理葬境

忍原富臣

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最終話「別れの時」

海宝の死とその後の動向……

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 陸奏りくそうは黒百合村での一件以来、暫く絶望に打ちひしがれていた。翠雲すいうんとも顔を合わすこと無く、ただ家の中に引きこもった。
 涼黒りょうこくはそんな陸奏を心配し、付き人のように世話をする。
 その後、「理弔りちょう」という村が広まり始めたのは数ヶ月後の事だった。

 翠雲は海宝かいほうの遺志を継ぐため、僧侶として生きるために大臣の座を退いた。
 今までの罪を清算し、僧侶になるためにみそぎを行い修行に励む。そして、亡き海宝が残した翠雲に宛てた手紙。
『陸奏を見守る一つの雲ではなく、皆を見守る空となり、私の想いを受け継いでほしい』
 という願いから、僧侶としての名前を「空」と海宝の「海」を受け取り『空海』と名乗る事となった。
 その後、翠雲の培ってきた知識や経験、発想力は誰もが目を見張るものだった。

 剛昌ごうしょうは海宝を殺したものの秘匿ひとくとされ、その身が危険に晒される事はなかった。しかし、黒百合村の出来事を春栄しゅんえいに話して大臣の座を退くと、側近であるみんにその座を明け渡したのだった。
 数ヶ月の間、剛昌は傭兵として陸奏と涼黒の様子を陰で支えていた。
 陸奏が海宝の死から立ち直った頃、春栄からの要請で王城へと帰還。そして、大臣としてではなく兵士の訓練長として、春栄の護衛役として、生涯を王国に捧げるのであった。

 火詠ひえいは海宝が死んだことを知り、冷静に海宝の頼みを遂行した。王城と寺、陸奏たちを見守りながら火詠は責務を果たしていく。
 しかし、翠雲と剛昌が居なくなった王城をまとめられるのは火詠の他に居らず、春栄と大臣達との間を繋ぎながら、国がどうあるべきかを寺に居る翠雲に尋ねる日々が続く。

 泯は剛昌の跡を継いで大臣となった。女の大臣だと一部の者に馬鹿にされたが、剛昌の側近という折り紙付きの実力は周囲の文句をねじ伏せるには十分すぎるものだった。

 春栄は父を亡くし、海宝を失い、翠雲と剛昌も大臣の座を降りたことに動揺を隠せなかった。
 己の力不足だと落ち込んだ春栄は文武を極めようと決意する。
 後に父親譲りの武の才覚と、翠雲から教わった知識、陸奏と過ごし培ってきた思いやりの心で、春栄は大臣からも民からも慕われる良き国王となったのであった。




 海宝の死から数年――

 今日も理弔の村には心地良い風が吹いている。

 海宝の死から立ち直った陸奏は、涼黒や新しい住人と共に人々を埋めて弔い続けた。そのおかげなのかは定かではないが、この国での飢饉や呪い、悪夢といった類の話が再び蔓延(まんえん)する事はなかった。

 晴天、雲一つない空に太陽が浮かび世界を優しく暖める。爽やかな風と眠気を誘うような天気は人々の心を穏やかに変えていく。

 陸奏は村の中央に置かれた巨大な石碑の前に立ち見上げた。大の大人が横に並んでも縦に並んでも足りない巨大な石。

 それは飢饉で死んでいった者達と海宝の為に建てられた立派な墓石だった。

「おはようございます」

 陸奏は優しく微笑みながら、今は亡き海宝へと挨拶をする。


 ――死者が居なくなることはない
 ――無念の死、非業の死、怨恨の死
 ――陸奏は海宝の想いを胸に抱き、今日も死者を弔い続ける
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