変彩の宝石譚

Kokonuca.

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 至近距離に迫った大男の顔を見て、シオンは赤獅子に食われる錯覚を覚えて「ひっ」と小さく声を上げてしまう。
 本来なら失礼だ。
 けれど大男……この国を代表するほどの大商人であるゴウは気にも留めず、シオンの頭をポンポンと軽くあやすように叩く。

「ご苦労」

 本来ならば声をかける必要すらない立場のシオンに声をかけて、ゴウは後ろにいた朱雀を手招く。
 そっと身をずらし、長く垂らした前髪の間から部屋の中を盗み見る。

 襖が開かれた先は、視界のすべてが箔と彩りで塗りつぶされた目も眩むような豪華な空間だった。
 贅を尽くした彩飾の施された座敷は豪華さの割に広いという印象は受けなかったが、その分特に豪華だ。格子天井の絵の一つ一つに描かれる絵は極彩色の花々で、畳の上に敷かれた緋色の毛氈は吸い込まれそうな深みがあり、壁には金砂子が散らされた絵が緻密に描かれて行灯の揺れる光に命を吹き込まれて緩やかに揺れているように見える。

 そんな座敷から顔を出したゴウは一ヶ月の船旅を終えたばかりだった。
 燃えるような赤髪の下から覗く男らしい茶色い目は、最愛の存在との再会の喜びを隠そうともせずに爛々と輝いている。

「朱雀!」

 身を乗り出すと、その気配だけでシオンは身をすくませたくなる。
 娼館の最下層である雑用係のフラグメント(クズ石)にさえ気さくに話しかけてくれる良い人だとわかってはいたが、それで補えないほどの筋骨隆々とした体躯は豪華な着物が窮屈な檻に見えそうなほどで、そこにいるだけで圧倒的な覇気を放つ。

 商人をしているよりも剣闘士の方が似合う……と、シオンは常々思っていた。

「ヴィクトール殿! こいつが俺の至宝だ」

 ゴウが振り返った先にいたのは隣国ルミナス・ヴェインのものらしいスーツを纏った、ゴウがヴィクトールと呼ぶ男だった。
 向こうでもこちらの国でも珍しい黒曜石のような黒髪と、揃いの石で作られたかのような冷徹さを孕んだ黒い瞳。
 ゴウとは対照的にほっそりとした好男に見えたが、よくよく見ればスーツを押し上げる筋肉は逞しくしなやかそうだった。

 シオンは宝石人から宝石を採掘する商人たちが持つ独特の鋭利な雰囲気に圧倒されて、ぎゅっと小さく身を縮めた。
 
「あぁ、これが赤獅子の至宝『朱雀』か」

 ヴィクトールは盃から口を離し、鋭利とも表現できそうな視線を上げる。
 大抵の商人は朱雀を見ると目の色を変えるというのに、ヴィクトールが見せた反応らしい反応はそれだけだった。

「朱雀と申します」

 朱雀はつんとそう言うと、手を引くゴウに促されてその傍らにはべる。

 
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