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第二話「宗教勧誘にご用心」

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「白パンが顔面に落ちて来たって何?」
「それは……その……」

 あんなに強きだった天使の弱い一面が見れたので大満足。
 あ、今のうちに携帯を回収して――

「私ですらそんなことしてもらった事ないのにズルいー!」
「「え……」」

 俺と彩芽の声が重なり、怪訝な表情を二人一緒に彩香へと向けていた。
 彩香は下を向いて拳にわなわなと力を溜めて震えている。

 次の瞬間――

「ズルい! そんなのズルいよ! 私だって顔に白パンとかやってもらったこと無いのに! 初対面の銀治にそんなことしてたなんて! 私だって顔面に白パンダイブして――」

 パァンッ!

 彩香が言い切る手前で彩芽の手が思いっきり彩香の頬を叩いていた。

「周りに人が居るんだから大声で白パン白パン言うなバカァアアア!」

 羞恥心に満ちた顔で大声を出す彩芽。
 目の前に天国が広がっていたので気が付かなかったが、周囲を見回してみるとそれはもう囲まれていた。

「え、白パン?」
「なんだ……?」
「あの子今なんて……?」

 十人近い学生がこちらを凝視していた。

「い、痛い……叩いたね……お姉ちゃんを叩いたね! まだ一度も叩かれたことないのに!」

 地面に倒れ込むようにして、叩かれた頬を両手で押さえながら涙目で妹に語る彩香。

「どこのアニメの主人公よ……」

 頬を染めたまま呆れた顔で呟く彩芽。
「で、なんであんたは隣で泣いてるのよ……」
「え?」

 目元にそっと手を添えるとなぜか涙が出ていた。

「あ……ああ、感動してた」
「何に感動することがあるのよ……ほら、スマホ拾いなよ」
「ああ、ありが――」

 指を差すだけで拾ってくれるわけではなかった。ので、とりあえず自分で拾い上げた。

「なんか涙の量、増えてない?」
「悲しくて悔しくて……自分でもよく分からない……」

 首を傾げながら眉をひそめ見つめてくる彩芽に対して、涙を拭きながらも視界に捉え続ける。

「あんたって、どっか落ち着きないよね……」
「いや、至って落ち着いてます」
「はぁ、どうだか……よこしょっ」

 小声で言いながら立ち上がる彩芽はワンピースを軽くはたいた。俺もついでに立ち上がり膝についた砂を落とす。

「彩香はいつまでそのポーズとってるの……」
「うぅ……だって、お姉ちゃんを放置して二人で楽しそうにしてるんだもん……」

 彩香が悔しそうに涙目でこちらを見つめてくる。

「ば、ばか! 誰がこんなゲス野郎と楽しくなんか!」
「俺は構いません!」

 テンパる彩芽を見つめると、こちらを見ていたようで目が合った。そして、また頬を赤らめる彩芽に思わず――

「グハッ……!」
「その反応、しつこいってば!」
「そ、そんなこと言われても……破壊力が……」
「あっそ。お姉ちゃん帰ろ」
「はーい!」

 彩香は笑顔で返事をすると勢いよく飛び起き、そのまま彩芽に胸を押し当てながら俺にビシッと指を差した。

「銀治! 君に妹は渡さない!」
「なん……だと……!」
「ちょ、鬱陶しいものを押し当ててくんな……」
「彩芽の白パンが銀治に降り注ごうとも、彩芽は私のものだ! よいしょ!」

 言い終えると彩香は妹を片腕に抱えた。

「え、ちょ、彩香? 何を――」
「さらばだ銀治君! 彩芽とお風呂に入れるのは私の特権なのだよ!」
「なにっ……!」

 振り向きざまの捨て台詞が羨ましすぎた。

「いゃぁあああああああ……!」
「……」

 まるで誘拐されるように運ばれていく彩芽をただ茫然と見つめていた。

「ハッ!」

 追いかけなければ!
 立ち上がり一歩踏み出したその時――

「あら、貴方!」
「偶然ねぇ!」
「なっ……!」

 死角から両肩を掴まれ、恐る恐る振り返る。

「あ、貴方達は……」
「どうもー」
「朝ぶりねー」

 このタイミングで宗教勧誘のおばさんが戻ってくるだとぉおおおお!?

「くっ……!」

 こんなもの振りほどいて……って無駄に力が強くて振りほどけないだとっ!

「ふふふ、だてに主婦やってないのよ?」
「スーパーの買い物って意外に重たいのご存じかしら?」
「いやだ……いや……」

 いやぁあああああああああああああああああ!

「じゃ、朝の続きからお話しましょうか」
「授業が終わったならたっぷり時間があるわよねー」
「あ……ああ……」

 彩香の後ろ姿と小脇に抱えられた天使が遠ざかっていく……こう見ると本当に誘拐しているように見えるな……。


 ――銀治、銀髪美少女と一緒に帰る希望を絶たれ崩れ落ちるのであった。
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