妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠

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第4章

第45話 エアリスの話

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 俺は変な期待を持ちながら、エアリスの後を付いて行った。少し歩き、たどり着いた場所は量の敷地内にある広場のようなところだった。
 端に置いてある2人掛けのベンチに俺たちは座った。

「……」

 ベンチに座ったあとも沈黙は続いた。
 なんだなんだ?  緊張しちゃってるのか?  もっと素直になってくれたっていいんだぜ?

「話って……」

「バッドはさ」

 俺が話わ切り出した瞬間、エアリスは被せるように話し始めた。俺は静かに受け手に回る。

「バッドは……私の事どう思ってるの?」

 どう思っている。これは本当に恋する女の子の言葉として捉えていいのか。
 我に返る。その理由は簡単。エアリスの表情だ。

 とても真剣で、でも少しちょっと心配そうな彼女の顔。そんな彼女に対してふざけた態度なんで取れっこなかった。

「どう思ってる……かぁ……」

「あ、いや、その……難しく考えなくていいって言うかなんというか……」

「初めは少し仲良くできなさそうだなぁとか思ったりもしたけど、こうやって一緒に補習受けて意外と優しいし、意外と気が利くし。シュナの事もいつも心配してくれて、そのせいでちょっと俺の居場所無かったけどね。でも、友達思いな女の子だとも思ってる」

 上手く話がまとまらず、自分でも何言ってるか分からなかった。でも、嘘はついていない。全部本心だ。
 回答を聞いた彼女は俺から目を逸らし、前を向いた。そして数秒後。

「そっか……ねぇバッド?」

「ん?」

 彼女は俺の方を向き直し、目を見てこういった。

「ごめん。私バッドの事散々酷いこと思ってたし、言ってたし、めんどくさいことさせた」

「はえ?」

 謝罪の言葉に呆気に取られているなか、エアリスの話は止まらなかった。

「初めは本当に魔力が多いだけで全く努力してないウザイやつだと思ってた」

 彼女は身体の向きを前に戻し、話を続けた。

「でも、シュナはずっとバッドの事すごい人なんだ、努力でここまで来た人なんだって言ってくれてたの」

 彼女は立ち上がり空を見上げる。

「それでも私は信じようとしなかった。悔しくて悔しくて仕方がなかったから。所詮私みたいな超平均みたいな人間は勝てないんだって」

 エアリスは振り返り、俺の方を再度向いた。その後も静かに俺は話を聞き続ける。

「ある時見たの。バッドが1人で魔法の練習してるとこ。それから毎日見てた。グルドのやつと喧嘩したところも見てた」

「え、あ、そうだったのか……」

「うん。それから一緒に勉強して、その時も思った。普通に勉強しただけじゃこんなこと出来ないなって。やっと気がついたの。私最低だって。嫌いなお母さんと同じ事してるなって」

 嫌いなお母さん。エアリスの家庭事情なんてものは全く知らなかった。何があったのか、なんでお母さんが嫌いなのか。

 悩んだ。ここで聞いていいのか。嫌なことを思い出させてしまうんじゃないかとも思った。

「どうして……お母さんの事……」

 俺は知っておくべきだと思った。エアリスという少女の気持ちを。知りませんでしたで済まない話だと思った。しかし、エアリスの回答は……

「なによ。言ってどうするのよ」

「ま、まぁ……そうだよね」

 ミスった!  完全に采配ミスったよ!  バッド君!

「簡単に言えば……私は努力して当然って言われ続けながら育てられた。平均以下のお前は努力しろって。勝手に期待されて、勝手に落胆されて。仕舞いにはお母さんの欲を満たすためだけに努力させられてた」

 簡単に言えばと言いつつもかなり難しい話だとは理解出来た。努力の強要。それが彼女にとってどれほど辛かったのかは分からなかった。

「でも……さ。こうして努力して、俺なんかよりももっと凄い力使えて……プラスに捉えでも俺はいいと思うけどね」

 俺の中で努力というものは常にプラスイメージだ。強くなるために努力する。見返すために努力する。どれも最後に辿り着くのは良い未来のはずだ。

「そうかもね。でも、努力することは当たり前じゃない。別にしなくたって生きていけるし、バッドみたいに魔力量とか運動神経が元々優れてるんだったら努力しなくてもいいの」

「だけど……」

「私は努力なんてしたくなかった。めんどくさかった。一番はお母さんの為にってのが嫌だった」

 疲れたのかエアリスは俺の隣に戻り、座ってまた話しを続けた。

「さっきエアリス、お母さんと同じ事してるって言ってたけど……それは違うんじゃないのか?」

「同じよ。私はバッドに努力を遠回しな強要してた違う?」

 考えたこともなかった。でも、捉え方的にはそう思えなくもない。そこに気がついた彼女は本当によく周りが見れてると思う。

「まぁ……そうなるかもしれないね。でも、俺が努力するのはエアリスに強要されてなんかじゃないし……」

「え?  そうなの?」

 驚いた表情でこちらを見つめるエアリスに俺は「うん」と答えた。
 沈黙が続く。そして、エアリスが口を開く。

「じゃ、もう終わりね!  寮に帰って勉強しなきゃ」

 エアリスはすぐさま立ち上がり、歩き出した。しかし、彼女の歩き方は変だった。

「おーい。同じ方の手と足出てるぞ」

 それを聞いてギクッ、と肩を揺らしもう一度こちらにふりかえって走ってきた。

「何よあんた!  私が謝ったからって上から来るつもりね?」

「違うよ!  俺はやっと対等に話せるって思っただけだ!」

「えぇ。いいわ、対等で。でも、言っとくけどあんたを認めた訳じゃないから!」

「あぁ。いいよ。認めてなんて一言も言ってないからね!」

 俺は立ち上がりエアリスに向かって抗議した。
 あぁ……良かった。これは紛れもない進歩だ。彼女と対等に言い合える。これだけで得たものは大きい。

「ま、あんたのこと嫌いじゃないから。そこだけは心配無用よ」

 そう言い放って振り返り、歩き始めた。
 今回はちゃんと歩けている。

「俺もどちらかと言えば嫌いじゃないかな」

 俺は彼女の横まで走り、並んで寮へと戻っていった。
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