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第二話「悪夢の調査」
黒百合村の夜
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老婆は静かに剛昌を家の中へと招き入れ、お茶を剛昌へと差し出す。だが、剛昌は遠慮してお茶をそっと返した。
「毒など入っておらんから安心せい」
「いや、遠慮しておこう」
剛昌は最初の事もあり、あまり老婆を信用出来なかった。
「まあ、どちらでもいい。それで、王城の大臣がこんな山まで何しに来たんだい」
老婆が自然と口にした内容に剛昌は目を見開いた。
「知っていたのか」
「無駄に長生きするもんだねえ、あんた、剛昌だろう。一目見れば分かるさ」
「そこまでとは……」
剛昌が驚いている間に老婆はすらすらと言葉を並べ立てていく。
「春桜、剛昌、翠雲、王とその右腕と左腕。それに、喜来に六郷、陣雷、木蓮、火詠、土光孫、この国の大臣、英雄達さ」
「随分と詳しいな」
「そりゃ戦しか頭の無い奴らのことはよう覚えとるよ」
「……」
皮肉めいた老婆の言葉に剛昌は言い返す言葉も無かった。
「怒ったか? 殺すならいつでも殺してええからのう。こんなに死ねんとは思ってなかったわい」
「ごほん……それよりも、死者の夢の話を聞きたい」
剛昌は真剣な眼差しで老婆の方をまじまじと見つめた。
「ふむ、まあ、そんなことだとは思っていたがな。聞いてどうするんだい」
「其方には関係あるまい」
「いやいや、関係あるさ。あんた、噂になってるここに来たってことは、状況によっては消すつもりなんだろう」
「それは……」
言葉を詰まらせながら目を逸らす剛昌の様子に、老婆はある程度理解していた。
「図星か……。まあ、話す気も無いし、殺すなら殺せばいい。お前に私らの苦しみは分からんさ」
「……」
今度は逆に剛昌が黙ったまま、時間が流れていった。
老婆は注いだお茶を飲み干し、剛昌に返されたお茶を飲み始めていた。
「用が無いなら帰りな」
老婆は剛昌の方を見ないで呟いた。
「私は……私は国の為、国王の為に生きている」
「そうかい……」
無言の空間が部屋の中を埋め尽くす。
老婆は剛昌の言葉を噛みしめながら、お茶を注いだ器をただただ見つめていた。剛昌は老婆の横で目を瞑ったまま動かない。
「失礼した」
剛昌がおもむろに立ち上がる。
「あんたさ、黒百合の花言葉、知ってるかい?」
「さあな」
剛昌の返事に老婆は苦笑していた。
「やっぱり男はダメだね」
不敵に笑う老婆に、剛昌はふと問いかけた。
「婆さん」
「なんだい、まだ何か?」
「涼黒は孫なのか?」
「さあねぇ……」
「そうか」
老婆は剛昌の真似をしたのか、端的に言い返した。
剛昌は笑わずに、そのまま戸口へと向かい手をかける。
「この村は呪われている。逃げられるうちに逃げておけ」
老婆にそう言い残すと、剛昌はその場を後にした。
老婆は一人で天を仰いでいた。馬が走り去っていく音が聞こえ、剛昌が帰って行ったことを知らせていた。
その夜、老婆は皆が寝静まった頃、松明を持って村の奥、涼黒の家の方へと歩いていった。
老婆は慣れた足取りで一ヵ所しかない扉の前に立った。かけられた南京錠に、持っていた鍵で解錠をすると、山の方へと足を進め、山の手前に掘られた穴の前で立ち止まった。
老婆が堀を覗き込む。するといきなり現れた炎に驚いた羽虫が一斉に飛び散り、その奥では無数の蛆が蠢いていた。
老婆の目線にあったのは無数の死体だった。
「恨んだって、何も良い事はないと言うたのに……」
黒百合の村では死体の処理は土に還すというのが習わしであり、最初は簡易的な墓を作っていた。しかし、飢饉で大量に死んでいった者達全員の墓を作るのは時間がかかってしまい、こうして、死んでいった者達は墓も無いまま一つにまとめられた。
こうした村は黒百合村だけでは済まない。
老婆は松明を近くの岩に立てかけ、堀に向かって手を合わせて拝んだ。
次の日、涼黒は村人に「ちょっと出かけてくるけん!」と伝えると、剛昌から受け取った金を握り締めて走って行った。村の入り口に立っていた老婆の横を涼黒が過ぎていく。
「婆ちゃんっ、昨日のおっちゃんに返すもんあるけぇ、ちょっと行ってくる!」
老婆は無言で、手を振りながら走り去っていく涼黒を見つめる。
出来る事なら、このまま数日帰って来ないことを祈る老婆であった。
「毒など入っておらんから安心せい」
「いや、遠慮しておこう」
剛昌は最初の事もあり、あまり老婆を信用出来なかった。
「まあ、どちらでもいい。それで、王城の大臣がこんな山まで何しに来たんだい」
老婆が自然と口にした内容に剛昌は目を見開いた。
「知っていたのか」
「無駄に長生きするもんだねえ、あんた、剛昌だろう。一目見れば分かるさ」
「そこまでとは……」
剛昌が驚いている間に老婆はすらすらと言葉を並べ立てていく。
「春桜、剛昌、翠雲、王とその右腕と左腕。それに、喜来に六郷、陣雷、木蓮、火詠、土光孫、この国の大臣、英雄達さ」
「随分と詳しいな」
「そりゃ戦しか頭の無い奴らのことはよう覚えとるよ」
「……」
皮肉めいた老婆の言葉に剛昌は言い返す言葉も無かった。
「怒ったか? 殺すならいつでも殺してええからのう。こんなに死ねんとは思ってなかったわい」
「ごほん……それよりも、死者の夢の話を聞きたい」
剛昌は真剣な眼差しで老婆の方をまじまじと見つめた。
「ふむ、まあ、そんなことだとは思っていたがな。聞いてどうするんだい」
「其方には関係あるまい」
「いやいや、関係あるさ。あんた、噂になってるここに来たってことは、状況によっては消すつもりなんだろう」
「それは……」
言葉を詰まらせながら目を逸らす剛昌の様子に、老婆はある程度理解していた。
「図星か……。まあ、話す気も無いし、殺すなら殺せばいい。お前に私らの苦しみは分からんさ」
「……」
今度は逆に剛昌が黙ったまま、時間が流れていった。
老婆は注いだお茶を飲み干し、剛昌に返されたお茶を飲み始めていた。
「用が無いなら帰りな」
老婆は剛昌の方を見ないで呟いた。
「私は……私は国の為、国王の為に生きている」
「そうかい……」
無言の空間が部屋の中を埋め尽くす。
老婆は剛昌の言葉を噛みしめながら、お茶を注いだ器をただただ見つめていた。剛昌は老婆の横で目を瞑ったまま動かない。
「失礼した」
剛昌がおもむろに立ち上がる。
「あんたさ、黒百合の花言葉、知ってるかい?」
「さあな」
剛昌の返事に老婆は苦笑していた。
「やっぱり男はダメだね」
不敵に笑う老婆に、剛昌はふと問いかけた。
「婆さん」
「なんだい、まだ何か?」
「涼黒は孫なのか?」
「さあねぇ……」
「そうか」
老婆は剛昌の真似をしたのか、端的に言い返した。
剛昌は笑わずに、そのまま戸口へと向かい手をかける。
「この村は呪われている。逃げられるうちに逃げておけ」
老婆にそう言い残すと、剛昌はその場を後にした。
老婆は一人で天を仰いでいた。馬が走り去っていく音が聞こえ、剛昌が帰って行ったことを知らせていた。
その夜、老婆は皆が寝静まった頃、松明を持って村の奥、涼黒の家の方へと歩いていった。
老婆は慣れた足取りで一ヵ所しかない扉の前に立った。かけられた南京錠に、持っていた鍵で解錠をすると、山の方へと足を進め、山の手前に掘られた穴の前で立ち止まった。
老婆が堀を覗き込む。するといきなり現れた炎に驚いた羽虫が一斉に飛び散り、その奥では無数の蛆が蠢いていた。
老婆の目線にあったのは無数の死体だった。
「恨んだって、何も良い事はないと言うたのに……」
黒百合の村では死体の処理は土に還すというのが習わしであり、最初は簡易的な墓を作っていた。しかし、飢饉で大量に死んでいった者達全員の墓を作るのは時間がかかってしまい、こうして、死んでいった者達は墓も無いまま一つにまとめられた。
こうした村は黒百合村だけでは済まない。
老婆は松明を近くの岩に立てかけ、堀に向かって手を合わせて拝んだ。
次の日、涼黒は村人に「ちょっと出かけてくるけん!」と伝えると、剛昌から受け取った金を握り締めて走って行った。村の入り口に立っていた老婆の横を涼黒が過ぎていく。
「婆ちゃんっ、昨日のおっちゃんに返すもんあるけぇ、ちょっと行ってくる!」
老婆は無言で、手を振りながら走り去っていく涼黒を見つめる。
出来る事なら、このまま数日帰って来ないことを祈る老婆であった。
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