうか決めたの~?」

「ええ、行先は新アシェント王国です」
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