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第2章 少年期 剣術・魔術成長編
第21話 エイミーちゃん大号泣大作戦
しおりを挟むケントルムに行った日の夜。
「はぁ……ちょっと疲れたわグラリス……」
「だめだよリューネ。ここからが本題なんだから」
俺とリューネは何かを終えて今、部屋で何かをしようとしている。それは……
「今から手紙を書くんだよ!」
「手紙?」
「そう。名ずけて! エイミーちゃん大号泣大作戦だ!」
手紙。それはいちばん手っ取り早く感謝を伝えられる方法。
かと言って気持ちがこもってないわけじゃない。
むしろめっちゃこもる。
「……私、手紙書いたことないのよね……」
「大丈夫だよ。自分の思ってるエイミーへの気持ちを字にして表せばいいだけだから」
俺はこっちの世界に来てコソコソしていることがあった。
それは字の勉強だ。
話せても読めなかったり書けなかったりしたら意味が無い。
本を読み聞かせてもらっていた頃から俺は毎日コツコツ、独学で勉強していた。
最近ではリューネに教えることができるようにもなった。
リューネは物覚えが早く、俺より早く全ての字を読み書きできるようになってしまった。
え? 俺の教え方が上手いからって? そんな褒めないでくれよ。
「グラリス。ちょっと聞いてんの?」
「え、あ、な、なんだ?」
「……そんなに長くかける自信ないけど……それでもエイミーさんは喜んでくれるの……?」
「大丈夫。こういうのは気持ちが大事なんだ。リューネは……この前喜んでくれなかったのか?」
「すごい喜んだわよ……」
こうして疲れながらも俺たちは、エイミーへ送る手紙を便箋に書き連ねて行った。
──────
──翌日──
「「「「エイミー! 二十歳のお誕生日
おめでとう!!」」」」
エイミーのお誕生日パーティが始まった。
このことは一切エイミーには伝えておらず、夜ご飯の時、エイミーはポカンとした表情で頭にハテナを浮かべていた。
「あ、ありがとう……ございます……」
エイミーは並べられた豪華な食事を一通り眺める。
まだ、状況を掴めていない様子だった。
沈黙が続く中、エイミーがその沈黙を破った。
「……み、みなざん……あ、ありがどう……ございまず……」
エイミーは必死に涙をこらえて二度目のお礼を俺たちに向かって言った。
「エイミー泣くな! 今日はお前が主役だ! さぁ食べるぞ!」
お父さんがそう喝を入れ、みんなで各々のグラスを持った。
「じゃぁエイミー。乾杯の一言お願いね」
エイミーはこぼれ落ちそうな涙を拭い話し始めた。
「……はい。皆さん。このような機会を作ってください本当にありがとうございます! まだまだ未熟者ですが、日々精進しますので、これからもエイミーをよろしくお願いします!! 乾杯っ!!」
その合図に合わせて全員が「乾杯っ!!」と、グラスをカチンっと、ぶつかりあわせた。
エイミーの誕生日パーティと言っても正直俺も楽しみだったのだ。
なんでかって? それは……お母さんの手料理フルコースだからだ!!!
こうして家族五人で和気あいあいと、夜ご飯を楽しんだ。
一通りご飯を食べ終わり、上記の片付けが終わった頃、俺はエイミーを部屋に呼び出した。
「ごめんエイミー。夜遅くに」
「いえ、大丈夫ですよ。本当に今日はありがとうございましたお二人とも」
そう言いながら頭をエイミーは下げた。
「な、なんでエイミーさんが頭下げるのよ! 今日の主役はエイミーさんなのよ!」
そう言ってリューネがエイミーの元に近付く。
だが、一向にエイミーの頭が上がってこない。
どうしたんだ? ぎっくり腰か? いやいや二十歳でぎっくり腰はないでしょ~……
「ごめんなざい……ちょっどざいぎん……るいぜんゆるぐで……」
「エ、エイミー! な、泣くのはまだ早いって!」
エイミーはまだ何もしていないのに感極まって泣いてしまっていた。
余程今回のパーティが嬉しかったのだろう。なら俺たちも企画したかいがあったと思える。
「ちょ、グラリス……あなた変なこと言わないの……」
リューネが小声で俺に向かってそう言った。
……ん? 俺なんか変なこと言ったか……?
「ま、まだはやいっで……どういうごどでずが?」
エイミーは涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。
……あ、しまった。
俺はまだサプライズがあることをエイミーに言っていなかった。てか気付かれていなかったのだ。
「あ、えっと、それは……とりあえず! 涙拭いて!」
それを聞いたエイミーは「わがりまじだ」と言って直ぐに泣き止んだ。
よしよし偉い子だ。
「じゃぁリューネ。昨日作ったやつ渡してあげて」
恥ずかしそうに斜め下を見ながらモジモジするリューネ。
多分こういうのは初めてだったのだろう。緊張しているのか。可愛いなもう。
「え、えっとエイミーさん。二十歳のお誕生日おめでとうございます」
そう言ってリューネはひとつの少し分厚い手紙入れをエイミーに渡した。
「こ、これは……?」
「僕とリューネからのお手紙です。あとはちょっとしたプレゼントも入ってます」
「……今……呼んでも……いいでずが?」
もう泣きそうになってる……なんか俺まで泣きそうになってきた……
「うん。いいよ」
エイミーはその封筒を開け、二枚の手紙を読んだ。
内容はちょっと恥ずかしいからカットだ。想像におまかせする。
「うわぁぁぁぁぁぁん! グラリス様ぁ! リューネ様ぁ! ありがとうございますぅぅぅ!!」
エイミーは大号泣しながら俺とリューネに抱きついた。
エイミーがこんなになって抱きついてくることは初めてだった。
エイミーの背中を擦りながら、俺はもう一言添える。
「中にもうひとつ入ってますよ。喜んでくれるかは分かりませんが」
「えっと……これですか?」
泣きすぎたのかすぐに涙が止まったエイミーは封筒の中からひとつ何かを取りだした。
「これって……ヘアゴム……ですか?」
そう。これが俺とリューネが作ったエイミーへの最高のプレゼントだ!
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