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第4章 大商人グリフレッド

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「判決を言い渡す。
 被告人に鉱山での強制労働10年の刑を言い渡す」
 わたしは判決をうつろな目で聞いていた。
 わたしはその目で裁判所を見回す。
 モーガンの勝ち誇ったような顔、下を向くジョンやスティーブ。
 この世界はこうやって若者たちの夢を砕いていく。
 それもいちばん残酷な形で。
 それならば、最初から夢を見せなければいい。
 一度夢をみさせてそれを片っ端から砕いていく。
 そして、わたしたちはすべてをあきらめていく。
 逆らっても無駄だと思い知らされる。
 
 いつかこんな世界を変えたかった。
 がんばればかんばるほど、報われる社会。
 わたしはそういうものを作りたかったのだ。
 それなのに、もうだめだ。
 
「被告人は、モーガン商会の回復薬の製法を盗み、その財産権を侵す目的を持って廉価販売を行ったものである。
 それにより、モーガン商会の財産権を侵害した。
 よって、前述の刑事罰以外に回復薬の販売によって得た利益から罰金をのぞいた分をモーガン商会に支払うこととする」

 この国では刑事裁判と民事裁判は別れていない。
 あくまで、紛争に対する解決として提示される。
 もう、どうにでもなれだ。

「被告人、何かいいたいことはありますか?」

「いえ、ありません」
 何もいうことはない。
 何を言っても無駄だ。

 わたしは手を縛られて連行される。
 ここからは、罪人だ。
 裁判所から出ると、罵声が浴びせられる。
 
 群衆の中から一人の太った男がわたしに近づいてくる。
 こいつはモーガン、モーガン商会の会長だ。

「これでおまえは終わりだ。
 お前は目ざわりだったんだよ。
 やりすぎだ。コバエが」

「しかし、あの回復薬はわたしが作り出したものです。
 あの薬なら、今の半分の値段で流通させることができます。
 今よりたくさんの人を救えるのです」
 わたしはモーガンを睨む。

「そんなこと必要ない。
 金のないものはのたれ死ねばいいんだよ」
 そう吐き捨てるモーガン。

 そうだ。あきらめてはいけない。
 わたしがこの世界を変えないと。
 わたしはきつく拳を握る。
 
 わたしの中に再び復讐の炎が燃え始めるのを感じた。 
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