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しおりを挟む「 ───このまま、今夜だけ傍で過ごさせてもらえませんか?」
「お前は、一晩一緒にいてどうなるか、まだ懲りてないのか」
足も腰も立たず、みっともない顔になったあの記憶は鮮明で……
促しに従って部屋を出るべきなのに、動き出せなくてぼんやりと目の前に立ち尽くす僕の腰を、大きな手が引き寄せる。
乱れたシャツを割り、熱い唇がへそを掠めるようにして脇腹へと触れた。
きゅっと吸い上げられて反射的に体が跳ねる。
赤いそれは、小さなものだし、すぐに消えてしまうものだったけれど……
「部屋に帰れ」
穏やかにつけられた痕が嬉しくて、自然と頬が緩む。
「 扉まで、このまま手を繋いでもらえませんか?」
そこの街灯までと言った小林の、あの時の気持ちが分かったような気がした。
たった数歩の距離。
怪訝な表情を浮かべた佐伯はそれでも僕のために立ち上がってくれて……さんざん体は繋げたのに、こんな風に手を握られた記憶はなかった。
もしかしたら、もっと早く自分の意志を告げれば良かったのかもしれない、そうすれば佐伯は皮肉気に唇の右側を歪めながら話を聞いてくれたのかも……と、今なら手を引く姿を見上げて思う。
「 あったかい」
「 そうか」
僕よりも大きな、熱くて男らしい掌の感触を忘れないようにぎゅっと握り締めた。
ほんの、数歩。
もうきっと、こんなことはないのだろうけど。
「 ありがとうございました」
頭を下げた僕の顎を手が包む。
身長差がありすぎて、キスをする時は伸び上がらなくてはならなくて……
涙よりも熱い唇に、眩暈がした。
「────失礼します」
深く一礼した僕の目の前で扉が閉まっていく、こちらを見る目がハシバミ色で……愛しくて、あの瞳をもっと間近で覗き込みたかったと、口の端だけ歪めて笑った。
あれから一度、同行を求められたが断った。
申し訳なさと、もしかしたらと言う気持ちで見上げた佐伯の目は冷ややかで、相手先の指名だと簡潔に告げてきた。
硬質な表情は私情を含んでいる様子はない。
罠がないかとそろりと足を出す気持ちで「分かりました」と同意した出張は、結局それ以上のことは言われなかったし、僕自身、佐伯の部屋の扉を叩くことはしなかった。
何度考え直しても、報われない不倫に対してはこれが一番だと思ったし、小林に対して誠実でありたいとも思った。
なのにそれらをすべて塗りつぶしそうな罪悪感があるのはどうしてんだろう……
「────報告は以上です。以前申請した通り、本日はこれで失礼します」
報告書を受け取った佐伯の指先がピクリと動いたが、表情に変化はない。
「そうか」
ちらりと何か言ってくるかと窺うも視線はパソコンの方に向いてしまった。その横顔はもう僕なんか思い出しもしない顔だ。
去っていく人間には、何も思わなさそうな。
憧れて、こっそりと覗き見続けた横顔。
「 失礼します」
一礼して踵を返すと左手の机に座る木村から「お疲れ様」と声がかかった。
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