想いの言の葉

忍原富臣

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内省

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 私は一度、いや、二度に渡って死ぬことを考えた。


 生きている事になんの意味も見出せない。

 呪われた身体を見るたびに魂が傷付いていく。

 脳内の負の感情が心に蓄積されていく。

 心に亀裂が走る。魂の炎が淡くなる。

 

 何故、生きなければならないのか。

 何故、未来という枷を背負っているのか。

 何故、苦しい想いをしなければならないのか。

 何故、こんなにも心が空虚なのか。



 生きる意味が分からない私――
        人よりも劣っている私――
    何の取り柄もない私――


 ある日、いや、生きてきてからずっとだ。
 私は口を開かない代わりに人の表情や動作を見続けてきた。


 笑顔を見せる人の心の奥は荒んでいて、悲しげだった。何故、笑顔で過ごしているのか分からなかった。

 自慢話をされている人が居た。面白くもない話を懸命に聞いて愛想笑いを浮かべていた。何故、笑っているのか分からなかった。


 人の顔色を窺って過ごす事が耐え切れなくなった。

 その瞬間に何かが砕け散った。

 でも、理解出来たことがあった。

「笑えば誰でもその場をやり過ごせるんだ」と――




 だから、私はとりあえず愛想笑いをした。

 家族でも、兄妹でも、友人でも、同僚でも、上司だろうと、部下だろうと。

 私はいつでも、どこでも、疲弊していても、愛想笑いをした。


 だいぶ生きやすくなった。

 のしかかっていた心の重圧が多少は軽くなった。
 でも、その代わりに自分を見失った。



 見失った結果、心が消えて魂が希薄になった。
 
 顔を手で覆い隠すが、絶望することも許されなかった。

 感情が薄れていく感覚に魂が泣き叫んだ。

 心は既に砕け散って破片が散らばっている。


 引き裂かれそうな魂が最後の言葉を漏らす。

「これじゃ、まるで生き人形だ」


 そう言って私は自分に愛想笑いをした。




 目が覚めると私は見慣れない場所に居た。
 白い部屋……いや違う。
 無色……透明……暗闇……混沌……。
 表現のしようがない色合いの空間に私は独りきりで立ち尽くす。


 目の前の空間が歪んでいく。
 人の形を模したそれは私と同じ背丈をしていた。


「さて、これから先をどう生きていくんだい?」

 愛想笑いをする生き人形は不敵に笑って私を見つめた。
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