僕(Ω)は貴方(α)の家政夫(β)ですから!

Kokonuca.

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 同じメーカーを使っているからついはしゃぎそうになったのを咎められたんだって思って、すごすごと引き下がる。

「そうじゃなくて……君は、ずっとあそこで寝ているのか?」
「は……はい、あそこを使ってくれと言われたので」

 何か不味かったんだろうか? 住み込みって書いてあったから当然と思っていたけれど、もしかして使っちゃいけない場所だったのかも……

「…………」

 眉間に皺を寄せてどんどんと厳しくなっていく表情を見ていると、出ていけ なんて言われるんじゃないかって不安になってくる。
 僕のことはリンがすべて対応していたし、トーマを煩わせないようにってずっと言われていたことを思い出して慌てて手を振った。

「すみませんっ! ちゃんとリンさまに相談しますからっ」
「リンに? なぜ? どうして相談する必要がある?」
「なぜ……と言われましても。リンさまはトーマさまの番ですし、ルカさまのお母さまですから」

 その瞬間、空気が変わった気がした。
 肌を刺す痛覚以外の痛みは、αの怒りによるプレッシャーだ。

 息を詰めるようにしてエプロンを握り、それを堪えるために歯を食いしばる。
 βはフェロモンに鈍くて、これくらいは耐えられるはず……

「リンは弟だ」
「おと……」

 ルカは髪や瞳の色はトーマそっくりだったが、顔立ちはリンの面影がある。どういうことかさっぱりわからずに混乱していると、トーマは重い溜め息を吐いた。

「義理の弟だ」
「義理……じゃあ、ルカさまのお母さまじゃ……」
「違う」

 短く答えたトーマはまだ怒りが収まらないのか、チクチクとした痛みは僕を責め続ける。

「雑事を任せているが、番でもない」

 語尾の強い声は怒りの深さを物語っている。
 トーマはまだ何かを言おうとして口を開いたけれど、僕はトーマからの重圧に耐えきれなくなって……貧血を起こした時のように視界が真っ暗になってしまった。





 風を切って走る。
 周りの景色が矢のように後ろに飛んでいって、
 空気を求めてもがく肺の細胞が全力で働いて、吐き出した空気の熱さとこめかみを撫でる風の冷たさとか、痺れて辛かった足裏がジンジンして、それでも走り続けることができるようになった時の誇らしさとか……

 水を味方につけて泳ぐ。
 空気中よりも自由になる体、地上じゃあ絶対にできない動きも許されるそこは僕にとって体をのびのびと伸ばせる場所でもあった。
 冷たい水に入ると頭が冴えるのに、その表面に浮かんで心を沈めると自分自身を見つめ返す機会にもなる場所で……

 どちらも僕の人生になくてはならないものだった。


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