68 / 71
藍我 side
16
しおりを挟む格闘系の習い事をしたことのない桃路が、見様見真似で繰り出す拳は下手だからこそめちゃくちゃ痛い。
加減なんてしないその拳は、何度も受けたくはないもので……まぁ、何度も食らいたがってるのは小森くらいのもんだな。
「オレ、聞いて回ったんだけど、天野先輩に恋人ができたって話が回り始めてる」
全員が全員知っているってわけじゃないんだけど、知ってる人は耳打ちしてきゃーってしている。
学校で目立つ天野先輩の交際話は、ど田舎のここじゃ生徒達の格好の話題だ。
だから、噂話だけなのにオレは歴代の天野先輩のカノジョを知っているし、付き合っている期間も知っていた。
「そ それが……まこちゃんなの?」
「多分」
「……」
「そこでだ」
真剣なオレに、桃路はごくりと唾を飲み込んでから身を乗り出してきた。
「お前が天野先輩を堕とせ」
「お前がやれよ」
間髪入れずに返されたセリフに思わず目を瞬いた。
オレが? 天野先輩と?
「「寝言は寝て言え」」
同時にセリフを吐いて、「「はぁ?」」と同時に唸るような声を上げる。
顔を傾げて鼻に皺を寄せて嫌悪の感情を隠しもしない桃路と額をぶつけんばかりに睨み合い、お互い一歩も譲らずに「はぁ?」と言い合う。
体格的にオレが有利なはずなのに、桃路は一歩も引かずにオレを押し返してくる。
ゴリゴリと額の骨が鳴る音を聞きながら、歯を食いしばって桃路に自分の考えを話す。
「せんっぱいの、歴代カノジョがっ! ちょっと猫目風なんだっ!」
「はぁ? 知るか!」
「お前が間に割り込んだら、先輩とまことは別れる!」
「わか れる」
まるで初めて言葉を言うように、桃路はギクシャクとオレの言葉を繰り返した。
「そう! まことが別れたら、オレたちにもチャンスがくる!」
「ちゃんす、くる」
「んで、歴代カノジョの傾向からしてオレより桃路の方が確率が高い!」
「たかい」
「だから先輩を落としてこい!」
「せんぱい」
「お前ならできる!」
「できる!」
「お前ならやれる!」
「やれる!」
「よし行ってこい!」
「わかった!」
弟としてちょっと心配だけれど、桃路は行くぞ! と目をきらめかせて飛び上がった。
「まぁ俺は可愛いから、例え男でもメロメロにしちゃうもんね」
「そだな」
適当に返したオレに気づかず、桃路はやる気満々だ。
小さな頃から体が弱くて、大人と医療関係者に囲まれて育った桃路は、あまり興奮させてはいけないってことから、蝶よ花よとちやほやされて育った傾向があった。
そのせいで鼻っ柱を折られるような友人間でのやり取りだとか学校の上下関係だとか、ちょっとした人の心の機微だとか、そういったことにいまいち鈍感だ。
25
あなたにおすすめの小説
両片思いの幼馴染
kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。
くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。
めちゃくちゃハッピーエンドです。
届かない手を握って
藍原こと
BL
「好きな人には、好きな人がいる」
高校生の凪(なぎ)は、幼馴染の湊人(みなと)に片想いをしている。しかし湊人には可愛くてお似合いな彼女がいる。
この気持ちを隠さなければいけないと思う凪は湊人と距離を置こうとするが、友達も彼女も大事にしたい湊人からなかなか離れることができないでいた。
そんなある日、凪は、女好きで有名な律希(りつき)に湊人への気持ち知られてしまう。黙っていてもらう代わりに律希から提案されたのは、律希と付き合うことだった───
嘘をついたのは……
hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。
幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。
それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。
そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。
誰がどんな嘘をついているのか。
嘘の先にあるものとはーー?
《完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
毎日更新
【完結】後悔は再会の果てへ
関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。
その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。
数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。
小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。
そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。
末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前
好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした
鳥居之イチ
BL
————————————————————
受:久遠 酵汰《くおん こうた》
攻:金城 桜花《かねしろ おうか》
————————————————————
あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。
その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。
上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。
それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。
お呪いのルールはたったの二つ。
■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。
■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。
つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。
久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、
金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが…
————————————————————
この作品は他サイトでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる