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しおりを挟むヴィクトールはその愚鈍なフラグメントを見下ろす。
曇天を映したような淡い灰白の髪は珍しくはあったが、取り立ててと言うほどではない。
この年までレイテンシ・グレーの瞳というのはかなり珍しいが……それでも取り立てるほどではなかった。
騒動が収まってから考えてみれば、ヴィクトールは自分がわざわざ助ける価値がこのフラグメントにはなかったことに気づく。
そして肺の中に残っていた紫煙を吐き出す頃、ヴィクトールは自分が興味を惹かれたのは、この少年が『赤獅子の至宝・朱雀』の付き人だからだと納得した。
彼は朱雀というルビーのプレシャスを高く評価していたし、あれほどの石を内包した宝石人を飼い慣らすゴウの手腕にも興味があった。交渉次第では朱雀を自分の国に連れ帰ることも視野に入れているほどだ。
けれどゴウの鉄壁の守りに阻まれたために交渉のテーブルにすら着かせてはもらえなかった。
だが、付き人を使えば?
手紙……いや、伝言を伝えることはできるだろう。
千里の堤も蟻の一穴より崩れる だと、ヴィクトールは緩く口角を上げた。
「……お前、まだ涙を流したことがないのか」
低く静かな問いに、シオンの細い肩が震えた。
レイテンシ・グレー。最初の一粒を零して己の宝石が何であるかを確定させる、その一歩手前で時間が止まっているかのような不思議な少年。
「…………はい」
シオンははだけた着物の合わせを必死に抑え、その時になってやっと恥じる表情を見せる。
宝石人にとって瞳の色が決まらないのは未成熟の証だ。
同じ娼館で働くフラグメントたちには、朱雀の言葉を胸に立ち向かうこともできたが、外から……ましてや隣国なんて想像もできないほど遠くから来た客にまで胸は張れなかった。
「…………」
ヴィクトールは、床に蹲るシオンをじっと見下ろす。
このフラグメントをどう籠絡しようかと眺める。
「……この度は、助けてくださってありがとうございました。服が乱れておりますので、これで失礼致します」
よろめきながらも立ち上がってサッと向けられた背中が、先ほどまで相手をしていたラブラドライトの宝石人を思い起こさせた。
セミプレシャスという位についていながら、あっさりと快楽に落ちて尻を振り、主人以外の人間に媚を売る。
それとは真逆の、キッパリと向けられた背中の凛とした様子に……
「待て」
「っ⁉︎」
「珍しいな。これほどまでに感情の動かぬ石が、この場所に平然と存在しているとは……」
ヴィクトールは薄暗い廊下でシオンの前に回り込み、そして細くしなやかな、しかし力強い指先でシオンの顎を強引に持ち上げる。
「お……お客さま……?」
無理やり上向かされたシオンの瞳が不安に揺れる。
「お前がその瞳に何を宿すのか。……俺が暴いてやろうか?」
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