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しおりを挟む「はるひ?」
「 っ……に、さん…………」
ごめんなさい の言葉が震えに押し潰されてしまって口から出たのかは定かではなかった。でも、明らかに様子の変わったオレにかすが兄さんは困惑を隠せなくて、何事かと尋ね返してくる。
「 ご、 ちが、違う 、オレ、ごめんなさい 」
肩を支えてくれていた手を払い除けて立ち上がろうとしたがうまくいかずにふらついてしまって、自分の顔が映りそうなほど磨き抜かれた床の上に倒れ込んだ。
青い顔が、こちらを見返している。
「『どうしたんだ?こうして帰ってきてくれたんだから、何も怒ってなんか……』」
オレを助け起こそうとした手に縋りたかったけれど、オレにその資格はない。
急に取り乱したオレを心配する瞳の中に影はないかと、恐る恐るかすが兄さんを見上げて窺うけれど、困惑の表情以外を見つけられなくて今度はオレが困惑する番だった。
四日……
四日もあれば、隠し通してきたことがバレるのには十分で……
「はるひ?」
心配そうな表情の中に、オレに対しての侮蔑や悲しみを見つけることはできなかったことに安堵はしたけれど、けれどそれが何故かがわからず困惑は深まるばかりで立ち上がれないまま緩く首を振る。
「 ────何事ですか?病人が床になんて感心しませんよ?」
はきはきとした声にそちらを見ると、一目見て王宮医だとわかる白衣に金地に緑の文様の入ったバッジをつけた女性がノックもせずにいきなり部屋に入ってくるところだった。
オレは診て貰ったことはなかったけれど、確か王族専門の医者だったはず。
「お目覚めですね、はるひ様。ご機嫌よう、月光のごとき巫女様にご挨拶もうしあげます。それからはるひ様」
「あ の 」
「まずお体を冷やすのは良くありませんので、ベッドに戻りましょうね?」
そう言うと、オレよりは大きいけれど大柄と言うわけではないのに、彼女はオレの脇に手を差し入れてぬいぐるみでも抱き上げるかのようにひょいとベッドまで運んでしまう。
「ご挨拶が遅れましたね、わたくしはスティオン・ベレラと申します」
軽々と運ばれてしまったことに驚くよりも、ベレラの名前を聞いてきゅっと縮まった胃の痛みに顔を顰めそうになったが、にこりと愛想良く笑われてしまって誤魔化すしかなかった。
「王宮医を務めさせていただいておりますので、以後お見知りおきくださいね?」
アルマジロのような生き物を二匹、潜ませているんじゃないだろうかと思えてしまう胸元に手を置き、優雅な動きで完璧に紳士の礼を取ると「それでは……」となんの躊躇いもない動きでオレの手を掴む。
「熱は下がられたようですね、逆に寒さは?」
「いえ 」
それが医療行為だとはわかってはいても、急に人に触れられる驚きは小さくはならなくて、思わずぎゅっと体に力を入れる。そうするとオレの緊張を感じ取ったのか、スティオンは手入れの良くされた手を離して愛嬌たっぷりに笑って見せてくれた。
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