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第三話「引っ越し祝い」

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「そういえば今日ログボ貰ってないな」

 スマホゲーム二つのログインボーナスをゲットし、そのまま別の音ゲーをしばし楽しむ。

「くっそ……この曲のエキスパート難しすぎるだろ……」

 何回やっても同じところでミスる……製作者ってゲームする側の指の数をちゃんと把握しているのかと不安になってしまう。
 もう一時か。次、出来なかったら大人しく寝るか。

「…………お、お、行ける! いけ――」

 テロリン♪

「なっ……なにぃいいいいいい……!」

 せっかく超えた峠を……せっかく超えた峠だったのに……通知で見えなくなって詰んだ……。

「燃え尽きたよ……真っ白な灰のように……」

 やる気を削がれたのでそっとアプリを閉じて犯人を確認。どうせ母だろう。どうしていつもいつも狙ったようなタイミングで俺の邪魔を……。

「ん……?」

 メールの差出人の名前は彩芽。
 ……。

「……彩芽からだとぉおおおお⁉」

 勢いでそのまま上半身を起こしてスマホを見つめる。間違いじゃないよな。母じゃないよな。夢じゃないよな。
 何回見てもメールの送り主は彩芽だった。心臓がバクバクしている。

 人からメールをもらってこんなにドキドキする事ってあっただろうか。心臓の鼓動が早くなっていくのが嫌でも伝わってくる。なんだこの違和感は……。

 己を落ち着けながらそっとメールを開く。

『その、今日はありがと』

 ドクン、と心臓が跳ねた。
 なんだこの気持ち。今までに経験したことが無い未知の領域すぎてよく分からない……。大家さんに言われた「ありがとう」や彩香に言われた「ありがとう」とは何かが違う。

「まさか……そんなまさか……」

 銀髪美少女は保護対象物であって尊いもの。決して好き嫌いや愛といったものとは次元が違う素晴らしい存在……。
 神に近いような存在に対して恋心なんて……。

 俺なんかが抱いていい訳がない……。

 それに、鍛えた武術は銀髪美少女を守る為に身につけたもの。彼氏彼女の関係など笑止千万。烏滸がましい。大罪だ。

「……」

 スマホをベッドの隅に置いて俯く。

 有頂天になりかけていた気分が沈んで自暴自棄の波が押し寄せてきた。
 ……俺は、俺自身が嫌いなことを再認識する。

「……」

 思い出すだけでも憂鬱な中学の思い出……。

 告白してきた女子を断ったことが始まりだった……。良く知らない相手、よく分からない「付き合う」という関係が怖かった。だから、「はい」とは言えずに「ごめん」とだけ伝えた。彼女はそれ以来、学校に来なくなり、一ヵ月後、彼女はどこかへ転校。その責任を周りの生徒は俺に押し付けた。

 転校した理由は「父親の仕事の関係だ」と先生は言っていた。それでも、クラスメイトからは「芥川のせいだ」「最低」「クズ」と言われ続けた。結果、俺は無言を貫くことを決めて誰とも話さなくなった。

 やんちゃなクラスメイトが恰好のターゲットである俺に対して嫌がらせをしてくるようになったのはそれから数週間後……。一方的に複数に殴られ蹴られた。だから、警察官である父に空手や柔道を習った。

 自分を守る為に……。そして、彼女に「申し訳ない」という気持ちを胸に刻みながら、強くなろうと一生懸命稽古に励んだ。父は空手や柔道だけじゃなく剣道や合気道まで真剣に教えてくれた。平日の学校へと行く明朝、父が帰って来てから夜の稽古、休みの日には丸一日稽古をつけてくれた。

 ……結局、父に勝てた試しがないけれど、自分を守るには十分な練習量だった。

「……」

 俺という人間は告白してくれた勇気を踏みにじった最低な野郎だ。俺みたいな人間は「誰かと付き合う」、「誰かを好きになる」なんて、そういう幸せは望んではいけない。独りで居ることが周りの為になる。

 高校でも告白してくれた相手を振ったのは、自分が最低な人間だと自負していたから。こんな人間と付き合った所でなんの価値もない。付き合うことで相手に不快な想いをさせてしまうかもしれない。途中で幻滅されるくらいなら最初から幻滅された方が楽だ。そう思っていた。

 そうして独りの時間を過ごすうちにアニメやゲームにのめり込んでいった。

「……」

 こうして考えてみると俺自身がズレた人間なのが改めて理解できる。

 銀髪美少女三原則なんてものは、この本心を隠すために作ったようなもの。鍛えた最初の理由が「自分を守る為」とは情けなくて誰にも言えない。言う相手も居ないが……。

「……」

 本当は彼女たちに関わる事も許されないのかもしれない。なんだか、最初の出会い方のせいで頭に血が上っていたのか、いざ、こうして考えてみると、もう会わない方が良いのかもしれないとさえ思えてくる。

 先程までの胸の高鳴りは既に消沈していた。
 もう一度寝転び布団を頭まで被り丸くなる。

「……」

 暗闇と、何とも言い表せない気分に苛まれつつ目を閉じた。
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