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0 きらきら、光る
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広い礼拝堂の真ん中に、ぽつんと小さな人影が立っていた。
白い制服に身を包んで、祈るように手を組んで……宙のどこかを見上げるように。一人ぼっちで佇むその少年に――俺は、そっと声をかける。
「シエルくん」
すると、彼はぱっと振り向いた。
長い前髪に隠れ気味の銀色の瞳に、きらりと光が宿る。
「ノア!」
「そろそろ始業の時間になりますよ。教室に戻りませんか?」
「ん……うん」
名残惜しそうに後ろを見ながら、とてとてと俺の方に駆け寄ってくる少年――シエル。柔らかな髪が、ふわふわと揺れる。
「どこにいるのかと思ったら、礼拝堂でしたか」
「……探した?」
「ええ、まあ」
シエルは、休み時間になるとよく姿を消す。一体どこに行っているのか、俺も気になっていたところだった。
他の部屋や、庭などを歩き回って……ようやくシエルを見つけたのが、この礼拝堂。ここを使うのは何かと特別なタイミングが多いので、俺からしたら、入るのにやや緊張するような場所なのだが。
「ここね、シエルのお気に入りなの。……シエル、人が多いとこ、あんまり得意じゃないから」
シエルにはむしろ、安心できる場所のようだった。
小さな街の丘の上に建てられたエレンゼ教会、その礼拝堂。こぢんまりとしているが歴史のある建物で、一般開放日には街の人々で賑わう空間。
けれど今、ここには、シエルと俺の二人しかいない。
清らかで、静かで……不思議と、時間の流れがゆっくりに感じられる。
「……」
シエルが再び、視線を宙に浮かせた。
さっきから何を、そんなに熱心に眺めているのだろう? と、その視線の先を追いかけてみれば――そこには、大きな窓がある。それはただの窓ではなく、色とりどりの光を湛えた。
「ステンドグラス……気に入っているんですか?」
「……ん。綺麗、だから」
教会にはよくあるようなステンドグラス。けれど、精巧に凝らされた美しい模様は、確かに印象的なものだろう。
……特に、シエルのような、まだ世間を知らない子どもからしたら。
「ノア、知ってる? このステンドグラス、神様のお話が描いてあるんだよ」
「神様の……」
「うん。みんなを救って、みんなを導いた……そういうお話」
『神様』というのは、エレンゼ教会で信仰している聖なる存在のこと。曰く、『神様』とやらは遍く人々に救いの手を差し伸べ、祝福を与えてくれるのだという。
そしてシエルは、その『神様』を純粋に信じ込んでいる。
鮮やかな光を映し込むその瞳が、それを物語っている。
「……今のシエルの力じゃ、怪我を治すくらいしか出来ないけど。いつかは神様のお話みたいに、一人でも多くの人を救えるようになったらいいなって……そう思うの」
「……」
そう呟いて、胸に手を当てるシエルの姿を……俺は、隣で静かに見守っていた。
――シエル・クロムハート。
両親を事故で亡くし、教会が運営する孤児院に入ったが……普通の人間より遥かに多い『聖魔力』を所持していることが判明し、エレンゼ教会所属の神官に引き取られた。今はエレンゼ教会聖歌隊にて、聖魔術を含む様々な教育を受けている。やや人見知りではあるものの、順調に成長していると言って良いだろう。
これは、俺が持っている、シエルに関する情報だ。
シエルは、特別な力を持っている。悪しきものを浄化する『聖魔力』だ。
そして、その魔力で『治癒魔術』を使うことが出来る。人間や、色々な生き物の怪我を治すことが出来るのである。
「……なれますよ。シエルくんなら」
「そう……かな?」
「ええ。きっと。あなたのその力は、あなたが思っている以上にすごいものなんですよ?」
――シエルは、何も知らない。
俺の正体が魔族であることも。
シエルが、いつか俺たち魔族を滅ぼし得る存在になることも。
白い制服に身を包んで、祈るように手を組んで……宙のどこかを見上げるように。一人ぼっちで佇むその少年に――俺は、そっと声をかける。
「シエルくん」
すると、彼はぱっと振り向いた。
長い前髪に隠れ気味の銀色の瞳に、きらりと光が宿る。
「ノア!」
「そろそろ始業の時間になりますよ。教室に戻りませんか?」
「ん……うん」
名残惜しそうに後ろを見ながら、とてとてと俺の方に駆け寄ってくる少年――シエル。柔らかな髪が、ふわふわと揺れる。
「どこにいるのかと思ったら、礼拝堂でしたか」
「……探した?」
「ええ、まあ」
シエルは、休み時間になるとよく姿を消す。一体どこに行っているのか、俺も気になっていたところだった。
他の部屋や、庭などを歩き回って……ようやくシエルを見つけたのが、この礼拝堂。ここを使うのは何かと特別なタイミングが多いので、俺からしたら、入るのにやや緊張するような場所なのだが。
「ここね、シエルのお気に入りなの。……シエル、人が多いとこ、あんまり得意じゃないから」
シエルにはむしろ、安心できる場所のようだった。
小さな街の丘の上に建てられたエレンゼ教会、その礼拝堂。こぢんまりとしているが歴史のある建物で、一般開放日には街の人々で賑わう空間。
けれど今、ここには、シエルと俺の二人しかいない。
清らかで、静かで……不思議と、時間の流れがゆっくりに感じられる。
「……」
シエルが再び、視線を宙に浮かせた。
さっきから何を、そんなに熱心に眺めているのだろう? と、その視線の先を追いかけてみれば――そこには、大きな窓がある。それはただの窓ではなく、色とりどりの光を湛えた。
「ステンドグラス……気に入っているんですか?」
「……ん。綺麗、だから」
教会にはよくあるようなステンドグラス。けれど、精巧に凝らされた美しい模様は、確かに印象的なものだろう。
……特に、シエルのような、まだ世間を知らない子どもからしたら。
「ノア、知ってる? このステンドグラス、神様のお話が描いてあるんだよ」
「神様の……」
「うん。みんなを救って、みんなを導いた……そういうお話」
『神様』というのは、エレンゼ教会で信仰している聖なる存在のこと。曰く、『神様』とやらは遍く人々に救いの手を差し伸べ、祝福を与えてくれるのだという。
そしてシエルは、その『神様』を純粋に信じ込んでいる。
鮮やかな光を映し込むその瞳が、それを物語っている。
「……今のシエルの力じゃ、怪我を治すくらいしか出来ないけど。いつかは神様のお話みたいに、一人でも多くの人を救えるようになったらいいなって……そう思うの」
「……」
そう呟いて、胸に手を当てるシエルの姿を……俺は、隣で静かに見守っていた。
――シエル・クロムハート。
両親を事故で亡くし、教会が運営する孤児院に入ったが……普通の人間より遥かに多い『聖魔力』を所持していることが判明し、エレンゼ教会所属の神官に引き取られた。今はエレンゼ教会聖歌隊にて、聖魔術を含む様々な教育を受けている。やや人見知りではあるものの、順調に成長していると言って良いだろう。
これは、俺が持っている、シエルに関する情報だ。
シエルは、特別な力を持っている。悪しきものを浄化する『聖魔力』だ。
そして、その魔力で『治癒魔術』を使うことが出来る。人間や、色々な生き物の怪我を治すことが出来るのである。
「……なれますよ。シエルくんなら」
「そう……かな?」
「ええ。きっと。あなたのその力は、あなたが思っている以上にすごいものなんですよ?」
――シエルは、何も知らない。
俺の正体が魔族であることも。
シエルが、いつか俺たち魔族を滅ぼし得る存在になることも。
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