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第五話「銀髪の幼馴染」
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彩芽と別れて帰宅後、お湯を出さずに冷たいシャワーを浴びて汗と荒ぶる心を沈めた。
居間に戻って髪が濡れたまま、布団の近くに落ちているスマホを手に取り上げる。
受信メールと――
「ん、着信?」
誰からだろう。まさか彩芽……今彩芽からの連絡が来たら確実に墜とされてしまう……。
「まぁ、違うだろう……」
地べたに座りながらスマホを片手で操作する。
「なっ……」
着信相手の名前が画面に表示され身が凍り付いた。
「こいつは……」
父よりも母よりも、天使の彩芽よりもやばい奴からの着信……。
出かけている間に数十件も着信を送って来ていたのか……留守番電話がこいつだけで埋め尽くされているとか恐怖でしかない……。
ゴクリと唾を飲みながら一つの留守番電話を再生する。
「あーあー、聞こえてるのかな? ギン君電話出てー、出てくれないとー、今すぐ家に乗り込んじゃうぞ♪ なんちゃってー♪――プーップー……」
男か女か判断付かない声音にギン君という呼び方……喋り方に攻めの姿勢が揺るがないこいつは……。
とてつもない悪寒が背筋を走る。
「やばい……やばいやばいやばい……」
最悪だ……父か母、まさかこいつに住所教えたりしてないよな……。してたら死ぬ……確実に死ぬ……。
念のため、もう一件再生……。
「あーもしもーし、さすがにここまで出ないと傷付いちゃうなぁ……。でも、もうすぐ着くと思うから待っててねー、バイバーイ♪――プーップー……」
最新の一件を再生するため、指がスマホの画面をタッチする。
「確かアパート名ってギン君と一緒で銀だったよね♪ もう最寄りの駅下りたからねー♪――プーップー……」
「……」
なんで……なんで知っているんだ……まさか……。
受信メールを確認すると母からメールが届いていた。
『銀治、親戚のミー君覚えていますか。会いに来たけど今アパートで一人暮らししてますって伝えたら飛び出していったから捕まえてください 母より』
メール届いたの何時だ……十一時半……今が十四時過ぎで……やばい……。っていうか、俺は捕まえる側じゃなくて逃げる側なんだが――
ピンポーン♪
「っ……⁉」
鳴るインターホンに思わずスマホを床に落とした。
扉を優しく叩く音が聞こえてくる。
「ぁあ……」
そんな、そんなまさか……。
息を殺して忍び足で廊下を歩いて玄関に近付く。頼む……宅配か別人であってくれ……頼む……。
玄関の覗き穴を片目を閉じて見つめる。
扉越しに女の子らしき人影……。
「あれー……やっぱり居ないのかなぁ……?」
彩芽よりも少し高めの身長に、ほんの少し垂れ下がる程の長さの銀髪……。
襟元が広くてずり落ちそうなロシア文字で書かれた白Tシャツ……胸元が見えかけているが絶壁……。
そして少年か少女か分からない顔立ち小顔の持ち主は……。
「ギンくーん居ないのー?」
終わった……。
いや、まだ居留守だとはバレていないんだ。このままやり過ごせばどうにかなるだろう。
「ギンくーん」
「……」
頼む……帰ってく――
ガチャ。
「ッ……!」
玄関の扉が勝手に開いていく。走馬灯だろうか、一瞬で開いたと思われる扉が何十秒もかけて開いたかのような錯覚に陥った。
勢いよく開かれる扉――
「やっば……!」
声に出した時には既に目の前で瞳を輝かせて軽くこちらを見上げる奴がいた。
「ミ、ミハイル……」
顔が引きつる。
「わー! ギン君やっぱり居たー♪ ヤー♪ 会いたかったよぉおお♪」
「ちょ、やめろ……近付くな……絶対に抱きつ――うぐっ……!」
鳩尾(みぞおち)に飛び込んできたミハイルに胸の中で顔をスリスリされ、押された勢いに足が自然と後ろに退いた。
バタン……。
玄関の扉が虚しく音を立てて閉まる。
「元気にしてた? 大学生になったんだってね! 言ってくれたら良かったのにギン君は相変わらず冷たいなーもうっ♪ ムッフー♪ 懐かしい匂いだぁー♪」
「…………」
「どしたの?」
抱きつかれたまま見上げてくるミハイルから目を逸らす。近い……近い……。
「ねーねーどしたのー?」
――ナ、ナニィイイッ!
上半身だけかと思ったらいつの間にか足まで密着しているだと……。
「は、離れてくれないか……」
「やだー♪」
「くっそ、離れろ……! 男(・)にスリスリされても困る……!」
必死に引きはがそうとミハイルの両肩を握って――
「ひゃんっ……♪」
思わず身体が固まる。
「ギン君ったら僕が可愛いからって……エッチー♪」
あざとく上目遣いで見つめてくるミハイル。
こういうノリが合わないから嫌だっていうのに……。
「はぁ……その声のトーンでそういう事を言うんじゃない……」
「ギン君ったら、いつの間にそんな強引になったのかな♪」
両頬に手を添えて恥ずかしがるミハイルに悪寒が走る。
「ミハイル……そもそもなんでお前がここに……」
「もー、ミー君って呼んでよー♪ あ、ちゃん付けでもいいんだよ♪」
「……」
ミハイルのあざといウインクに背筋が凍る。
「あれ、ギン君? おーいおーい♪」
目の前で手を振りながら視界に映るこいつは……。こいつのせいで俺の初恋は……。
居間に戻って髪が濡れたまま、布団の近くに落ちているスマホを手に取り上げる。
受信メールと――
「ん、着信?」
誰からだろう。まさか彩芽……今彩芽からの連絡が来たら確実に墜とされてしまう……。
「まぁ、違うだろう……」
地べたに座りながらスマホを片手で操作する。
「なっ……」
着信相手の名前が画面に表示され身が凍り付いた。
「こいつは……」
父よりも母よりも、天使の彩芽よりもやばい奴からの着信……。
出かけている間に数十件も着信を送って来ていたのか……留守番電話がこいつだけで埋め尽くされているとか恐怖でしかない……。
ゴクリと唾を飲みながら一つの留守番電話を再生する。
「あーあー、聞こえてるのかな? ギン君電話出てー、出てくれないとー、今すぐ家に乗り込んじゃうぞ♪ なんちゃってー♪――プーップー……」
男か女か判断付かない声音にギン君という呼び方……喋り方に攻めの姿勢が揺るがないこいつは……。
とてつもない悪寒が背筋を走る。
「やばい……やばいやばいやばい……」
最悪だ……父か母、まさかこいつに住所教えたりしてないよな……。してたら死ぬ……確実に死ぬ……。
念のため、もう一件再生……。
「あーもしもーし、さすがにここまで出ないと傷付いちゃうなぁ……。でも、もうすぐ着くと思うから待っててねー、バイバーイ♪――プーップー……」
最新の一件を再生するため、指がスマホの画面をタッチする。
「確かアパート名ってギン君と一緒で銀だったよね♪ もう最寄りの駅下りたからねー♪――プーップー……」
「……」
なんで……なんで知っているんだ……まさか……。
受信メールを確認すると母からメールが届いていた。
『銀治、親戚のミー君覚えていますか。会いに来たけど今アパートで一人暮らししてますって伝えたら飛び出していったから捕まえてください 母より』
メール届いたの何時だ……十一時半……今が十四時過ぎで……やばい……。っていうか、俺は捕まえる側じゃなくて逃げる側なんだが――
ピンポーン♪
「っ……⁉」
鳴るインターホンに思わずスマホを床に落とした。
扉を優しく叩く音が聞こえてくる。
「ぁあ……」
そんな、そんなまさか……。
息を殺して忍び足で廊下を歩いて玄関に近付く。頼む……宅配か別人であってくれ……頼む……。
玄関の覗き穴を片目を閉じて見つめる。
扉越しに女の子らしき人影……。
「あれー……やっぱり居ないのかなぁ……?」
彩芽よりも少し高めの身長に、ほんの少し垂れ下がる程の長さの銀髪……。
襟元が広くてずり落ちそうなロシア文字で書かれた白Tシャツ……胸元が見えかけているが絶壁……。
そして少年か少女か分からない顔立ち小顔の持ち主は……。
「ギンくーん居ないのー?」
終わった……。
いや、まだ居留守だとはバレていないんだ。このままやり過ごせばどうにかなるだろう。
「ギンくーん」
「……」
頼む……帰ってく――
ガチャ。
「ッ……!」
玄関の扉が勝手に開いていく。走馬灯だろうか、一瞬で開いたと思われる扉が何十秒もかけて開いたかのような錯覚に陥った。
勢いよく開かれる扉――
「やっば……!」
声に出した時には既に目の前で瞳を輝かせて軽くこちらを見上げる奴がいた。
「ミ、ミハイル……」
顔が引きつる。
「わー! ギン君やっぱり居たー♪ ヤー♪ 会いたかったよぉおお♪」
「ちょ、やめろ……近付くな……絶対に抱きつ――うぐっ……!」
鳩尾(みぞおち)に飛び込んできたミハイルに胸の中で顔をスリスリされ、押された勢いに足が自然と後ろに退いた。
バタン……。
玄関の扉が虚しく音を立てて閉まる。
「元気にしてた? 大学生になったんだってね! 言ってくれたら良かったのにギン君は相変わらず冷たいなーもうっ♪ ムッフー♪ 懐かしい匂いだぁー♪」
「…………」
「どしたの?」
抱きつかれたまま見上げてくるミハイルから目を逸らす。近い……近い……。
「ねーねーどしたのー?」
――ナ、ナニィイイッ!
上半身だけかと思ったらいつの間にか足まで密着しているだと……。
「は、離れてくれないか……」
「やだー♪」
「くっそ、離れろ……! 男(・)にスリスリされても困る……!」
必死に引きはがそうとミハイルの両肩を握って――
「ひゃんっ……♪」
思わず身体が固まる。
「ギン君ったら僕が可愛いからって……エッチー♪」
あざとく上目遣いで見つめてくるミハイル。
こういうノリが合わないから嫌だっていうのに……。
「はぁ……その声のトーンでそういう事を言うんじゃない……」
「ギン君ったら、いつの間にそんな強引になったのかな♪」
両頬に手を添えて恥ずかしがるミハイルに悪寒が走る。
「ミハイル……そもそもなんでお前がここに……」
「もー、ミー君って呼んでよー♪ あ、ちゃん付けでもいいんだよ♪」
「……」
ミハイルのあざといウインクに背筋が凍る。
「あれ、ギン君? おーいおーい♪」
目の前で手を振りながら視界に映るこいつは……。こいつのせいで俺の初恋は……。
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