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第三話「引っ越し祝い」
3-4 彩芽side
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――午前一時半頃、彩芽は布団を被ってスマホを握り締めて横向きになっていた。
「彩芽ー、電気消すよー」
「はーい」
明るかった部屋の中がふっと暗くなる。橙色の豆電球がカーテンを吊り下げている真上で静かに部屋の中を照らしだした。
「……」
あいつ、返事返してこないんだけど……。あれ、やっぱりちゃんと伝えなかったから怒ってるのかな……ちゃんと謝った方がいいかな……いや、もしかしたら寝てるかもしれないし、朝起きて確認すればいいかな――
「彩芽ー」
「は、はいっ!」
部屋の中心にあるカーテン越しに彩香の声が聞こえて思わずビックリした。
「そんなに驚いてどしたの?」
「な、なんでもない!」
「ふーん……ムフ」
「何よ、その意味深な笑い声は……」
「べっつにー」
彩香のやつ、絶対ニヤけてるし……腹立つ……。
「銀治カッコよかったねー」
「ばっ……! なんでそこであいつの話になるのよ!」
「ムフ……」
「その笑い方腹立つ……」
「ムッフッフ」
「はぁ……」
まぁ、確かに……よく分からない部分を除けばカッコ良くない……こともない……かもしれない。
「そういえば彩芽、もう大丈夫?」
含み笑いもなく自然に彩香が問いかけてきた。
「な、なにがよ……」
「そのー、男の人に触られたじゃんか」
「……」
彩香の心配してくれた言葉にふと体が強張った。けど、彩香を心配させたくはない。
「うん……もう大丈夫だよ」
「ほんとに?」
彩香の奴、いつもはふざけるのにこういう時だけ親身になってくれるのはズルいよ。
「うん」
「そか」
なんとなく、そう呟いた彩香の表情が微笑んでいるのが伝わってくる。
男の人に捕まれた手首をそっと反対の手で掴む。まだ微かにだけど震えているのが分かった。
スマホを枕元に置いて天井を見上げる。
……やっぱりまだダメみたいだ。
「彩芽?」
「ん、なに?」
「そういえばさ、銀治に抱きかかえられてる時って大丈夫だったのかなーって?」
「そ、それは……」
あの時は銀治の顔面にダイブしてしまって気が動転していたから、それどころではなかった……とは言えない……。
「まぁ、白パンダイブしたなら触られるくらいなんてことないかー」
「ちょ、その話はやめてよ!」
「ムフフ……まぁ、今日はお風呂で楽しんだからやめといてあげるー」
「はぁ……」
銀治との出会い方を伝えた結果、お風呂で散々もみくちゃにされた映像が頭の中に……。
「そういえば銀治ってさ、お父さんに似てるよねー」
「そう?」
「うん、なんとなくだけどねー」
「ふーん。あんまり記憶にないや」
「双子でしょー、なんで記憶にないのさー」
「さぁ、なんでだろうね」
「もー……」
小さい時に亡くなっちゃったしあんまり記憶に無いんだよな……。お母さんだって小学校に上がって数年後に病気で死んじゃったし――
「彩芽さ」
「なに?」
「銀治に惚れた?」
「は……はぁ!? ばっ……ばっかじゃないの!? 何言ってんの! そんなことあり得ないし、あり得ないから!」
必死に否定するあまり気が付けば上半身が起き上がっていた。
「フッフッフ、いつもとは違う彩芽のツンデレが見れてお姉ちゃんは嬉しいよー」
「そんなんじゃないし! ツンデレとかじゃないし! ばか!」
ふんっとそっぽを向いてからもう一度布団の中に入る。
「……でもさ」
「な、なによ?」
「今日見ててさー、銀治が彩芽のトラウマ直してくれるかもーなんて、思っちゃったんだよねー」
「……」
「彩芽?」
「……その話はやめよう」
思ったよりも声が強めに彩香の言葉を否定してしまった。
「……ごめんね」
「……ううん、私もごめん」
部屋の中が静まり返る。目を瞑ると、触られた手首の震えが余計に感覚を刺激してくる。
男の人が嫌いになってからもう何年経つんだろう……。
彩香と二人で幼稚園に預けられている時にお父さんは通り魔に襲われて亡くなった。お母さんはお父さんが死んでから体調が崩れて入院、小学三年生の時にそのまま眠るように死んでいった。
お母さんはロシア人、日本に身寄りなんて居なかったから、お父さんの親戚に預けられた。親戚のおばさんもおじさんも優しく迎え入れてくれた。
本当の親のように接してくれて、一緒に住んでいたおじさんの息子も優しいお兄さんだった。でも、中学生になった辺りでおじさんもお兄さんも様子がおかしくなった。
お風呂に入ろうとすればわざと扉を開ける。ひどい時は風呂の戸まで開けてきた。他の人に見られたくない裸を無理矢理見られた。おばさんに相談したけど「偶然じゃない?」とはぐらかされて、頼れるのはお姉ちゃんしか居なかった。
男の人がダメになったのは中学終わりの頃……、お姉ちゃんがバレーで家に居ない時だった。
夕方、おばさんはご飯の準備でおじさんは仕事でまだ帰って来ていない。
「彩芽ちゃーん」
お兄さんが部屋の扉越しに声をかけてくる。大学生のお兄さんは時々早めに家に帰って来ることがあって、自室にこもっている事が多い。なのに、その日は部屋から出てきて私の部屋の扉をノックした。
「彩芽ー、電気消すよー」
「はーい」
明るかった部屋の中がふっと暗くなる。橙色の豆電球がカーテンを吊り下げている真上で静かに部屋の中を照らしだした。
「……」
あいつ、返事返してこないんだけど……。あれ、やっぱりちゃんと伝えなかったから怒ってるのかな……ちゃんと謝った方がいいかな……いや、もしかしたら寝てるかもしれないし、朝起きて確認すればいいかな――
「彩芽ー」
「は、はいっ!」
部屋の中心にあるカーテン越しに彩香の声が聞こえて思わずビックリした。
「そんなに驚いてどしたの?」
「な、なんでもない!」
「ふーん……ムフ」
「何よ、その意味深な笑い声は……」
「べっつにー」
彩香のやつ、絶対ニヤけてるし……腹立つ……。
「銀治カッコよかったねー」
「ばっ……! なんでそこであいつの話になるのよ!」
「ムフ……」
「その笑い方腹立つ……」
「ムッフッフ」
「はぁ……」
まぁ、確かに……よく分からない部分を除けばカッコ良くない……こともない……かもしれない。
「そういえば彩芽、もう大丈夫?」
含み笑いもなく自然に彩香が問いかけてきた。
「な、なにがよ……」
「そのー、男の人に触られたじゃんか」
「……」
彩香の心配してくれた言葉にふと体が強張った。けど、彩香を心配させたくはない。
「うん……もう大丈夫だよ」
「ほんとに?」
彩香の奴、いつもはふざけるのにこういう時だけ親身になってくれるのはズルいよ。
「うん」
「そか」
なんとなく、そう呟いた彩香の表情が微笑んでいるのが伝わってくる。
男の人に捕まれた手首をそっと反対の手で掴む。まだ微かにだけど震えているのが分かった。
スマホを枕元に置いて天井を見上げる。
……やっぱりまだダメみたいだ。
「彩芽?」
「ん、なに?」
「そういえばさ、銀治に抱きかかえられてる時って大丈夫だったのかなーって?」
「そ、それは……」
あの時は銀治の顔面にダイブしてしまって気が動転していたから、それどころではなかった……とは言えない……。
「まぁ、白パンダイブしたなら触られるくらいなんてことないかー」
「ちょ、その話はやめてよ!」
「ムフフ……まぁ、今日はお風呂で楽しんだからやめといてあげるー」
「はぁ……」
銀治との出会い方を伝えた結果、お風呂で散々もみくちゃにされた映像が頭の中に……。
「そういえば銀治ってさ、お父さんに似てるよねー」
「そう?」
「うん、なんとなくだけどねー」
「ふーん。あんまり記憶にないや」
「双子でしょー、なんで記憶にないのさー」
「さぁ、なんでだろうね」
「もー……」
小さい時に亡くなっちゃったしあんまり記憶に無いんだよな……。お母さんだって小学校に上がって数年後に病気で死んじゃったし――
「彩芽さ」
「なに?」
「銀治に惚れた?」
「は……はぁ!? ばっ……ばっかじゃないの!? 何言ってんの! そんなことあり得ないし、あり得ないから!」
必死に否定するあまり気が付けば上半身が起き上がっていた。
「フッフッフ、いつもとは違う彩芽のツンデレが見れてお姉ちゃんは嬉しいよー」
「そんなんじゃないし! ツンデレとかじゃないし! ばか!」
ふんっとそっぽを向いてからもう一度布団の中に入る。
「……でもさ」
「な、なによ?」
「今日見ててさー、銀治が彩芽のトラウマ直してくれるかもーなんて、思っちゃったんだよねー」
「……」
「彩芽?」
「……その話はやめよう」
思ったよりも声が強めに彩香の言葉を否定してしまった。
「……ごめんね」
「……ううん、私もごめん」
部屋の中が静まり返る。目を瞑ると、触られた手首の震えが余計に感覚を刺激してくる。
男の人が嫌いになってからもう何年経つんだろう……。
彩香と二人で幼稚園に預けられている時にお父さんは通り魔に襲われて亡くなった。お母さんはお父さんが死んでから体調が崩れて入院、小学三年生の時にそのまま眠るように死んでいった。
お母さんはロシア人、日本に身寄りなんて居なかったから、お父さんの親戚に預けられた。親戚のおばさんもおじさんも優しく迎え入れてくれた。
本当の親のように接してくれて、一緒に住んでいたおじさんの息子も優しいお兄さんだった。でも、中学生になった辺りでおじさんもお兄さんも様子がおかしくなった。
お風呂に入ろうとすればわざと扉を開ける。ひどい時は風呂の戸まで開けてきた。他の人に見られたくない裸を無理矢理見られた。おばさんに相談したけど「偶然じゃない?」とはぐらかされて、頼れるのはお姉ちゃんしか居なかった。
男の人がダメになったのは中学終わりの頃……、お姉ちゃんがバレーで家に居ない時だった。
夕方、おばさんはご飯の準備でおじさんは仕事でまだ帰って来ていない。
「彩芽ちゃーん」
お兄さんが部屋の扉越しに声をかけてくる。大学生のお兄さんは時々早めに家に帰って来ることがあって、自室にこもっている事が多い。なのに、その日は部屋から出てきて私の部屋の扉をノックした。
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