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第六話「彩香のバレーサークル入部問題」彩香side story

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 どうしてこうなったー!
 あ、でも、逃げ出すチャンスじゃないかな?

「せ、先輩方、そろそろ私行きますねー……」

 そろりそろりと、彩芽に近寄るために鍛えた忍び足で扉に向かう。
 あとは扉の前で「やっぱりサークル入るのもう少し考えますー!」って伝えれば大丈――

「あ、彩香さん!」
「はひゃいっ!」

 唐突に呼ばれて扉の前で背筋がビクッと跳ねた。

「か、彼氏、連れて来てくださいね」
「……え」



 一旦帰宅。
 彩芽に泣きついてよしよししてもらう。

「彩芽ぇ……どうしよぉ……」
「自業自得じゃない?」
「うぇええん……だって、あのタイプの人間に出くわしたことなかったんだもーん……」
「はいはい」

 彩芽の膝の上で頭を撫でてもらいながら至福のひと時。

「どうすればいいかなー……むふっ……♪」
「知らないわよ、そんなこと。あと、変な声出さないで」
「彩芽、ついてきてよー……」
「嫌よ、そんな人たちの所行きたくない」
「んじゃ、私どうすればいいのさー……」
「そうね……」

 彩芽の撫でる手が止まった。

「その……あれよ、銀治にでも頼めばいいんじゃない?」
「え……」

 撫でてくれている彩芽の顔を見つめる。

「他に頼める人いないでしょ」
「でも、銀治君は彩芽のことが好きだろうし、それに彩芽だって銀治君のこと好――」
「それ以上言ったらコロス……コロス……!」
「あ、あははー……」

 彩芽の目が本気で怒ってるのでやめておこう。
 がるるぅ……って唸りながら威嚇されてるけど、それもまた可愛いなぁ。

「で、でもさー、銀治君だって迷惑かもしれないしー」
「あの変態紳士なら喜んでついてきてくれるわよ。彩香のこと女神とか言ってたし」
「女神?」
「うん」

 よく分かんないな……。

「とりあえず、頼めばついてきてくれるわよ。あいつ、なんだかんだ言って……」
「うん?」
「ううんっ! なんでもない! と、とにかく来てくれるわよっ」

 なんか照れてる気がするけど……。

「彩芽だったらそうかもしれないけどさー」
「わ、私は関係ないでしょ!」
「そんなこと言ってー……、お姉ちゃんには全てお見通しだよー♪」
「うっ……ぅうううう……がうぅぅ……!」
「あ、彩芽……?

 あれ、もしかして怒らせたかな……。

「うがぁああ!」
「ひゃぁ⁉」


 ――彩芽に五分間こしょばされ続けた……。
 うぅ……脇腹が弱いの知ってて……彩芽のやつー……。でも、じゃれ合えたから満足……。

「ふんっ、バカ……」
「わ、笑い死ぬかと思ったよー……ん?」

 すんすん……。

「なに嗅いでるのよ……」
「彩芽の布団良い匂いするなーと」
「はぁ……、そんなこと言ってないで結局どうすんのよ」
「んー、彩芽を連れて行く?」
「却下よ、却下」
「彩芽をおんぶして行く?」
「頭突くわよ……」
「う、嘘だよっ」

 すでに構えているのでちょっとだけ距離を空けておこう……。

「まー、銀治君しか居ないよねー。ミー君も昨日ご飯食べたあと帰っちゃったし」
「メールしたら?」
「うーん」

 メール……打つの面倒臭いなー……。

「……よいしょっ」
「どこ行くの?」
「隣だし、直接行ってくるよー」
「あっそ」
「一緒に行く?」
「い、行かないわよ!」
「フッフッフー、んじゃ、ちょっと銀治君借りるねー」
「べ、別に私に言うことじゃないし!」
「照れてる照れてるー」
「がうぅぅう……!」
「う、嘘、嘘だから! よしよーし……いい子いい子~」

 頭を撫でて彩芽を落ち着かせる。

「ふんっ……」

 ちょっと言い過ぎたかなー……、帰りにアイス買って帰ろう……。

「んじゃま、行ってくるねー」
「……いってらっしゃい」

 ――ということで、銀治の玄関の前だけども……。

 ピンポーン♪

「……」

 なんだかそわそわしてしまう……い、意外と、男の人の家に訪れるというのは、なんというか、緊張するかも……。

「あ」

 開いたっ。

「ん……、あれ、彩香さん?」

 ぼさぼさの頭でいかにも寝起きだなー。

「やっほーい」

 とりあえず笑顔で手を振ってみるけど。

「おはようございます……」

 反応が薄い……。

「それで、どうしたんですか?」
「そう、よく聞いてくれたよ銀治君っ! 実は――」

 かくかくしかじか……。
 話し始めて「彼氏の振り」というワードが出た瞬間にすごい喜んでくれたんだけど、なんか申し訳ないな……。振り、だからねー。

「その話、喜んでお引き受けいたします」
「いいの? 面倒臭いよ?」
「むしろこちらからお願いしたいです」

 なんか、勢いがすごいな……。

「言っておくけど、ほんとの彼氏じゃないからね?」
「ええ、もちろんです。そんな恐れ多い……彼氏の振りで十分です。満足です。むしろご褒美です」
「あー、あははー……それは良かったー……」

 ふむふむ、ミー君と話す時と違って敬語なの、ちょっと距離を感じるなぁ……。

「んじゃ、今から準備しますんで少しだけお待ちを」
「はーいっ、お待ちしてますっ」

 ……五分後。

「お待たせしました」
「早いねー」
「着替えるだけなので、いつもこんな感じですよ」

 カッターシャツにネクタイ無し、黒いパンツ。
 程よい筋肉でスラっとしてるし、銀治君で正解かもしれないなー。

「あ、そうだ。敬語だと怪しまれるから友達みたいに気楽にお願いします!」
「分かりました」
「それ! それだよっ!」
「あ……、そうか……」

 顎に手を添えて悩み始める銀治君。
 そんなに悩むことかな?

「……名前も彩香さんだとマズいですかね?」
「んー、念のため呼び捨てでいこっかー」
「では……ちょっとだけ待ってくださいね……」

 銀治君が深呼吸をしたあとに真直ぐこっちを見てきた。

「……」

 なぜ、そんな真剣な目つきでこっちを見つめるんだ……。

「彩香、行こうか」
「っ……⁉」

 な、なん……なんかコレ恥ずかしいよぉお……!
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