妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠

文字の大きさ
32 / 49
第3章

第30話 入寮

しおりを挟む
「新入生の皆さんはこちらに」

 俺とシュナは入寮の最後の手続きを終わらせ、先生の指示に従い自分の部屋へと向かったいた。

「女子寮は3階らしいから今日はここまでだね」

「うん。明日から新生活頑張ろう」

 ゴスイ魔法学校学生寮。1階は学生の共用スペースで、2階が男子、3階が女子寮となっている。

 学生の半分が入寮するらしいが、魔法科の人数は少なく、ほとんどが剣士科が占めている。

 1階の共用スペースには、大浴場や図書室。その他生活に必要なお店など様々な物が揃っている。
 さすが、最大の魔法学校って感じの揃いっぷりだ。

「俺の部屋は……218……ここか」

 2階の廊下を歩き、自分の部屋を見つける。
 基本、2人1部屋の生活だ。

 これが何を意味しているかと言うと……

「優しい人だといいな……」

 そう。こんなところであのいじめっ子何かと同じ部屋になってしまったら……あぁ。考えるだけでゾッとする。
 何をされたか覚えてすらいないのに、身体が強ばる。

「……よし。行くぞ」

 俺は大きく深呼吸をし、自分の部屋のドアを開けた。
 目の前には二段ベッドが備え付けられており、勉強机もふたつあった。部屋は実家の自室よりも全然広く、快適な部屋であった。

 そして、相方の入寮はまだ完了しておらず、誰が一緒の部屋かは分からなかった。

「はぁ……とりあえず片付けるか」

 俺は持ってきた洋服をクローゼットにしまい、制服を掛けた。
 その他生活に必要な物をしまい、片付けるは終わった。

 最小限にって思ってたけど……さすがに少なすぎたかな。暇だな……

 二段ベッドに先に寝っ転がるのは申し訳ないと思い、床に体育座りしていた、その時だった。

 ガチャ

 き、来た……!  
 ドクンドクンと心臓が脈を打つ。

「お、お前が同室なのか。よろしくな……ってお前なんで床に座ってんだ?」

 入ってきた相手のその言葉に対して、俺は声が出なかった。
 その理由はそう。もちろんみんなが考えてるそれだ。

 目の前にいるその男。そいつはまさに俺をいじめていた男であった。

「荷物とかって……あ、ここか。こっちのやつ借りるぞ」

 何も話さない俺に一方的に言葉をかける彼に、俺は完全に脅えてしまっていた。
 一旦作戦立てなきゃ……!!!

「ご、ごめん。ちょっとトイレ行ってくるね」

「あ、あぁ……」

 俺は足早に外に逃げ出し、トイレへと向かって走って行った。
 空いている個室に逃げ込み、便器に座る。

 俺はこれからどうするのが正解だ?
 まずは変に怖がらないで話すところからなのだが……怖い。

 なんでか分からないけど言葉が出せない。
 このままじゃ……同じじゃないか。

 俺の目標はいじめられないこと。彼と仲良くなる必要は無い。でも……仲良いに超したことはないか。

 考えてみれば俺と彼はまだ初対面だ。ここから関係性を築く仲だ。
 ……よし。とりあえず頑張るぞ……!!
 頑張れ……俺……!!

 俺はトイレの個室から意を決して出て行き、部屋へと向かった。

 ガチャ

 自分の部屋のドアをゆっくりと開ける。
 すると、目の前には床に座っている彼の姿があった。

「あ!  お前名前も言わずに出て行くなよ!」

「え、あ……ごめんね。えっと……俺の名前はバッド。君は?」

 部屋に入りながらそう訪ね、俺も床に座る。

「俺の名前はグルドだ。これからよろしくな」

 グルド。全く変わらないその名前を聞いた時、彼は手を伸ばし、握手を求めてきた。
 恐る恐る手を伸ばし、伸ばしきる前に俺の手は捕まり、ニコっ、と微笑まれた。

 なんだろうこの感覚は。本当に俺はいじめられていたのだろうか。しかも彼に。分からない。もう……分からないよ。

「んで、バッド。お前がいないから机とベッドの場所決めれなかったんだ。どっちがいいとかあるか?」

「あ、えっと……別に俺はどっちでも……」

「じゃあ俺が上な!!  机も奥!!」

 そう言った瞬間にグルドはベッドに飛び乗り、寝っ転がった。

 グルドの印象は180度変わった。完成しつくされた完璧な人間だ。

 まぁ……いっか。もう違う人生なんだ。変化くらいあるだろう。普通に接しよう。怯えるのはやめよう。

「グルドは……どこから来たの?」

「イリト大陸だ。海渡ってからまた2日歩いてやっと着いたよ。でもセトラ大陸は涼しくて過ごしやすいな」

 床から立ち上がり、先程決まった机の椅子に座りながらそんな質問をした。

「バッドはどこから来たんだ?」

「俺はセトラ大陸出身だよ。ゴスイも歩いて1時間くらいで着くんだよね……」

「近っ!!!  なんで入寮したんだよ!!」

「なんでって言われても……気分?」

「ははは!  気分ってなんだよ!  結構学費高くなるだろ?」

 普通に会話し、普通に笑いあった。前の出来事が嘘のように、俺はグルドと仲良くなった。

「バッドは魔法科……だよな?」

「そうだよ。グルドは?」

「もちろん魔法科だ。よかった~聞いて魔法科じゃないとか言われたらどうなるかと思ったよ」

「でも……剣士科もすごいと思うよ」

「違ぇよ。剣士科がダメなんて言ってねぇだろ。俺バカでアホだから上手いこと言えねぇし出来ねぇんだ。すぐ気に触ること言っちまうし」

 ちゃんと考えて話しているんだ。
 なんか……意外だ。

「しかも俺は多分受かったのはたまたまだ。魔力量とかは分からねぇけど、筆記は全然わかんなかった」

「俺もたまたまだよ。でもさ……受かったならいいじゃん」

「……そうだよな。俺たち受かったもんな!!」

 初めての男友達。グルド。俺は彼のことを見間違えていたみたいだ。

 でも、そう簡単に未来が変わるなんてことは無いと、まだ俺は知らなかった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...