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第二話「宗教勧誘にご用心」

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「お礼も兼ねて、連絡先交換しようかなーって?」

 首を少し傾けて優しい声をかけてくれる彩香。膝を曲げずに上半身だけが迫っているせいで余計に胸への意識がっ……。

「……っ……っ!」

 あれ……ちょっと待ってくれ……あまりの感動で声が出ない……。くそっ……それに加えて、スマホよりも眼前に揺れる彩香の胸に目が行くのは男の性なのかぁあああ……!

 彩香も彩香でなんという兵器を所持しているんだ……。姉妹で別々の兵器を所持しているなんて鉄壁過ぎやしませんかね……。

「ちょっとお姉ちゃんっ! やめときなよ、そんな奴と連絡先交換するだなんて……」
「まぁまぁ、彩芽は無理しなくていいからさー」
「はぁっ!? 無理なんてしてないし!」
「んじゃ、彩芽も交換しとくかい?」

 ニヤリと彩芽に向けて笑う女神。

「むぅ……」

 た、耐えがたい何かが目の前で……思わず尊いダメージが俺に襲いかかって――

「グハァッ……!」
「また!?」

 呆れつつも驚く彩芽の声。

「ふふ……銀治ってなんか変わってるよねー」

 にんまりとした笑顔を向けて話しかける彩香。

「す、すみません……なんか目の前で俺にとって核戦争みたいなのが起きてるので……」
「何言ってるのか意味分かんないし……」

 面倒臭そうな顔で彩芽がため息をついた。その後――

「ほら……さっさとスマホ出しなさいよ……」

 差し出された彩芽の手。

「ムッフッフ……素直じゃないなー」
「うっさい!」

 えっと、見上げた目の前に天使と女神が……ここは天国ですか。やはり、さっきの段階で召されたのかもしれない……。

「彩芽、スマホ出さないと交換出来ないよ?」
「いや、他人にスマホの画面見せるとかありえないから……」
「ん? 私は平気だよ?」

 きょとんとした純粋な顔で妹を見つめる彩香。
 というか平気なのか……という、俺の思いは彩芽と一緒だったらしく、彩芽も引いていた。
 直後、彩芽はハッとすると彩香からスマホを取り上げた。

「ちょっと何するのさー!」
「嫌な予感がしただけ……」

 彩芽はそう言うとしゃがんでワンピースが地面に着かないよう、膝の裏にそっと手を入れてワンピースを折りたたんだ。
 跪いたままの俺と彩芽の目線が同じ高さに。

「ちょっと……この待ち受け……どういうこと……」

 苛ついた表情で姉を睨む彩芽。

「今日の彩芽の寝顔だよ!」

 悪びれた様子もなくハキハキとグーサインでしてやったり顔の彩香。

「消してって言ったのに……もー……消去っと……」
「「あぁああああああああ……!」」

 俺も消される前に見たくて叫んでしまっていた。

「なんであんたまで叫んでんのよ……」

 天使の寝顔が目の前にあったのに消されたなんて……俺の人生後悔しかなくないか……。

「ほ、ほら、銀j……ごほんっ……あんたのスマホ貸しなさいよ……」

 嫌々と言わんばかりに差し出された彩芽の手。

「はい……」

 落ち込みながらも自然とポケットからスマホを取り出して彩芽へと渡す。俺のスマホは親指と人差し指で摘ままれた後、地面にポイっと置かれた。そんなに触りたくないのか……。

「ほっほー、彩芽が自分からとは珍しいねー」
「うっさい……」

 姉のスマホと俺のスマホを両手に持ち、巧みに操作している彩芽にしばらく見惚れていた。

「はい、返すわ」

 地面に置かれたままの俺のスマホ……。操作した指はワンピースで拭かれたのはさすがにショックを隠せない。

「彩芽、返す時は直接返さないとー」
「触りたくないもん」

 触りたくないって。

「初日に白パンダイブしてきた天使が何言って――」

 そこまでで俺の口は慌てた彩芽の手によって塞がれた。

「はぁ!? 何言ってんの! ばっかじゃないの! くたばれ! 散りくたばれゲス野郎!」
「はひはほうほはいはふ……」

 ――悪口よりも触れてくれたことが嬉しい銀治であった。

「ひゃぁっ……!」

 あぁ、せっかく触れてくれた手が離れてしまった……。

「彩芽……」
「ん?」

 その声に俺と彩芽が同時に彩香を見上げた。そこには今にも呪い殺してきそうな俯いた彩香が俺と彩芽を睨みつけていた。

「どういう事かな……」

 笑顔と憤怒が同時に顔に表れている!

「いや、それはそのあれでその色々あってえっとそのあの……!」

 彩芽が目をぱちくりさせ必死に言い訳をしようとしている。だが、慌てふためき目が泳いだまま次の言葉は見つけられそうにないようだ。

「銀治君、どういう事かなー……」

 膝を抱えるようにしゃがむ彩香が目の前で尋問めいた質問を投げかけてくる。笑っているが笑っていないとはこの事を言うのか……。

 だがしかし、俺は怯まない。この程度の圧は今までに耐え忍んできた。
 意を決して口を開く。

「俺が階段を上っていた時に天使の白パンが顔面に落ちて来たんです」
「……」

 彩香の顔が「はぁ? 何言ってんの?」という顔になってしまっている。俺も正直なところ、自分で何を言っているのか分からなかった。

「ちょ、あんた何言ってくれてんの!? ばっかじゃないの!? 一回死になさいよバカ! いや、二回死ねバカ!」

 顔を真っ赤にした彩芽が立ち上がり、まくし立てるように俺を指差しながら罵倒する。だが、銀髪美少女にどれだけ罵られようともご褒美以外の何物でもない。

「俺は事実を述べただけで――」
「うざ! きも! 喋んな! それ以上喋んなぁああ……って、あぁあああぁ……もう最悪だよぉ……一生の不覚だよぉ……」

 立ち上がっていた彩芽は言い終える頃には体を丸めてこじんまりとしていた。
 可愛い以外に可愛いを表現できる単語が欲しい……。

「彩芽さー……」

 般若はんにゃのような顔をした彩香が落ち込んでいる彩芽を静かに覗き込む。顔を上げた彩芽はまるで地獄でも見たかのように戦慄していた。

「ひゃ……ひゃいっ……!」

 先程の恐怖とは確実に別の恐怖で彩芽は震えている。

「そういえばさー、銀治との出会い方……教えてくれないままだったよね……」

「それは、その……しゅ……す、すみませんっ……」

 どうやら怒った彩香に対しては可愛い妹でも無力らしい。

 彩芽は両肩を掴まれ、今にも顔と顔が当たりそうな距離まで彩香の顔が近付いている。あれですか、これが百合ってやつですか。そっちの気は無かったけど案外良いものだな……。
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