別れさせ屋 ~番解消、承ります~

冬木水奈

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19. キャンプの夜

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 更科からキャンプに誘われたのは、花粉飛散のピークも過ぎ、人々が五月の連休を心待ちにする四月中旬のことだった。いいキャンプ場を知っているから五月の連休にでも行かないかと言う。
 虫が嫌いな時籐は即断ろうとしたが、その場に居合わせた龍司にきらきらした目で僕たちも行ける?と聞かれ、断るという選択肢は消失した。
 それで、連休に四人で奥多摩のキャンプ場に行くことになったのだった。
 時籐は虫との遭遇を思って億劫さ半分、初めて四人で泊まりの旅行に――それがたとえキャンプであろうと――行けることへの期待半分で出発準備を着々と整えた。自分と子供たちの分のキャンプ用具一式を揃え、キャンプ初心者のためのサイトを巡って基礎を学び、テントの立て方を練習する。
 そうして準備しているうち、楽しみの方が勝ってきて、虫は虫よけスプレーで厳重に防護すればいいか、という考えに変わっていった。あまりアウトドア派ではない時籐家では旅行といえばホテルか旅館に泊まるのが常で、こういった経験はしたことがなかったからだ。それで、徐々に出かけるのが楽しみになっていった。
 そうして連休を数日後に控え、休み前に仕事を片付けたい一心で仕事に邁進していた頃だった、元義母から連絡が来たのは。

 その日、遅くまで残業していた時籐が電話を受けたのは会社のオフィスだった。同僚達に迷惑がかからないよう、廊下に出て電話に出る。すると、いつもとはまた違う、どこか張り詰めた空気が電話口の向こうから漂ってきた。
 若宮の母・璃子は開口一番、息子の居場所を知らないかと聞いてきた。どうやら数日前から家に帰っていないらしい。知らないと答えると、璃子はため息を吐いた。

「やっぱりそうよね……」
「帰ってないって外泊ってことですか?」
「いいえ。それだったら連絡が来るはず。電話にも出ないしメッセージも読んでないのよ。おかしいとは思わない?」
「うーん……」

 正直、おかしいとは思わなかった。若宮はあの通り浮気性だし、前々から璃子の過干渉に辟易していたフシがある。それに嫌気が差して突然姿を消しても全く不思議ではないような無責任な性格だった。
 しかし、こんな本心を言えば面倒なことになるのは目に見えていたので口には出さない。

「会社も無断欠勤してるし、明らかにおかしい……何かあったのよ」
「警察には行ったんですか?」
「もちろん。でもあれは動かないわよ。明らかに事件性のある証拠がないと何にもしてくれないのね、警察って。本当使えない」

 そこに関しては時籐も同意だった。

「友人とか会社の同僚とかは当たってみたんですか?」
「ええ、職場の人には会社まで行って聞いたわ。でも何にも知らないみたい。友達の方は連絡先がわからなくて……あの子携帯持ってっちゃったから。もしかしたらあなたのところに行ってるかもと思ったけど、行ってないのね」
「ええ。ここ最近は全く」

 若宮が時籐の新居に来たのは数えるほどしかない。
 一回目は別れてから一年ほどがたった頃。ようやく立ち直ってきた時籐が若宮家に一方的な番解消の賠償をさせたことに文句を言いに来たのだ。若宮はその時、愛が冷めたら別れるのは当たり前だとかほざいて自分の行為を正当化した。何を言ってもそのスタンスを変えない相手に話が通じないと判断した時籐は、もう二度と来るなと言って扉を閉めた。それが新居への初めての訪問だった。
 二回目はそれから半年ほどが経った頃。その時は本当にしょうもない訪問で、平日の夜中にいきなり来て、妻が妊娠中だから抱かせてくれとか言ってきた。病気を移されるのが嫌だからそういう店には行きたくないという。それを明らかに酔った様子の若宮に言われ、本当にどうしようもないアルファだな、と呆れ返ってものも言えなかった。その時はエントランスの鍵すら開けなかった記憶がある。自分がなぜこんなクズと付き合っていたのか、心底謎だった。
 その後も何回か、こういったしょうもない訪問を受けたが、時籐は一切取り合わなかった。そうするうち、やがて若宮は来なくなった。
 そうして若宮が家に来なくなってもう二、三年が経つ。当然、最近も来ていなかった。

「そう……。本当にどこ行ったのかしら」
「さあ……」
「あなた、修斗の友達の連絡先とか知らないわよね?」
「知らないですね」
「昔の友達も知らない?」
「昔のっていうと学生時代とかですか?」
「ええ。大学時代はあの子一人暮らししてたからあんまり知らないのよ」
「知らないですね……顔見たらわかるかもしれないですけど」
「そう……」

 璃子は明らかに落胆した様子だった。そして、若宮が戻ってこない不安を吐き出すようにつらつらと語り始める。正直、こっちの知ったことではないと思ったが、今は曲がりなりにも修司と龍司の親代わりで二人の生殺与奪の権を握る人物だ、機嫌を損ねるわけにもいかない。
 それで社交辞令の相槌を打っていると、相手がふと思い出したように話題を変えた。

「そうそう、それから修司と龍司だけどね、今度の旅行には行かせないことにしました」
「えーと……連休のキャンプのことですかね?」
「はい。模試の順位がね、少し下がってたのよ。だから少し勉強させないとと思って。でも安心してちょうだい、息抜きはさせるから。沙希ちゃんの子供達も皆連れて、連休の半ばにS自然公園に行く予定だから」

 S自然公園は都内のアスレチック設備のある大きな公園で、休日ともなれば家族連れで賑わう場所だ。時籐も子供達を連れて行ったことがある。公園の中央に大きな湖のある、自然豊かなところだった。
 だから、子供達を連れて行くことに問題はない。問題は、璃子が勝手にキャンプをキャンセルしてそこに連れて行こうとしていることだった。

「……もう色々と準備してるんですけど」
「うーん、そうよね、ごめんなさい。でも、やっぱり一泊の旅行はさせられないかなって」
「何で璃子さんが決めるんですか」
「だって、今あの子たちの親は私達だもの。法的にも実質的にも。そうでしょう? あなたが引き取った後はしたいようにしたらいいと思うけど、今は修斗の子なのよ。それをあなたが勝手に連れて行ったら誘拐になる。それ、わかってるわよね?」
「………」

 実際、璃子の言う通りだった。まだ親権変更の手続きは完了しておらず、親権は戻っていない。法的にはまだ修司と龍司の親ではないのだ。無理にキャンプに連れて行けば逮捕されるリスクすらあるだろう。

「それにお相手のことも実はちょっと心配だったのよ。更科さん、でしたっけ? その方、本当に大丈夫なの? 昔アルファと付き合ってたみたいだけど、騙されてない?」
「ちょっと待ってください、アルファと付き合ってたって……何かの間違いじゃないですか? あいつアルファには興味ないですよ」

 その話は青天の霹靂だった。アルファに興味はない、ときっぱり言い切った更科がフラッシュバックする。嘘を言っているようには見えなかったが……。

「あなたにはそう言ってるのね。でも事実よ。そういうお店で働いていた時に出会ったみたい。斎藤尊っていうアルファよ。そもそも、そういうお店で働いていたってこと自体違和感じゃない?」
「それは、経済的な事情で……」
「じゃああなたはお金に困っていたとしてオメガのゲイバーで働こうっていう発想になるの? 少なくとも私はならないわね」
「……なんていう店ですか? 更科が働いてたの」
「『アポロンの矢』っていうお店みたい。そっちの界隈では有名な店らしいわ」
「………」
「いずれにせよ、その辺ハッキリさせておいた方がいいわよ、余計なお世話かもしれないけど。それに考えたくもないけれど、子供が目当てっていう可能性もあるしね。最近そういう事件多いじゃない? いるのよ、そういうアルファって」
「………」
「だから、そういうのがハッキリしてからの方がいいと思うのよ、泊まりで更科さんとどこかに行くんだったら。子供達を思ってのことなの、わかってくれるわよね?」
「……わかりました」

 そう答えるほかなかった。
 璃子はその後も若宮の安否についての心配をつらつらと述べていたが、そんな話は頭に入ってこなかった。頭の中をぐるぐると回るのは、更科がアルファと付き合っていたという話だけ。
 璃子の嘘という可能性もあるが、店の名前まで出して簡単にバレるような嘘をつくメリットがない。おそらく真実かそれに近いことを言っているのだろうと思った。
 その後、時籐は電話を終えて机に戻り、仕事を再開した。しかし全く手につかず、書類は遅々として片付かなった。

 ◇

 翌日もそのことが気になり過ぎて業務にまで支障をきたした。普段はしないケアレスミスを連発し、報告書の作成も、書類整理も遅々として捗らないのだ。おかげで大量の仕事を持ち帰る羽目になった。
 これでは駄目だと思った時籐はその日の夜、かつて更科が働いていたというアルファのゲイバー『アポロンの矢』に足を運んだ。
 その店は、かつて訪れたバー『ディケの秤』からそう遠くない場所にあった。日本随一の繁華街にある雑居ビルに入っており、入り口には小さく「ベータやオメガの方の入店はお断りしております」と書かれている。つまりアルファしか入れない店ということだろう。アルファ同性愛者の店なのだからそれも頷ける。

 店に到着した時籐はその注意書きを無視し、店内に足を踏み入れた。すると、すぐさま匂いでオメガだと嗅ぎつけた店員が飛んできて時籐を追い返そうとする。その店員を逆に買収して更科の情報を聞き出すことにした。
 時籐はまず事情を説明し、相手との結婚を考えているのでどうしても過去のことを知りたい、と少し話を盛って説得を開始した。そして十分な金を握らせると、店員はペラペラと更科について話し出した。
 その店員の話によると、やはり更科がここで働いていたというのは事実だった。働いていた時期は今から六年ほど前、期間は約二年間で、二十四歳から二十六歳頃までバーテンダーをしていたようだ。
 懇意にしていた客は当時三十過ぎのサラリーマンで、大企業勤めのエリートだったらしい。そのアルファと雰囲気が似ている、と何の気なしに発された言葉がやけに引っかかった。

 そのエリートアルファのことが猛烈に気になりだした時籐は、名前を聞いた。しかし、お客様のプライバシーに関することなので、とそこは教えてくれない。そこでもう一万円ほど握らせると店員はあっさり白状した。
 そのエリート男の名前は斎藤尊――清潔感のある美丈夫で、男気のある性格も手伝ってバーでの人気は高かったという。その斎藤が気に入ったのが更科だったらしい。
 時籐はその名前を聞いた瞬間、がっくりときた。璃子が口にしたまさにその名だったからだ。
 どんな人物か遠目にでも確認したいと思った時籐は、斎藤が今でもまだ店に来ているのかを聞いてみた。しかし店員は、ここ最近は顔を見ていないと答えた。時籐はそれだけ聞いて、店を後にした。
 そうしてどんよりした気分のまま帰宅する。夜は更科とゲームの約束があったが、そんな気にもなれず適当に体調不良と言い訳して別のオフラインゲームを起動する。
 そして一心不乱に都市建設をしながら、更科が自分と似たアルファと付き合っていたという事実を何とか消化しようとするのだった。

 翌日、時籐は更科に子供達がキャンプに行けなくなったことを伝えた。もちろん義母の更科に対する不信感が主たる理由であることは伝えず、二人の成績が下がったことが理由であることだけを伝える。
 更科は残念がりながらも、せっかく計画したんだから二人で行かないか、と誘ってきた。時籐は迷ったが、承諾した。最近互いに忙しくて会えていなかったので、もういっそキャンプに行って斎藤の件について白黒つけようと思ったからだ。電話で話せるような内容ではないので、会って話したかったのだ。
 そうして結局、キャンプには二人で行くことになった。時籐はモヤモヤした気持ちを抱えたまま、出発までの数日を過ごすのだった。

 ◇

 五月の大型連休二日目――。よく晴れ、初夏の風が吹くその日、更科と時籐は奥多摩に向かった。
 天気はこれ以上ないほど晴れ渡っており、気温もちょうど良いまさに行楽日和だったが、時籐の頭の中は更科の元恋人のことで一杯だった。かつて更科と付き合っていたらしい斎藤というアルファのことが頭から離れない。
 だからいざキャンプ場に着いたら施設側のダブルブッキングが判明したことすら、すぐには気づかなかった。どうやら手違いで別の家族とダブルブッキングされてしまったらしい。その家族が小さい子供連れなのを見て、二人は譲ることを決めた。そうして平謝りする施設の職員から宿泊料を返金してもらい、キャンプ場を後にする。
 そして車に戻り、周辺のキャンプ場に空きがないかを調べ始めた。しかし、ゴールデンウィークということもあって予約制のところはどこも空きがない。そこで予約不要のキャンプサイトで空きを探そうということになり、周辺のキャンプ場を見て回った。しかし、やはりどこも一杯だった。
 これは帰る流れか、なら家に着くまでに斎藤のことを聞きださないとな、と思っていると、更科が思いがけない提案をした。

「ちょっと山奥にもう一個キャンプ場あるの知ってるんだけど、そこ行ってみねえ? あんま景色とか良くないし施設とかも無いんだけど、そこなら空いてるかも」
「いいけど」
「よし、じゃあ行ってみよう」

 更科はそう言って車を発進させた。そしてナビを見ながら山奥に向かって進んでいく。そうして到着したのは、駐車場ともいえないような駐車スペースだった。
 他のキャンプサイトとは違って車の乗り入れができないため、そこに車を停めて徒歩で向かう。十分も歩くと、鬱蒼と生い茂る木々に囲まれるようにしてあるこぢんまりしたキャンプ場が見えてきた。
 最初に行く予定だったキャンプ場はかなり開けた場所にあり、景色が良くてそばに小川も流れていたが、こちらはその正反対だった。
 周りに木々が生い茂っているせいで景色も良くないし、雰囲気もなんとなく暗く、川も流れていない。管理事務所や売店、ロッジ等の施設もなく、キャンプ場の名前が書かれた木の立て看板がぽっと立っているだけの、空き地のような場所だった。
 そして案の定、人も少なく、二人を覗いて二、三組しかいない。家族連れというより単身者のキャンパーが多い印象だった。スペースもかなり空いている。
 それを見て、更科が声を弾ませる。

「ラッキー、空いてるじゃん」
「こんな時期に空いてるなんてな。良いとこ知ってるじゃん」
「うん。前に来たことあって」

 二人は辺りを見回して良さそうな場所を見つけると、テントを張り始めた。作業しながら斎藤の話をいつ切り出そうかと考えを巡らせていると、ふっと背後に人の気配を感じた。振り返ると、五十代半ばくらいの凡庸な顔立ちの男が笑みを浮かべて立っていた。緑色の登山着を着ているところを見ると、ここまで歩いてきたのかもしれない。
 男は、少し申し訳なさそうな表情で言った。

「あっ、ごめんね、驚かせちゃって。いやなに、ご近所だから挨拶だけしておこうと思ってね。ほら、そこ」

 そう言って十五メートルほど先に張られた紺色のテントを指差す。どうやらあのテントの住人らしい。
 ベータの匂いに混じってかすかにアルファの香りがする、不思議な体臭の人物だった。

「そうなんですね、よろしくお願いします」
「よろしく。いや一晩だけでもね、こういうの大事だから。ご近所と顔見知りになっておくのが一番の防犯ってね。こういうところだとたまに物を盗られたりするからね」
「そうなんですか?」

 男はしたり顔で頷き、声を潜めた。

「そうそう。この前向こうのキャンプ場でもあったらしくてね。あ、向こうってXXキャンプ場のことだけど」

 それはまさに二人が行こうとしていたキャンプ場だった。

「そんなことがあったんですか?」

 男と話していると、テントを張る作業を終えた更科が近づいてきて会話に加わった。

「なになに、何の話?」
「いや、実はさっき行ったキャンプ場で盗難があったらしくてさ……。あ、こちらは――」

 名前を聞いていなかったなと言いよどむと、男が朗らかに名乗った。

「加賀です。よろしく」
「あっ、はじめまして。更科です」
「時籐です」
「二人は……?」

 そう言って交互に二人を見、言外に関係性を聞いてくる加賀に、更科が答える。

「番です。結婚はしてないんですけど」
「ああ、最近増えてるもんねえ、そういう人。しかし女の子が泣くよ、こんな格好良い二人がくっついちゃったらね」
「いやいや、そんなことないですよ」
「いや、あるね。娘が嘆いてたよ、いい男同士でくっつくからモブしか残ってないって」
「ははっ、娘さんいるんですか?」

 更科の問いに、加賀が悲し気な表情をする。

「ああ。今日も一緒に来るはずだったんだけどね、すっぽかされてしまったよ。ついに好きな人と会う約束を取り付けたからそっちを優先させてって。カミさんもいないし、おかげで一人で来る羽目になっちゃったよ」
「それは残念ですね。でもきっと娘さんもいずれお父さんのありがたみに気付きますよ」
「そうかな?」
「ええ、絶対。よく言うじゃないですか、親の心子知らず、でも親になったら分かるって」
「本当にそうかもなぁ……。いやごめんね、いきなりこんな話しちゃって。君たちがちょうど息子と同じくらいの年だったもんだから、つい話しかけてしまって」
「息子さんもいるんですね」

 時籐が言うと、加賀は不意に黙り込んだ。そして少しの沈黙ののちに小さな声で言った。

「いたんだ。……生きていれば、君たちと同じくらいの年だった」

 そこで自分の失言を悟った時籐はフォローの言葉を探したが、結局検索に失敗し何一つ気の利いた言葉は出てこなかった。それをフォローしてくれたのはコミュ力お化けの更科だった。

「そしたら、今日だけは僕たちを息子だと思ってくださいよ! 僕今日、バーベキューとかキャンプファイヤーとかやろうと思って色々準備してきたんすよ。酒も色々。良かったら一緒にどうすか? せっかくの休みだし楽しみましょうよ」

 すると、加賀はパッと表情を明るくし、うつむけていた顔を上げた。

「いい……のか? こんなおじさんといてもつまらないだろう」
「いえいえ。僕らも本当はもっと大人数で来るはずだったんですけど、都合が合わなくて二人になっちゃったんでちょうどいいっす。人数多い方が楽しいし。な?時籐」
「あ、ああ……」

 更科から同意を求められ、頷く。まさかここで嫌とは言えなかった。
 斎藤の件は夜、テントに戻ってから言おう。もっとも、飲み過ぎてそんな話ができない可能性もあるが。
 まあいい。それならそれで、明日の帰路で話せばいいだけだ。息子を亡くし、娘に約束をすっぽかされ、妻もいない孤独な男性を捨ておくわけにもいかないから仕方ない。
 更科の提案に、明らかに加賀のテンションは上がっていた。

「ありがとう。これで食材も無駄にせずに済むよ。牛肉をね、娘と食べようと思って奮発して買ってきたんだ。でも一人ではとても食べ切れないから……本当に良かったよ。皆で食べよう」
「えー、いいんすか?」
「もちろん」
「やったー。えー肉、どこの肉っすか? まさかA5ランク?」
「ああ、確かA5だったはずだよ」
「すげー! バーベキューっつうか、もう焼肉パーティっすね!」
「ふふ、ちょっと見てみるか?」

 そう言って自分のテントに誘う加賀にいそいそとついていく更科の背中を見つめ、斎藤のこともこうやって篭絡したのか?と心の中で思う。
 更科がコミュ力お化けなのは今に始まったことではない。学生時代から、一部の嫉妬心に駆られた人間以外の全ての人間から好かれる体質だった。
 よく言えば社交的な人気者、悪く言えば人たらし。更科はそういう人間だ。
 だから更科に心惹かれる人間も多かったし、実際幾度となく告白されるのを見てきた。告白の手伝いをさせられたことさえある。
 更科はこういうアルファなので、当然年上の同性にもモテる。性的な意味でも、そうでない意味でも。
 しかし、同性――つまりアルファには全く興味がないと言っていたから、アルファから性的な好意を受け取ることはないのだと思っていた。
 だが、違ったのか? 本当はオメガよりむしろ――アルファの方が好きだったのか? それとも両方いけるのか?
 時籐と付き合ったのは、斎藤に似ていたから? 世間から隠し通さねばならぬアルファ同士の恋に疲れて時籐を代わりにしたのか?
 それともまだ……その斎藤とやらと続いているのか? 世間体のために自分を隠れ蓑にして?
 わからない、わからない……。どんなに考えても答えは出ない。しかし、考えずにはいられなかった。
 時籐がそうやって暗い疑惑に悶々としている間、加賀のテントからは更科の歓声や楽しげな笑い声が聞こえてきた。
 それにイライラが増してくる。
 まさか、加賀をも狙っているのではあるまいな? さすがにそんな尻軽だとは思いたくないが、あの天性の人たらしの魅力に抗える人間はそういない……それに加賀からはかすかにアルファの匂いがした。
 実はあの男もアルファ同性愛者で、更科と示し合わせてここに来たのではないか。そして、何も知らない時籐を見て愉しんで―――。
 そこまで考えたところで時籐は拳で太腿を叩き、思考を中断した。ばかげている。あまりにもばかげた妄想だ。こんな妄想をしてしまうところまで、追い詰められているのだ。
 今晩更科に直接聞こう。もうこれ以上考えたら病む。
 時籐はそう決めて、以降更科の過去について考えるのをやめた。そして、バーベキューの準備を始めた二人を手伝いにいったのだった。

 結果として、加賀の持参したブランド牛はほっぺたが落ちるほど美味しかった。外で焼いて食べるという調味料も手伝ってか、最近食べた肉の中で一番美味い。
 時籐はそれに舌鼓を打ちながら、加賀の家族の思い出話を聞き、自分たちの学生時代の話をした。やがて日が暮れてきても話は尽きることなく、三人は自作のキャンプファイヤーを囲んで酒を酌み交わしながら他愛のない話をした。
 話の端々から加賀がどうやら妻も亡くしているらしいこと、相当な愛妻家であったこと、子煩悩な父親であったことが推察された。こんなにいい人がなぜ天災のように次々と不幸に見舞われるのか、と思い、その後で神は乗り越えられる試練しか与えない――つまり大変な試練を与えられた人間はそれだけ強い、という言葉を思い出したりもした。
 そうして夜は更けてゆき、和やかな雰囲気でお開きとなった。泥酔というほどではないがかなり酒が入った二人は加賀に挨拶をして自分たちのテントに引っ込み、もぞもぞと寝袋の中に入った。
 すると、たちまち睡魔が襲ってくる。隣を見ると、更科は既に寝息を立てていた。
 まあ斎藤の件については明日話せばいいか。時籐はぼーっとした頭でそう考えると、睡魔に抗わずに目を閉じた。

 ◇

 次に目が覚めたのはそれから数時間後だった。辺りはまだ暗く、朝の気配はまだない。
 そんな時間になぜ起きたのかといえば、誰かに起こされたからだった。

「……君、時籐君、起きて」

 誰かに体を揺り動かされている。眩しい光に顔をしかめて目を開けると、目の前に加賀がいた。
 ぎょっとして思わず身を起こすと、ヘッドランプを着けた加賀が少し身を引く。どうやら眩しかったのはこのライトだったようだ。
 更科に目をやると、同じように起こされたらしく、ちょうど起き上がるところだった。

「う~~~ん………朝?」
「違うよ。でも、熊が出て……」
「熊?」

 寝ぼけ眼で問う更科に加賀が頷く。

「そう。今あっちのテントを漁ってる。今のうちに逃げないと」
「他の人は起きてるんすか?」

 ようやく目が覚めてきたらしい更科がテントの入り口の隙間から外を覗く。加賀は頷いた。

「ああ。全員起こした。皆逃げていったよ。君達が最後だ」
「残っててくれたんすか?」
「当たり前だよ。君たちは息子同然だって言ったろう? さあ早く。熊はものすごく足が速いんだ、逃げないと。地図なんかは全部俺が持ってるから大丈夫だよ。朝になるまでどこか別のところに避難しよう」

 自身が背負ったリュックを指して言う加賀にせかされ、時籐は咄嗟にリュックを持ってテントの外に出た。大丈夫とは言われたが、何となく不安だったのだ。更科は手ぶらのようだった。
 強い風が吹いていた。木々がざあざあと音を立てて揺れ、宵闇の向こうの脅威の気配をかき消している。加賀が教えてくれなければ熊などには気づかなかっただろう。
 本州だからツキノワグマしか出ないのはわかっている。かなり小柄で、本来臆病な雑食性の熊だ。
 しかし、いかに小柄といえども熊は熊。人類の中で最も身体能力が高いアルファでも、面と向かって戦って勝てる相手ではない。何より威圧フェロモンが効かないのだ。だから、早急にキャンプ場から離れる必要があった。
 一瞬、駐車場に置いてきた車に避難することが思い浮かぶが、加賀が熊がいると言って指差したのはまさにそちらの方向、キャンプ場の入り口側だった。車への避難は諦めざるを得ないだろう。
 二人は加賀に先導されるまま入り口とは反対側からキャンプ場を出て、道なき道を進んでいった。周囲に人の気配はなく、ただ強風にあおられる木々の音と三人の足音だけが響いている。
 加賀はしばらく行ったところで立ち止まり、二人を振り返った。そして手近な木の幹に腰を下ろし、息をつく。

「もうここまで来れば大丈夫だろう」
「そうっすね。つうか熊……マジヤバいっすね。見たんすか?」

 わずかに息の上がった更科が言うと、加賀は答えた。

「ああ。夜中にトイレに起きた時に偶然ね。被害が出る前でよかったよ、皆を逃がせた」
「他の人達はどの辺にいるんですかね?」
「さあ……。皆バラバラに逃げていったからわからない。でも装備は持っていたし、朝には戻ってこれるよ」
「だといいですけど……。熊ってこの辺結構出るんすか? 俺前も来たことあるんですけど、そういうの聞いたことなくて」
「前っていうのはどれぐらい前?」

 加賀の問いに、更科は腕組みをして首を捻った。

「うーん、二、三年前とかですかね。あと小さい頃に家族で来たこともありますけど、結構前っすね」
「ああ、だからか」
「だからって何がですか?」
「この辺で熊が出るようになったのはここ一年ぐらいなんだよ。どうやらここを餌場にし始めた熊の親子がいるらしくてね。でも去年の秋だったかな、猟友会の人が威嚇射撃で追い払ってからは出なくなっていたから大丈夫だと思ってたんだが」
「ああ、そうだったんですね。いやー、めっちゃビビりましたよ正直。トシさんいなかったらどうなってたか……。本当感謝っす。なあ?」

 更科から同意を求められ、頷いて礼を言う。更科は既に加賀のことを下の名前の最初を取った愛称で呼ぶようになっていた。初対面の人との距離の詰め方がすごい。

「ありがとうございました」
「いやいや、困ったときはお互い様ですから。僕も寂しい夜を過ごさずに済んだしね。そのお返しみたいなもんだよ」

 すると、更科が伸びをしながら言った。

「あー、トシさんに出会えてよかった! じゃなかったら死んでたかもしんねーしな、俺たち」
「だな。本当間一髪っていうか」
「山は意外と危険が多いからねえ。気をつけるにこしたことはないよ」

 そう述べる加賀に更科がうんうんと頷く。

「マジそれっすね」
「それじゃあ僕はちょっと一服してくるよ」
「あ、いってらっしゃい」

 そう言って見送る更科を横目に、副流煙にまで配慮するなんて本当に礼儀正しい人だな、と思う。中高年の男性というのはえてして傲慢で横暴で自己中心的な人が多いので最初は多少警戒したが、加賀は全くそういった粗野さがない紳士だった。おそらく、育ちが良いのだろう。
 そんなことを考えながら更科と二人、加賀の帰りを待っていると、不意に木立の向こうから悲鳴が聞こえた。獣や鳥ではない、間違いなく人間の男性の悲鳴。それにハッと顔を見合わせ、二人は立ち上がった。
 そうして加賀が向かった方向に目をやると、が動くのが見えた。
 そう、二つーーつまり、あそこには加賀の他にもう一人、。そしてその人物は決して友好的には見えなかった。
 こちらにまで余波が来るような威圧を放ち、片手を振り上げる。その瞬間、ヘッドランプの光に反射して刃物のようなものが見えた。
 そしてためらいなくその手を振り下ろした。次いでもう一度悲鳴が上がる。熊などではない、明らかに悪意を持った人間が加賀を襲っていた。
 それを見て二人は固まった。そして数秒後に更科が我に返ったように加賀さん、と叫んで助けに行こうとする。時籐はとっさにそれを止め、更科の口を塞いだ。

「ンーーーっ」
「しっ!」

 体をじたばたさせて訝しげにこちらを見る更科を後ろから羽交い締めにし、声を出すなと警告する。アルファとオメガの腕力差を考えれば振り払うこともできただろうが、更科はそうしなかった。
 そして要求通り口を閉じて大人しくなる。それを確認し、更科を解放した。
 そして、小声で何だよ、と聞いてくる相手に抑えた声で言う。

「逃げよう」
「いやいや、助けに行かないとトシさんが……」
「相手武器持ってんだぞ? それにさっきの威圧……尋常じゃなかった。あんなん食らったらお前だって……」

 アルファの発する威圧フェロモンの強さは、そのアルファの強さに比例する。
 そして今先発されたフェロモンは、尋常ではない強さだった。二十メートル近く離れているこちらまで伝播するような威圧フェロモンなど、並のアルファに出せるものではない。ヒエラルキートップ層のアルファに違いなかった。
 そのアルファが武装して敵意を向けてきているのだ。更科には悪いが、敵うわけがないと思った。死にに行くようなものだ。
 そう思って止めているのに、更科は抵抗する。

「俺、フェロモン感じないから大丈夫」
「いや感じてただろ。俺と番になった時ラットになったじゃん」
「それとはまた別だろ、威圧は」
「別だけど威圧フェロモンにも反応するようになってるかもしれないだろ。あの後試したのか?」

 あの後というのは、時籐と番になった後という意味だ。
 あの時、時籐の性フェロモンに反応してラットになった更科が、その影響で他のフェロモンに反応するようになっていない保証がない。 
 もしそうなっていたら、更科も加賀と同じ運命を辿るだろう。
 時籐には正直、加賀が助かる未来が見えなかった。

「試しては、ないけど」
「じゃあ行っちゃダメだろ」
「でも、助けに行かないとトシさんが……。もうイチかバチかで行くしかねぇだろ。俺、トシさんのこと見捨てらんねえよ」
「んなこと言ってる場合じゃねぇだろ。ぜってぇヤバいって。逃げよう」
「でも……」
「加賀さん一撃で倒れたんだぞ? 絶対何か武器持ってるって」
「でも行くしかねぇだろ。逆にお前は見捨てられんのかよ? あんな良くしてくれた人を。さっきだって……トシさんがいなかったら、俺ら終わってたんだぞ。一人で逃げても良かったのに最後まで残って俺ら起こしにきてくれて……そんな相手を見殺しにできんのかよ?」
「……お前が帰らなかったら、ご家族はどう思うと思う? ご両親は? お兄さんやお姉さんや妹さんは? そのお子さん達は? 家で待ってる犬は? 郷原と吉澤は?……修司と龍司は? お前を待ってる人達のことを考えてくれ。命をかけて賭けなんかするな」
「けど……」
「お前が行くなら俺も行く。お前は、俺の命を危険に晒すのか?」
「………」
「このことは俺が全部背負うから。だから来い」

 そう言った瞬間、不意に周囲が不気味なほど静かになった。嫌な予感がして加賀の方を見ると、いつの間にかその人物が動きを止めて佇んでいる。そうして、こちらを見た。
 ヘッドランプの光がこちらを向く。その瞬間、時籐はポケットに入っていたスマホを取り出してライトを点け、更科の腕を掴んで走り出した。

「あ、ちょっと……」
「いいから来い!」

 真っ暗な足元をスマホのライトで照らしながら山中を進む。振り返ると、その人物はこちらに向かって走り出していた。それを見て、最初は抵抗していた更科も一緒に走り出す。
 時籐は、胃の底が冷えるような恐怖を味わいながら、萎えそうになる足を叱咤して走り続けた。足場は悪く、何度も足を挫きそうになりながら、それでも走り続ける。
 もう自分がどこにいるかさえわからない。鬱蒼と生い茂った木々の海の中で完全に方向感覚を失いながら、二人は山を登って下った。十分か十五分かそれ以上かはわからないが、とにかく息が切れて走れなくなるまで走った。
 先に根を上げたのは時籐の方だった。息が上がってもうこれ以上走れなかったのだ。立ち止まると、更科も立ち止まった。
 時籐は辺りを見回し、安全を確認してから一旦リュックを降ろした。そして地面に座り込む。

「はぁ、はぁ、はぁ……」
「はぁ、はぁ……ここまで来れば大丈夫かな?」

 声を潜めて聞いてくる更科に、息を整えつつ頷いた。

「多分な。つーかここどこだよ?」
「スマホのマップ見れば?」
「ああ、確かに」

 時籐は手に持っていたスマホのライトを消し、登山アプリを起動した。すると、あらかじめ入れておいた山岳地図に現在位置が示される。電波は入っていないが、電波無しで使える登山用のアプリなので現在地が分かった。

「ナイス~」

 そう言う更科はリュックもスマホもキャンプ場に置いてきてしまったようだ。自分だけでもスマホを持ってきてよかった、と思いながらマップを覗き込むと、隣に座った更科が顔を近づけてきて一緒に見る。
 今二人がいるのは奥秩父の山岳地帯だった。等高線のついた山岳地図の標高千三百メートル付近、西にT川が二股に分かれる分岐点がある山の中腹に現在地を示すマークがついている。
 だが、どこの山にいるのかとその山の名前を確認した瞬間、背筋が凍り付いた。それは冬に二人のオメガの遺体が出たR山だったのだ。

「おい、これ……」

 そう言ってR山を指で指し示すと、同じことに気付いたらしい更科の顔色が変わる。

「えっ、R山って……」
「オメガの人達が見つかったとこだよな?」
「そう、かも……」
「あのキャンプ場から結構近かったんだな」
「ごめん、気付かなかった」

 それは仕方ないが、なぜわざわざこうして危険人物がいる領域に来てしまったのか。ツイてなさに思わずため息が漏れる。

「まあ、朝になったら他の人と合流できるだろ。そしたらどうするか考えよう」

 警察に通報しようにも電波がなくてできない。通報は明朝以降に他のキャンパー達と合流し、電波の届くところまで下山してからになるだろう。

「だな。……トシさん、大丈夫かな?」
「……わからない」
「………」
「怒ってる? 止めたこと」
「怒ってるっつーか……ちょっと意外だった。俺より先に助けに行くかと思ったから」

 その言葉が胸にグサリと突き刺さる。しかし、あの決断は後悔していなかった。

「幻滅させて悪かったな」
「別に幻滅とかはしてないけど……でも心配だな、トシさん」
「……お前を失いたくなかった」

 本音を言うと、更科が振り向いてこちらをまじまじと見た。それに気まずい思いをしながらぽつぽつと話す。

「最低な奴って思ってくれていいよ。でも行かせたら……お前が戻って来ない気がした」
「……そっか。まぁあいつも俺たちに気を取られてたみたいだし、その間に逃げられたかもしんねーしな。明日、トシさんを探しながらキャンプ場戻ろうぜ」
「……ああ」
「にしても、リュック持ってきてくれてよかったよ。これがなきゃ野ざらしだったな。ツェルト持ってきてんだろ?」
「あるよ」

 ツェルトというのはコンパクトに持ち運びできる簡易テントのようなものだ。今回、キャンプに来るにあたり初心者の時籐は色々なサイトを調べ、必要な用具を調べた。
 その中で、山に行くならツェルトは絶対必要と書いてあったので入れてきたのだが、今思えばそれは登山者向けの情報だったのかもしれない。よく考えたら四人が泊まれるテントを持っていくのに、ツェルトが必要なわけがないからだ。
 だが、いずれにせよツェルトは役に立った。

「じゃあそこで寝よう。つっても何かヤバい奴もいるっぽいし、交代で見張りした方がいいかもだけど」
「そうだな。今二時過ぎだから……二時間ぐらいずつ交代で寝るか」
「だね。よし、じゃあ組み立てるか。そのライトで照らしといてくれる?」
「オッケー」

 スマホのライトで照らしていると、更科はものの数分でツェルトを組み立ててくれた。その手ばやさに感心していると、昔から山には良く来るからな、と答える。更科家はアウトドア派らしく、小さい頃からたびたび登山やキャンプに連れて来られたという。この辺りの山にも詳しいようだった。

「最近もよく来るの?」
「まあ時々な。独身の友達とかと。前は郷原とか吉澤とか誘ってたけど、家庭持っちゃったからな」
「俺は? 誘われた記憶ないんだけど」

 記憶の中では、今回のキャンプ以外、一度も誘われたことがない。それが少し不満で聞くと、更科は少し笑って答えた。

「だってお前虫嫌いじゃん。逆に来んの? 誘ったら」
「今来てるだろ」
「確かに……。でも元々は修司と龍司のためだろ?」
「まあ……否定はしない」
「しかし残念だったよなぁ、あんなに楽しみにしてたのに来れないなんて」

 更科の言う通り、二人、特に龍司ははた目から見てもわかるほど今回のキャンプを楽しみにしていた。家に来るたび指折り数えて待ち、キャンプでどんなことをするかを更科と楽しげに話していた。だから、さぞかし落胆しているだろう。
 しかし、とんでもない危険人物と遭遇した今となっては、連れて来なくて本当に良かったと思っていた。

「だな。でも今回は来なくてよかったよ。来てたら大変なことになってただろ」
「それはそう」
「というかあそこのキャンプ場がR山だって気付かなかったの?」
「キャンプ場じたいはR山じゃないよ。けど近かったんだと思う。ごめん、気付かなかった」
「まあいいよ。不幸中の幸いで子供達も来てないし。明日キャンプ場に戻って他の人と合流すれば大丈夫だろ」
「だな……」

 そうは言うものの、更科の声は沈んでいた。そして黙り込んでしまったので一体どうしたのかと思って聞くと、やっと口を開いた。

「いや俺……こんなんじゃ親になれねえなと思って」
「……どういう意味?」

 そう聞くと、更科は目を伏せがちに話を続ける。暗闇に浮かび上がる白い肌に、長いまつげが影を落とした。

「俺、昔っからずっと子供好きでさ。保育士になりたいって思ったこともあったぐらい。だから甥っ子とか姪っ子とか友達の子供とか、めちゃくちゃ可愛がってたわけ。でもそれっていいとこ取りしてるだけだったんだなって気付いたっていうか……。可愛がるだけ可愛がって何も責任取らなくていいわけじゃん? でも親になるってそういうだけじゃダメなんだなって。本当に子供の安全を守らなきゃないんだなって今更気付いたっていうか……」
「でもお前は修司と龍司の親じゃないじゃん。ちゃんと確認しなきゃなかったのはこっちだよ」
「けど……なりたいって思ってる」
「えっ……?」

 更科の言葉に一瞬頭が真っ白になる。何を言われたのかわからなかった。
 更科は伏せていた目を上げ、まっすぐにこちらを見た。

「俺、二人の親になりたいよ。めちゃくちゃ可愛いんだ、修司と龍司。それに、ずっと家族が欲しかった」

 その瞬間、璃子の言葉が脳裏をよぎる。

『子供目当てのアルファもいるのよ―――』

 更科が子供好きなのは、本当に純粋な気持ちで好きなのか? それとも……邪悪な動機があるのか?
 そんなことは考えたくもない。だが、ここまでとんとん拍子にことが進むと疑いを払拭しきれなかった。
 しかし、もし疚しい動機があったとして、直接聞いたところで真実を話すわけがない。これに関しては子供達に聞くしかないだろう。
 だが、アルファと付き合っていた件については聞ける。もしかしたらそこから綻びが出るかもしれないし、やはり聞いておくべきだろう。
 そう考えた時籐は、思い切って斎藤のことについて聞くことにした。

「まあお前の気持ちはわかったけどさ……でもお前、本当に俺のこと好きなの?」
「好きだよ。じゃなけりゃ番になんてなったりしないよ」
「ふーん」
「え、何、疑ってる?」

 怪訝な顔でこちらを見る更科に、腹をくくって問う。

「いや、本当にオメガのこと好きなのかなって。だって昔アルファと付き合ってただろ」

 すると更科は顔をこわばらせ、目に見えて動揺しだした。

「なに、急に」
「若宮の母親がお前の素性調査したんだよ。何か気になったらしくてさ。そしたらわかったらしいんだよ。『アポロンの矢』っていう店にいた時、客と付き合ってたって。……斎藤って人。それ本当?」

 内心否定して欲しかったが、更科は沈黙ののちに首肯した。

「まあ……否定はしない」
「でも前にアルファには興味ないっつってたよな? あれ嘘だったの?」
「嘘じゃないよ。嘘はついてない」

 往生際悪く認めない更科の胸倉をつかみ上げたいのを我慢し、低い声で問い詰める。

「嘘だろ。そもそもそういう店で働いてたのだっておかしいだろ。普通やんねえって」
「それは、説明したじゃん。最初知らなかったんだって」
「でもわかったら辞めるだろ普通」
「給料が良かったんだよ」
「どんなに給料が良くてもそんな店で働けるか? その気もないのに? 俺には無理だね」

 すると殊勝な態度だった更科がムッとしたように時籐を睨みつけた。

「当時うちがどんだけ大変だったかも知らないだろ。金がないって……本当に大変なんだよ。金で苦労したこともない奴が勝手なこと言うな」
「逆ギレかよ。図星なんだろ」
「だから違うって」
「じゃあ何でそんな奴と付き合ったんだよ!?」
「しっ!」

 無意識に声が大きくなっていた時籐を制し、更科が辺りを見回す。それで近くに殺人鬼がいるかもしれない状況を思い出し、少し冷静さを取り戻した。
 そして周りの木立を見回し、耳を澄ます。しかし、人の気配はしなかった。少しホッとしながら謝る。

「悪い……」
「あんま大きい声出すなよ。ちょっと中で話すか」

 そう言ってツェルトを顎でしゃくった更科に頷き返し、相手に続いて中に入った。中は暗かったが、暗闇に目が慣れていたので、何も見えないほどではない。
 周囲に危険人物がいるかもしれず、明かりをつけられないので、二人はそのままの状態で話を続けた。
 向かい側に胡坐をかいて座った更科が口火を切る。

「その人、尊さんっていうんだけど、何で付き合ってたかっていうとさ……まぁ色々あって。最初は普通の友達だったんだ。出会いは客としてだったけどめっちゃいい人でさ。話も合うし面白いし、色々気にかけてくれたりしてだんだん一緒に遊ぶようになった。でも誤解させたら悪いと思って、アルファに興味ないってことは最初に言ってあった。ほら、そういう人が来る店だったし」
「うん」
「俺その頃はダブルワークっていうかトリプルワーク?みたいな状態だったから休みなんてほとんどなくてさ。でもたまの休みには釣りとかそれこそキャンプとか行ってさ、尊さんもアウトドア派だったし、それでめっちゃ楽しかった。最初の頃は――別に問題なかったと思う。出先で飯奢ってくれるとかその程度だった。普通の年上がやるようなことだよ。でも……だんだん変わっていった」

 更科はそこで一旦言葉を切り、唇を舐めた。そうしてまた話し出す。

「最初は金だった。美味い物でも食ってって結構な額の……小遣いくれるようになって。でもなんか違うと思ったから断ったんだ。何回も断って、そしたら今度は物になって。新しい釣り竿とか、登山道具とか、時計とか……最初から高い物じゃなくて安い物からだんだん高くなっていったから、違和感に気付かなかった。元々皆の兄貴分みたいなところあったし、誰にでもそうしてるんだろうって。実際本人もそう言ってた。だから貰ってしまった。俺も甘えてたんだと思う。そんである日……何かそういう雰囲気になった時、断れなかった。不思議なもんだよな、そういう時って今までその人から貰ったものとか、やってもらったことがバーッと頭に浮かぶんだよ。それと自分の感情を天秤にかけてそっちが勝っちゃったってことだと思う。それだけすごい色々貰っちゃってたんだよ」
「でも、お前が頼んだわけじゃないだろ」
「そうだけど、何ていうかなぁ……タダより高いものはないって言うけどマジでそれっていうか……」
「で、付き合い始めたってこと?」
「そう」
「……流され過ぎじゃない?」

 つまりは勝手に貢がれて、その罪悪感から付き合ったわけだ。チョロい。チョロすぎる。それにお人好しにしても度が過ぎる。
 友達としてという約束で付き合ったにもかかわらずそういうことをしてきたら、自分だったら激怒して縁を切るだろう。
 暗にそういう非難をこめて言うと、更科はうーん、と唸った。

「でもその人ちょっと怖いところもあってさ、うちの借金肩代わりするっつって家族にまで会いに来たんだよ」
「何だよそれ……」
「何かお父さん?が芸能人だったらしくて、亡くなって遺産入ったからって……。結局それは親が全力で止めたんだけど、何かそういうところもある人だったからちょっと怖くてさ。家の場所も家族も知られてたから」
「それめっちゃやべぇ人じゃねえの?」
「まあまあ、普段はいい人なんだけどさ、ふとした時に怖ぇっつーか、そんな感じ。だからまあ、そういうのもあってしばらく付き合ったかなぁ。けどやっぱ体は正直っていうか、反応しないんだよね。別にゼロとかではないんだけど全然って感じで……だからアルファに興味ないっていうのは本当。そんでまあ誤魔化し誤魔化しっつーかそんな感じで、何とかなるかなーと思って付き合ったけど、結局駄目だったな。アルファじゃなければまた違ったのかもしれないけど」
「その人がオメガだったら……別れなかった?」
「うーん、どうだろうな」
「俺とその人って似てんの?」
「お前と? いや全然似てないよ。まぁぱっと見の印象は似てるっちゃ似てるけど、中身は全然違う。お前といるときは何ていうか……完全に素でいれるんだよな。尊さんはいい人だったけど、いつもどっかで気ぃ遣ってたと思う」

 その言葉に少し気分が上がってくる。まあ確かにあの店員の言うように見た目は似たタイプなのかもしれない。そういう系統がタイプなのだろう。
 そして、そういうものは簡単には変わらないことも理解できる。実際、時籐も更科と似た系統の容姿のアルファばかり――若宮を除いては――と付き合ってきたからだ。
 だから見た目のタイプが変わらないのは理解できる。重要なのは、内面ではっきりと二人の差異をつけていることだった。

「ふーん」
「結局長続きしないのかもな、そういう相手って。親友と結婚するのが一番いいっていうけど、あれはマジかもしれん」
「……もしかして今プロポーズされてる? 嫌なんだけど。こんなくらーい場所でさ」

 冗談を言う余裕が出て来た時籐がそう言うと、更科がくすくす笑った。

「まさか。こんなとこでしないよ」
「だよな、良かった。ヨーロッパ一周旅行のクルーズ船の上で夕日をバックにプロポーズしてくれるんだよな?」
「えっ、意外。そういうの好みなんだ」
「んなワケねえだろ、バカ。LucIdの試合で公開プロポーズしろよ。マスターズ優勝した瞬間に」
「えっ、じゃあLucId勝たないと結婚できないってこと?」
「大丈夫、次は優勝するから」

 日本のeスポーツチーム・LucIdは昨年の『テイク・ザ・ベース』の世界大会で惜敗し、五位だった。

「いやでもマジで惜しかったよな、最後の試合。あれは勝てた試合だった」
「完全に読まれてたよな。エイムは全然負けてなかったっつーか、むしろ勝ってたのに」
「本当だよ。悔しかっただろうなぁ」

 そうやって話題は何でもないことに移っていった。加賀のことも、正体不明のアルファのことも気になるが、二人とも口に出さない。今心配してもどうしようもないからだ。それに、下手に突っ込んだら二人ともパニックになる気がした。
 無意識にそれを避けるように他愛のない話だけをした。二人はそうやって平静を保ちながら、夜明けを待つのだった。
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