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第二話「宗教勧誘にご用心」

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「銀治ー、ありがとねー」

 頬を軽くかきながら微笑む彩香が俺に話しかけてきた。なんと笑顔が美しいのか……。

「勿体なきお言葉痛み入ります……」
「え……あー、はーい……」

 はぁ、久しぶりに出会って感謝されるとは素晴らしきかな人生……。
 女神からの感謝を真摯に受け止め、自分の胸を押さえる。

「彩芽、大丈夫?」
「……うん」

 ハッ!
 そういえば、さっき茶髪に手を掴まれてから彩芽の様子がおかしかったのか。見惚れてしまって忘れていた……。

 彩香も妹を見つめる目がどことなく悲しそうに見える。

「あ……あや……ごほんっ。妹は大丈夫なのか?」

 くっ……下の名前で呼びかけることも出来ない臆病者か俺はぁあああああ!
 心の中で頭を抱えて悶絶した。

「う、うん。実は彩芽、男の人苦手でさー……あはは……」

 彩香は何か誤魔化すように笑っている。

「……」

 あの時、俺は大丈夫だったのかという疑問を抱かずにはいられない。

「彩香……もう大丈夫だから……」
「お、復活した?」
「うん……」

 彩芽は元気の無い声で返事をし、姉の服を掴んだ手は震えたままだった。どういうことだろうか。
 よく分からないまま彩芽を見つめていると、一瞬だけこちらに視線を向けてくれた。

「その……」
「はい、何でしょうっ!」

 自然と体が彩芽の前に跪いて頭を下げる。
 彩芽に言った「一生守らせてください」という決意の元に、俺は彼女に対して騎士のように振る舞うと決めて――

「いや、そういうのいいから……」

 拒否されてしまった……。

「そうですか……」

 立ち上がって彩芽の顔が見える位置まで視線を落とす。姉の服を掴みながらもじもじする姿がなんとも愛くるしいのでございます。可愛いのでございます。

「そ、その……あ、あの……」

 こちらを見つめたり、かと思うと視線を逸らしたりする彩芽。口が開いたり閉じたり……。
 こ、これ以上の萌えは俺には危険すぎる……! 心が耐えられないかもしれないっ……!

「あ、あの、その……あり……ありが――」
「グハァッ……!?」

 ガハッ……なんと凄まじい破壊力なんだ……吐血は……さすがにしてないな。

「なんでそこでまた跪くのよっ!」
「か、可愛すぎて思わず……こんなの素人が耐えられる訳がないでしょう……」

 腰に手を当てながら見下ろしてくる彩芽と言う名の天使。風になびく髪も美しい。
 それに、水色のワンピースがなんともお似合いで――

「グハァッ……!?」

「なんで二回目っ!?」
「これは、耐えがたい……耐えがたい何かだ……」

 俺の語彙力は既に崩壊しているようだな……。

「ふんっ……」
「フッフッフー、彩芽は素直じゃないなー」

 腕組みして軽く怒っている彩芽の頭をそっと優しく撫でる彩香。

「もー、撫でるな! そこで笑うなっ! 胸当ててくんな!」
「フッフッフー」

 彩芽は必死に抵抗しているが身長差からして無理だったらしい。そのまま撫でられ続けている。

「もー……。まぁ、その、あれよ……」

 彩芽がこちらを見下ろしながら小声で話す。

「……とね」

 何かを言い終え、ふんっと顔を逸らす彩芽。

「え、今なんて言いました!? 何て言ったんですか!?」
「もう言ってやんない……」

 プイッと顔を背ける彩芽。

「そ、そんなっ――グフッ……!」

 くっ……蓄積されたダメージとツンの相乗効果で召されるっ……。

「ほら、彩香行こっ!」
「お、ちょちょ……服伸びちゃうよー」

 彩香の服を引っ張ったまま天使が学外へ出ようとする。

「ま、待ってくれ!」
「フッフッフ、聞き逃した銀治が悪いぞー」

 振り向きながら微笑む彩香は、ニッシッシと口に手を当てながら笑っている。

「また何かお礼させてねー」

 手を振りながら天使に連れ去られていく彩香に心を撃たれつつも必死に追いかける!
 校門を出て数歩の所で二人の背中を捉えた。

「ちょっと、待ってくれと言ってるじゃないか……」

 追いついてから手についていた砂を払い二人に声をかけると、彩香は少し屈んで妹に話しかけ始めた。

「彩芽ー、せめてちゃんとお礼言ったらー?」
「言ったもん……」

 後ろ姿で話し合う姿すら萌えるとはどういうことなんだ……。彩香の横顔は微笑み、彩芽は頬を膨らませて拗ねている。

 これは、つまり、尊いということだな……。

「でも、聞こえてないって言ってるよー」
「向こうが悪いでしょ……ふんっ……」
「もー、素直じゃないなー。……よし、なら仕方ないっ」

 彩香は言い終えるとおもむろにリュックサックの中から何かを取り出そうとした。

「急にどうしたのよ」
「ちょっと待ってねー……お、あったあった。銀治ー」

 彩香という女神が振り返り俺に微笑んでいる。

「はいっ! 何でしょうか!」

 俺の体は知らないうちに再び跪いてしまっていた。
 俺はあと何回地面に顔を近付ければ許されるんだ……!

「いや、二回目は面白くないかなー……にゃはは……」
「すみません、つい勢いで――」
「んじゃー、はいっどうぞー」

 俺の声は彩香に遮られた。

「……え?」

 見上げるとそこにはパツパツに張ったTシャツの向こう側にたわわな、たわわな胸が……じゃなく、差し出された手にはスマホが握られていた。
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