ある日、友達とキスをした

Kokonuca.

文字の大きさ
28 / 71
まこと side

28




 昨日、桃路が体を起こした時に胸元を隠したのは、そうしなければならない理由があったからだ。
 例えば……キスマーク とか。

「  っ」

 じわ と閉じた瞼の間から熱いものが染み出してくる。
 今朝の枕みたいに涙で濡らして汚すわけにはいかないから、慌てて袖口で押さえた。洸平が渡してくれた保冷剤を押し当ててなんとか泣くのを堪えようとするけれど、努力を裏切るようにしてどんどん目尻に涙が溜まっていく。

 ずっと一緒にいただけで、僕と藍我の間には何もない。

 確かに藍我の幼馴染でずっと一緒にたけれどそれだけで、僕がいくら藍我を好きだったとしても何もしなかったんだからそれ以上にもそれ以下にもならなかった。
 でもその位置がただの友達って部分よりはみ出していたから、藍我の特別なんだってぼんやりと思っていたけれど……

 全然、特別なんかじゃなかった。

 
「 ――――まこちゃん?」


 静まり返った保健室は音がよく響く。
 ほんの少しドアを開けただけでも大きな音がするから、僕の意識はさっと引き戻されてしまった。

「まこちゃん、いる?」

 薄く開いた隙間から滑り込むようにして小さな人影が入ってくる。
 僕を呼ぶ声に答えたくないなって思って口を引き結んだけど、逃げるところもないベッドではどうしようもできなくて、わずかな抵抗とばかりに布団をギュッと握りしめた。 

「あ、よかった、ちゃんと寝てた」

 そろ とカーテンをずらして僕を確認してから、桃路が中へと入ってくる。
 走ってきたのかちょっと息を荒げた様子で枕元にくると、猫のようなアーモンド型の目で僕をじっと見下ろした。

 まっすぐな瞳は仲が良ければ親愛の情なのかもしれなけれど、転校してきたばかりでよく知らない相手にじっと見られると居心地が悪くて仕方ない。
 ましてや昨日のことを思い出していただけに……再び涙がこぼれそうになってくる。

 でも絶対、桃路の前でなんか泣かないって気持ちがあったから、グッと唇を引き結んで震えそうになる手を握りしめた。

「熱はどうだった?」
「……ない、よ」

 泣くのを堪えているせいか、声はちょっと掠れて返事はボソボソだ。

「えっ⁉︎ 声ひどいよ? 絶対熱あるって!」

 僕の声にびっくりした桃路は飛び上がった後、止める間もなく僕の頬を両手で挟んで額をこつりと擦り合わせてくる。

「っ!」

 僕のどんぐり眼とは違って綺麗なアーモンド型をした目は間近で見るとますます綺麗だ。
 上のまつ毛も下のまつ毛も長くてボリュームもあるからこんなに近くで見ても魅力はちっとも減っていない。

 ちょっとだけ、藍我が桃路を好きなった理由がわかった気がした。

「ほら、やっぱ熱ある!」



感想 0

あなたにおすすめの小説

《一時休止》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ/Ⅱ

MITARASI_
BL
I 彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 Ⅱ 高校を卒業し、同じ大学へ進学した陸と颯馬。  別々の学部に進みながらも支え合い、やがて同棲を始めた二人は、通学の疲れや家事の分担といった小さな現実に向き合いながら、少しずつ【これから】を形にしていく。  未来の旅行を計画し、バイトを始め、日常を重ねていく日々。  恋人として選び合った関係は、穏やかに、けれど確かに深まっていく。  そんな中、陸の前に思いがけない再会をする。  過去と現在が交差するその瞬間が、二人の日常に小さな影を落としていく。  不安も、すれ違いも、言葉にできない想いも抱えながら。  それでも陸と颯馬は、互いの手を離さずに進もうとする。  高校編のその先を描く大学生活編。  選び続けることの意味を問いかける、二人の新たな物語。 続編執筆中

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

嘘をついたのは……

hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。 幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。 それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。 そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。 誰がどんな嘘をついているのか。 嘘の先にあるものとはーー?

赤い頬と溶けるバニラ味

hamapito
BL
在宅勤務が選べるようになっても出社し続けているのは、同期の岡野に会うためだった。 毎日会うのが当たり前になっていたある日、風邪をひいてしまい在宅勤務に切り替えた。 わざわざ連絡するのもおかしいかと思ってそのままにしていたけれど……。    * 岡野はただの同期。それ以上でも以下でもない。 満員電車に乗ってでも出社している理由だって「運動不足になりそうだから」って言ってたし。 岡野に会えるのが嬉しい俺とは違う。    *

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……