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第1話 仲間
しおりを挟む——見てる。
視線を感じて、レースの陰からそっとそちらを窺う。
ほら、やっぱり見てる。
濃い緑のジョウロを手に、桃色の花鉢に水をやるフリをしてこちらをじっと窺っているあのコ。でも目線がこちらに来てるから手元が危ない。
あ、ほら溢した。
足下に跳ねる水に驚いて飛び上がる。その拍子に手にしていた花鉢が傾く。
「あっ、危ない!」
「おい、何を覗き見してんだよ」
声をかけられ、ビクッと振り返る。
「また見てのか」
相棒だった。
「おら、どけよ。俺にも見せろ」
言って、グイグイ押してくる相棒。
「待ってよ。今、いい所なんだから」
だけど相棒はオラオラと身体を寄せて来て、特等席はあえなく奪われた。
風のよく通る低反発クッションの上。
「何がいいとこなんだよ。ちっともおもんねーよ」
言って、のしのしと乗りかかってくる相棒。
「ちょっと重い。どいて。見えないじゃないの」
手で相棒を向こうに押しやろうとする。
が、相棒はかえって頑強にその場に踏みとどまった。
「あんなヤツのどこがいい。俺のがいい男だ」
言って、首筋に口を寄せてきた。甘く噛まれて小さく悲鳴をあげてしまう。そのまま押し倒されて床の上をゴロゴロと転がる。
「ちょっと!見られちゃうじゃない」
「わざと見せつけてんだよ。ヤツも喜ぶだろうよ。ホラ」
言われて振り返れば、確かにこちらをジーッと食い入るように見てる。それもすごく嬉しそうに。
え、そういう趣味?
ま、そんならいいかしら。
では、とこちらからも攻め始める。
相棒の背に耳を擦り付け、コロンと一回転した後、その背を足で踏みつけ、うーんと両掌を前に出し、突っ張って腰をくねらす。
それから相棒と鼻を突っつき合わせてペロペロと互いを舐め始めた。そうしながらチラリと目をそちらに流す。
わぁ、本当だ。見てる見てる。よだれを垂らさんばかりにしてこちらを凝視してるじゃないの。
うん、ちょっとノルかも。立ち上がって両手を窓に押し当てて、背中をうーんと伸ばす。
と、相棒が悲鳴をあげた。
「いて、いて!おい、痛いって!」
非難の声は無視して、こちらをジーッと見つめる丸い目を見返す。
いいなぁ、うらやましいなぁ。そんな声が聞こえてきそうな気配。
あのヒト、もしかして寂しいのかしら?
なんだか気の毒になってくる。
「ねぇ、あなたもニャカマに入る?」
ニャアと鳴いて網戸に爪を立て、よいしょと伸び上がったらご主人がやって来た。
「あらあら、網戸に爪立てちゃダメよ」
脇を持ち上げられ、ピシャンと窓は閉められてしまう。向かいのあのヒトが見えなくなる。磨りガラス越しにボヤける景色。
「ほーら、怒られた」
相棒が笑う。
「うるさい!」
その尻を蹴飛ばすと低反発クッションの上にお腹を乗せて箱座りした。
まだ見てるかな。磨りガラスの向こうのあのヒト。
ううん、きっと居ない。
私たちが現れるとレースの陰から出て来るけれど、私たちが居なくなると同じように隠れてしまうのだから。
覗き覗かれ ネコとヒト。
いつか会えたら言ってあげよう。
「あなたも仲間にニャル?」
ニャルなら撫でっこしましょうよ。
低反発のクッションの上。
それまで覗き覗かれて。ネコとヒトは夢想する。
いつか撫でて撫でられて 肉球ぷにぷに押しっこする日々を。
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