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第2章
第25話 戦いのその後
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「勝った……のか……?」
ゴブリンから吹き出した青黒い血を浴びた俺は、その場に立ち尽くしていた。
剣を持っている右手がジリジリと痺れる。
真っ二つに切り裂かれたゴブリンは目の前に倒れていた。
久しぶりに死体を見たな……もう慣れちまったと思ってたけど……そうでも無いみたいだ。
シュナさんを外に連れていかなきゃ。あと、ストローグさんは大丈夫かな。
いや、きっと大丈夫だ。ストローグさんは強い。俺が心配していいような人じゃ……あれ?
シュナさんが倒れているところに1歩踏み出そうとした時だ。足が動かない。と、言うよりも動かした瞬間倒れてしまいそうだった。
やばい……後先考えず魔力使っちまった……倒れる……いや、倒れるな……!
フラフラとシュナさんの所へと向かう。
ほんの数メートル。その数メートルが何百メートルかと思えるくらい、視界は歪んでいた。
くっそ! 馬鹿野郎! 何回目だよこの馬鹿野郎!!
目の前の敵を倒すことで精一杯になってた俺は、完全にキャパオーバーしてしまっていた。
せめて……彼女を……外に……!
1歩1歩俺は進んだ。何分経っただろうか。やっとの思いでシュナさんの目の前まで辿り着いた。
視界はまだ揺らぐ。
外に……連れていかなきゃ……
俺が屈み、シュナさんを持ち上げようとしたその時だった。
トンっ
「わ、わぁ……」
「おつかれさん」
その声を聞いた瞬間、安心したのか、本能的に気を失ってしまった。
☆☆☆
「……わっ!!!」
俺は飛び起きた。やばいやばい……どれくらい寝てたんだ……
「おぉ。意外と起きるの早かったな」
そこには身体中に包帯を巻いたストローグさんがいた。
そして、ここはストローグさんの家のベッドであった。服を貸した俺は、ブカブカのストローグさんの服を着させられていた。
「ストローグさん……ってか、大丈夫ですか!?」
「俺の心配なんてすんなバカ。お前の方こそ動けんのか」
俺は手足を動かし、寝ていたベッドから出て立ち上がった。
「意外と行けますね……」
「なら良かった。んで、お前。あの力使ったのか?」
「は、はい……」
ストローグさんはソファから立ち上がり、こちらに無言で近づいてきた。
ごめんなさいごめんなさい! 元気だからって殴るのは……
「……!」
「アホ! ビビりすぎだ」
ストローグさんの手は、俺の頭をわしゃわしゃと撫でていた。
「……よくやった。シュナちゃんはチョウさんの治癒魔法のおかげで、安静にすれば命に別状は無いみたいだぞ」
「よかった……!」
もし、あの時、ストローグさんが間に合っていなかったら。恐らく俺とシュナさんの命はなかっただろう。
そして、この人がここまで強くなかったら。みんな死んでいただろう。
「でも、もっと使い方を考えろ。前の時といい出し惜しみしなさすぎだ。魔力ほぼゼロだったぞ」
「すいません……」
「今後も極力慣れるまでは俺の前以外では使うの禁止だ。いいな?」
「はい……」
コンコン
「ストローグよ。入るぞ」
「あ、チョウさん。どうぞ」
チョウさんが玄関のドアを開け、中に入ってきた。
俺は小さく会釈をし、会話を始めた。
「今回の件は本当に助かったぞ。ストローグ、バッド。ありがとう」
俺の名前覚えてる……意外と出来てる人なんだな……
「いえいえ、シュナさんを助けたのは彼なんで。俺は簡単なモンスター討伐しただけっすよ」
「ほっほっほっ。わしが頼んだのはモンスター討伐だけじゃよ。にしても、その怪我もう一度見せろ。魔法かけ直しとくからのう」
そう言われたストローグさんは、包帯をクルクルと解き始めた。
包帯が解かれれば解かれるほど、俺は目を疑った。
「……血?」
包帯が真っ赤に染っていた。ストローグさんの血で。
「ストローグさん! 本当に……大丈夫なんですか!?」
「あーうるさいって! 久しぶりにあのレベルのモンスターと対峙したから身体がなまってたんだよ」
包帯が全て解けると、肩や腕、胸からお腹にかけてなど、たくさんの傷跡があった。
「ほれ、こっちに来い」
ストローグさんは村長さんの所へと歩いていき、治癒魔法を受けた。
チョウさんが伸ばした両手から、小さい光が傷跡に入り込み、血がみるみるうちに止まっていく。
そういえば、ケイトに治してもらった時もこんな感じだったな。
「ほれ、もう大丈夫そうじゃ。2回魔法かけてるから安静にしとけば傷口はもう開かん」
「ありがとうございます、チョウさん」
「じゃ、わしはもう行くぞい。今回は本当に2人ともありがとうな」
「い、いえ! 俺の方こそ……足でまといになっちゃってて……ストローグさんにも負担かけちゃって……俺……もっと強くなります!!」
「ほっほっほっ。そんなこと聞いてないぞ? あと、リュナの所に顔だしてから帰るといい。お礼がしたいと」
リュナさんとは確か、シュナさんのお母さんだ。
「そういうことなら、俺がこいつ家まで届けるんでその途中にでも」
「ほな」
そう言ってチョウさんは家を出ていった。
「家までなんて……大丈夫ですよ?」
「いーやだめだ。俺がお前を連れてって危険な目に遭わせてんだ。少しくらい話させろ」
ストローグさんは意外としっかりしてる人なのかもしれない。なんだか勘違いしてたな。
「バッド。歩けるか?」
「はい。大丈夫です」
「そりゃそうだよ。チョウさんがお前もさっき治癒してたんだからな。ははははは!」
「そ、そんな笑わなくてもいいじゃないですか!」
俺はストローグさんのところまで走っていき、傷跡を殴るふりをした。
「ちょ、お前あぶねぇだろ!!」
「今の俺は……負けませんよ……!」
「うるせぇ。行くぞ」
ポコン、と頭をぶたれた俺は、首根っこを掴まれ、外へと運ばれた。
ゴブリンから吹き出した青黒い血を浴びた俺は、その場に立ち尽くしていた。
剣を持っている右手がジリジリと痺れる。
真っ二つに切り裂かれたゴブリンは目の前に倒れていた。
久しぶりに死体を見たな……もう慣れちまったと思ってたけど……そうでも無いみたいだ。
シュナさんを外に連れていかなきゃ。あと、ストローグさんは大丈夫かな。
いや、きっと大丈夫だ。ストローグさんは強い。俺が心配していいような人じゃ……あれ?
シュナさんが倒れているところに1歩踏み出そうとした時だ。足が動かない。と、言うよりも動かした瞬間倒れてしまいそうだった。
やばい……後先考えず魔力使っちまった……倒れる……いや、倒れるな……!
フラフラとシュナさんの所へと向かう。
ほんの数メートル。その数メートルが何百メートルかと思えるくらい、視界は歪んでいた。
くっそ! 馬鹿野郎! 何回目だよこの馬鹿野郎!!
目の前の敵を倒すことで精一杯になってた俺は、完全にキャパオーバーしてしまっていた。
せめて……彼女を……外に……!
1歩1歩俺は進んだ。何分経っただろうか。やっとの思いでシュナさんの目の前まで辿り着いた。
視界はまだ揺らぐ。
外に……連れていかなきゃ……
俺が屈み、シュナさんを持ち上げようとしたその時だった。
トンっ
「わ、わぁ……」
「おつかれさん」
その声を聞いた瞬間、安心したのか、本能的に気を失ってしまった。
☆☆☆
「……わっ!!!」
俺は飛び起きた。やばいやばい……どれくらい寝てたんだ……
「おぉ。意外と起きるの早かったな」
そこには身体中に包帯を巻いたストローグさんがいた。
そして、ここはストローグさんの家のベッドであった。服を貸した俺は、ブカブカのストローグさんの服を着させられていた。
「ストローグさん……ってか、大丈夫ですか!?」
「俺の心配なんてすんなバカ。お前の方こそ動けんのか」
俺は手足を動かし、寝ていたベッドから出て立ち上がった。
「意外と行けますね……」
「なら良かった。んで、お前。あの力使ったのか?」
「は、はい……」
ストローグさんはソファから立ち上がり、こちらに無言で近づいてきた。
ごめんなさいごめんなさい! 元気だからって殴るのは……
「……!」
「アホ! ビビりすぎだ」
ストローグさんの手は、俺の頭をわしゃわしゃと撫でていた。
「……よくやった。シュナちゃんはチョウさんの治癒魔法のおかげで、安静にすれば命に別状は無いみたいだぞ」
「よかった……!」
もし、あの時、ストローグさんが間に合っていなかったら。恐らく俺とシュナさんの命はなかっただろう。
そして、この人がここまで強くなかったら。みんな死んでいただろう。
「でも、もっと使い方を考えろ。前の時といい出し惜しみしなさすぎだ。魔力ほぼゼロだったぞ」
「すいません……」
「今後も極力慣れるまでは俺の前以外では使うの禁止だ。いいな?」
「はい……」
コンコン
「ストローグよ。入るぞ」
「あ、チョウさん。どうぞ」
チョウさんが玄関のドアを開け、中に入ってきた。
俺は小さく会釈をし、会話を始めた。
「今回の件は本当に助かったぞ。ストローグ、バッド。ありがとう」
俺の名前覚えてる……意外と出来てる人なんだな……
「いえいえ、シュナさんを助けたのは彼なんで。俺は簡単なモンスター討伐しただけっすよ」
「ほっほっほっ。わしが頼んだのはモンスター討伐だけじゃよ。にしても、その怪我もう一度見せろ。魔法かけ直しとくからのう」
そう言われたストローグさんは、包帯をクルクルと解き始めた。
包帯が解かれれば解かれるほど、俺は目を疑った。
「……血?」
包帯が真っ赤に染っていた。ストローグさんの血で。
「ストローグさん! 本当に……大丈夫なんですか!?」
「あーうるさいって! 久しぶりにあのレベルのモンスターと対峙したから身体がなまってたんだよ」
包帯が全て解けると、肩や腕、胸からお腹にかけてなど、たくさんの傷跡があった。
「ほれ、こっちに来い」
ストローグさんは村長さんの所へと歩いていき、治癒魔法を受けた。
チョウさんが伸ばした両手から、小さい光が傷跡に入り込み、血がみるみるうちに止まっていく。
そういえば、ケイトに治してもらった時もこんな感じだったな。
「ほれ、もう大丈夫そうじゃ。2回魔法かけてるから安静にしとけば傷口はもう開かん」
「ありがとうございます、チョウさん」
「じゃ、わしはもう行くぞい。今回は本当に2人ともありがとうな」
「い、いえ! 俺の方こそ……足でまといになっちゃってて……ストローグさんにも負担かけちゃって……俺……もっと強くなります!!」
「ほっほっほっ。そんなこと聞いてないぞ? あと、リュナの所に顔だしてから帰るといい。お礼がしたいと」
リュナさんとは確か、シュナさんのお母さんだ。
「そういうことなら、俺がこいつ家まで届けるんでその途中にでも」
「ほな」
そう言ってチョウさんは家を出ていった。
「家までなんて……大丈夫ですよ?」
「いーやだめだ。俺がお前を連れてって危険な目に遭わせてんだ。少しくらい話させろ」
ストローグさんは意外としっかりしてる人なのかもしれない。なんだか勘違いしてたな。
「バッド。歩けるか?」
「はい。大丈夫です」
「そりゃそうだよ。チョウさんがお前もさっき治癒してたんだからな。ははははは!」
「そ、そんな笑わなくてもいいじゃないですか!」
俺はストローグさんのところまで走っていき、傷跡を殴るふりをした。
「ちょ、お前あぶねぇだろ!!」
「今の俺は……負けませんよ……!」
「うるせぇ。行くぞ」
ポコン、と頭をぶたれた俺は、首根っこを掴まれ、外へと運ばれた。
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