123 / 349
屋上
1
しおりを挟む同じ型だと言うのに、まったく別物のように手に馴染まない携帯が小さく震える。
アドレスを登録していない相手からメールが届いたようだった。
カチ…
『屋上』と、その二文字だけのメールを見て、唇を噛む。
司郎からの呼び出しなのは明らかだった。
「携帯替えたの?白だったろ?」
浩平に覗き込まれ、慌てて携帯を閉じる。
「あ…その、修理に出してて…代替えのなんだ」
「修理より新しいのにした方がよくない?」
「気に入ってたから」
「俺、この前新しいのに変えたんだ!綺麗な色だろ?」
傷一つないブルーの携帯を見せ、嬉しそうに言う浩平に苦笑いを返す。
最新の物にしたのを自慢したいようだった。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」
「え!?授業始まるよ?」
驚いて声を上げる浩平を置いて教室のドアへと向かうと、威がこちらを見ているのに気がつく。
「…」
そちらに顔を向けることもできず、できるだけ意識しないようにして屋上へと歩き出した。
少し湿気を含んだような風は雨が近いことを示していた。
屋上へと踏み出すと、目の端に煙が一筋見え、追いかけるようにしてそちらへと足を運ぶ。
「よぉ」
脱色した髪にピアス、そして着崩した制服の司郎が、煙草を持った手を軽く上げた。
「…」
他に人がいないか辺りを見渡していると、不機嫌そうな司郎の声が届く。
「俺だけだ。こっちに来い」
促され、フェンスに寄りかかっている司郎の傍へと寄ると、オレンジ色の携帯を取り出して見せた。
「あいつの携帯だ」
そう言うと、携帯から小さなメモリーカードを抜き出して目の前でぱきんと折ってしまう。
「あっ」
「こっちもな」
そう言うと、司郎はさして力みもせずに携帯をへし折った。
昨日の自分の携帯を見ているような気になって、思わず目を逸らす。
「あいつのパソコンからは、お前のデータは俺が責任もって消去してきた。パソコンまでは持ってこれねぇからな」
おずおずと顔を上げると、高い位置にあるきつい眼差しと視線がぶつかる。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
157
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる