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第4章 インド洋の戦い
4.2章 日本海軍の出航
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昭和17年2月になると、斜め飛行甲板の改装が終わり、電探などの装備も最新型となった加賀は試験のために三浦沖に出ていた。対空砲を強化して、ボフォース40mm機関砲を国内生産した一式40mm連装機関砲を片舷当たり4基、合計8基へと増備していた。電探も対艦探知が可能な二号三型と対空射撃の管制が可能な二号四型を追加装備した。これに伴い、九四式高射装置も従来の光学測定主体から電探側からの測定値入力が可能なタイプに改修している。一方、高射装置の光学系測定器には変更がない。この日は新型装備の見学も兼ねて、呉からの出港時に一航艦の司令部員たちや他の空母の士官も加賀に同乗していた。
草鹿参謀長は、想定以上に変化した加賀の様子を見てしきりに感心していた。
「それにしても、蒸気カタパルトと斜め飛行甲板の組合せは便利だな。蒸気カタパルトから発艦しながら、同時に着艦することもできる。作戦を考えるうえでこれは大きな利点になるな」
源田参謀が答えた。
「まあ、今まで着艦か離艦かどちらを先にするかということを考えていましたが、その制約がなくなったと考えていいでしょう。但し、それも加賀のような大型艦だからできることです。これより一回り小さな蒼龍クラスの空母では、さすがに発着艦同時は無理です。それよりも、斜め甲板のおかげで着艦のやり直しができることが大きいです。操縦士の腕が未熟だったり、突風や船の揺れで着艦体勢が崩れたりすることがありますが、そんな場合でも着艦直前でもやり直しができれば機体を壊すことが少なくなります。搭乗員の訓練もやりやすくなります」
そこに通信士官がメモを持ってやってきた。源田参謀がメモを見ている。
「どうやら新型の機体が試験のためにやってくるようです。まあ、最新の設備で試験をするのにはいい機会ですからね。新鋭の艦戦と艦爆が来るとのことです。我々がこれから使う機体になるはずです。ここは、じっくりと見ておきましょう」
しばらくすると、5機の機影が見えてきた。空母の上空を航過して旋回してから、次々と斜め甲板を使って着艦してくる。まず、十六試で開発している艦戦が2機着艦した。続いて十三試で試作されて、彗星として正式化したばかりの艦爆が3機降りてきた。最後の機体は、両翼や胴体から魚の骨のようなアンテナが前方に突き出している。機体を痛めたくないのか、着艦したどの機体も格納庫にすぐに降ろしてゆく。最後に着艦してきた電探を搭載した機体は、後に二式艦偵として制式化された機体だ。単発機に搭載可能なように小型化した空六号12型と命名された90センチのマイクロ波を利用した電探を搭載している。海上の艦船を探知可能とするために、2本の導波器を有する約50センチ長の八木・宇田アンテナが左右の両翼の外翼部から前方に張り出すとともに腹部にもアンテナを収めた出張りが追加されている。
加来大佐はこれらの試験機を空技廠で仕事をしていた時に見たことがある。1年前までは新型機を開発しているところが職場だったのだ。
「あれが十六試艦戦です。呼び名は烈風になると聞いています。後から着艦してきたのは彗星艦爆です。爆弾を80番(800kg)まで搭載できるので、とんでもなく攻撃力が強力になっていますよ。最後の機体は、彗星の改造型ですね。それにしてもアンテナがいっぱいついているなあ」
草鹿少将たちは近くから新鋭機を観察するために艦橋から格納庫に降りていった。
「さすがに2,000馬力だな、4枚プロペラでなかなか迫力がある。零戦に比べてかなり速度も速そうだ」
すると彗星の後席から顔見知った男が降りてきた。にこにこしながら草鹿少将が声をかける。
「鈴木大尉じゃないか。わざわざ空母にまでお出ましとは珍しいね。今日はまた、何をするためにやって来たのかね?」
アンテナが突き出た機体を指さしながら表向きの理由を説明した。
「今日は、あの電探機のお守りです。技研との共同開発でやっとめどが立ったので、海の上でこの新式電探の性能を試そうということです。50浬(93km)くらいなら、夜でも雲の上でも監視して、海上の船を見つけられますよ。しかも、航空機に対しても30浬(56km)程度の距離で探知することができます。艦偵としてこれが使えれば便利だと思いませんか。まあ、今日着艦してきた機体ならば電探機以外の艦戦も艦爆もかなり高性能なので、そちらも便利に使えますよ」
ひとしきり、鈴木大尉が烈風となる予定の十六試艦戦と彗星の性能などの説明を行った。源田参謀はさかんに感心している。
説明が終わると鈴木大尉が草鹿少将にささやきかけた。
「試作機を試験したいのは事実なのですが、私自身が飛んできたのは、もう一つ話しておくべきことがあってこちらにお邪魔したのです。草鹿さんがここにいるというのは、調べれば直ぐにわせてもらえればと思ってやってきました」
草鹿少将が、ピンと来たような顔をした。構わず説明を続けた。
「少し遠い所というのは、インド洋だと私は思っています。開戦劈頭のマレー半島近海での戦いでは、惜しいところで英国の新戦艦を逃してしまいましたので、あえてインド洋に打って出て英国海軍の活動を抑えこむという作戦が要求されるはずです」
思わず草鹿少将が加来大佐と顔を見合わせる。
「まいったな、君が想像するとおり、次はインド洋作戦だ。それでだ、ズバリ聞くが、インド洋の戦いにおいて我々が注意すべき事項は何があるのか教えてもらいたい」
少し考えこんで、自分しかわからないことを答えることにした。
「まず、英国海軍の艦隊の所在地の件です。セイロン島のコロンボとトリンコマリーを泊地としていると考えていると思いますが、インドの西南方向にあるアッズ環礁というところに英海軍は新しい基地を作っています。場所はほぼ北インド洋の中央と言ってもいいでしょう。モルディブの南端にある環礁です。我々にとってなじみはないかもしれませんが、東洋艦隊くらいならば、充分停泊できます。補給のための石油タンクや基地としての設備に加えて、飛行場も整備して、哨戒や攻撃を可能にしているようです。セイロン島では、民間人の暮らしている場所から、泊地に停泊している英艦隊の状況を観察することができます。そのため、戦闘が想定される時期にはセイロン島の泊地を利用することは不適切と考えているようです。加えて、停泊中の艦艇の様子を連絡されて、いきなり奇襲されるという真珠湾の二の舞はごめんだと警戒しているでしょう」
草鹿少将が早口で話しだす。
「アッズ環礁の英海軍基地というのを、我々は承知していないぞ。どの程度の基地なのか、潜水艦に一度偵察させてみよう」
「潜水艦は絶対に見つからないように、注意してください。日本軍はアッズ環礁に英海軍基地があることをまだ知らない。その前提で英海軍が行動すれば我々はアッズ環礁を奇襲できる可能性があります。しかし、我々にばれてしまったと知ったならば、英艦隊はマダガスカルまで一時的に下がるようなことも考えられます。それと、アッズ環礁の英軍基地からは哨戒機が出ている前提で行動してください。しかも、その哨戒機はたぶん電探を搭載しています。潜水艦にとっては手ごわい相手ですよ」
加来大佐が意見を述べた。
「もし我々の艦隊がセイロン島の泊地を攻撃することを英軍が知ったならば、空襲を避けるためにアッズ環礁に一時的に移動する可能性は大ですね。まさに偽電による策略で誘導できる可能性がありますよ」
しばらく考えて草鹿少将が答える。
「敵艦隊としては、我々がセイロンを空襲すれば、一時的に安全な所に身を隠す可能性がある。更に、隠れているだけではなく、決戦を挑むならば、セイロン島を空襲している我々の背後に忍び寄って攻撃することもできるな。東洋艦隊には正規空母が配備されてくるとの情報がある。さすがに空襲部隊を出している間に背後から航空機で攻撃されると、2面作戦となってすぐさま反撃ができない。東洋艦隊の空母とキングジョージ級の高速戦艦が無傷の間は、陸上基地や湾内の攻撃は控えなければだめだな」
ミッドウェーの悪夢を思い出した。兵装転換時に攻撃される事態は、インド洋の戦いでも起きていたはずだ。
「基地の攻撃をしている最中に敵艦隊を発見すると、陸上基地向けの攻撃兵装を艦艇攻撃の魚雷などに変換する作業が発生します。その間に攻撃を受けると1発の爆弾で次々と飛行甲板や格納庫の爆弾が誘爆して、撃沈されるということにもなりかねません。とにかく、兵装の交換作業に気をつけてください。敵の爆撃機は空母からも飛んできますが、コロンボ攻撃のような場合には、陸上基地から爆撃機が飛んできますよ。それと英海軍の空母ですが、新型のイラストリアス級の空母を2隻、東洋艦隊に配備したようです。英海軍の空母は飛行甲板が3インチ(76mm)か5インチ(127mm)の装甲板になっています。ご存じと思いますが、現状で使用している25番(250kg)では無理ですよね。新型爆弾ならば有効です」
草鹿少将が思わず加来大佐に顔を向けて話す。
「陸用爆弾からの兵装転換か、魚雷の威力を信じている南雲長官ならやりそうなことだな。肝に銘じておこう。イラストリアス級については、我々も攻撃法を研究しているところだ。空技廠が新型の爆弾を開発していると聞いているぞ。まさにこの空母への攻撃にはうってつけだ。並行して英海軍の艦載機についても調査している。長く複葉機を艦載機として運用してきたが、手っ取り早く高速機を入手するために空軍のハリケーンを艦載化したようだね。それでも足りないので、米軍のグラマンを手に入れた。それに、複座の戦闘機を運用している。どうやらその機には偵察も任務に含まれているとのことだ」
「私は複座の艦上戦闘機は、米軍の戦闘機に比べて性能は一段低いと思います。また、艦攻はいまだに複葉機を使っています。英艦上機についてはあまり恐れる必要はないと思います。むしろ、東洋艦隊には戦艦を多数が配備していますのでそちらにも注意が必要です。恐らく艦隊行動のしやすさから30ノットを超える空母や高速戦艦の部隊と、25ノット以下の戦艦を中心とする部隊に2分して行動すると思います。空母部隊だけを追いかけて、戦艦に懐に入られると英空母のグローリアスのようなことになりますよ」
しばらく黙って聞いていた草鹿少将が何か思いついたようだ。
「先ほど鈴木大尉から聞いたアッズ環礁だが、インド洋から英国艦隊を駆逐することができれば、我々が英国に代わって占有することも可能ではないか。インド洋北側の中央にあって、大艦隊も停泊可能で、しかも航空基地までそろっているのだ。我が国が保有できれば、かなり有効に活用できるに違いない。現状でインド洋に面していて、我が国が使えるのは、同胞となったタイのメルギー港がある。そことアッズ環礁が連携できれば。相当広い海域で連合国艦船の活動を抑え込むことが可能になるはずだ」
上陸までは考えていなかったが、環礁が我が国にとって重要なのは間違いないだろう。
「おっしゃる通り、アッズ礁に艦隊と航空機を派遣して哨戒活動を行えば、英国はかなり大きな打撃を受けるでしょう。欧州とインド、あるいは欧州と中東の間の海上輸送がインド洋で遮断されれば、どれほど大きな影響があるのか想像もできません。アッズ礁に基地を設けて維持してゆくとなると、シンガポールが石油や物資を集積する後方拠点となりますよね。基地として維持するための方策も検討が必要になります」
「アッズ礁の有効活用については、軍令部に検討を依頼してみよう。まあ、我々としては、とらぬ狸の皮算用にならないように、まずは目の前の敵との戦いに勝つことが最優先だ」
最後に草鹿少将が発言した。
「今日も役に立つ話を聞かせてもらった。新型機と新型爆弾の装備の件は、是非とも早期に実現したい。航空本部にしっかりと要求しておくよ。我々からの要望というよりも、山本長官の名前をつける方が効果が大きいから、長官名で要望書を出すことにする。インド洋作戦に関係する知見については、我々連合艦隊の作戦に生かせることは直ぐにでも検討に入ることとする。アッズ礁の件も依頼するよ。やはり君に会えてよかった。インド洋から帰ったらいい報告をさせてもらう。くれぐれもこの部屋から出たら、今日の話は他言無用でお願いしたい」
昭和17年3月になると、6隻の空母を中心とする一航艦は、真珠湾の戦いで損害を受けた航空機の補充と空母の修理も終わり、日本から出航した。南雲中将は負傷が完治していないため、次席の山口中将が昇級して艦隊司令として赤城に搭乗していた。二航戦の指令は、大西少将が指名されて、航空本部から移動して飛龍に着任した。
3月20日には、セレベス島のスターリング湾に、一航艦の6隻の空母と護衛の艦隊が集結した。すると湾内の赤城の上空に1機の一式陸攻が飛来して通信等を投下していった。
海軍暗号が解読されていることは、この艦隊では山口司令と草鹿少将、加来艦長、源田参謀だけが知っていた。特に秘匿性の高い指令は、わざわざ無線を使用しないで伝達する可能性があった。この方法をとるということは、軍令部からの重要な情報だということだ。日本本土から台湾とサイゴンを経由して飛来した一式陸攻のもたらした電文は、小沢中将のマレー部隊の行動予定を示していた。さらに想定される英海軍の艦隊編成の情報と軍令部第4部が米国暗号から読み取った極秘情報を含んでいた。
電文を草鹿少将が山口長官に渡す。山口長官は、目をしかめて文書を読み出す。
「小沢さんの部隊もインドの東側で活動するから日程を言わせて、連携しろと言われている。我々の第一の任務はインド洋の英国艦隊の無力化だ。この要求は気にかけはするが、英艦隊の撃滅を優先する。軍令部からも君の友人の情報をうらづける話が入ってきたぞ。英国艦隊は空母3隻とキングジョージⅤ世級を中心とした高速戦艦が2隻の機動部隊と戦艦5隻の打撃部隊とみられるとのことだ。そのうちの空母2隻はインドミダブル級で今年の2月になって、新たに配備されたと書いてある」
草鹿参謀長が答える。
「情報が完全に一致しました。インドミダブル級に対しては、先般説明したように装甲板が飛行甲板に張り詰められています。ここはやはり、空技廠が開発した新型の爆弾を使用する必要があります。キングジョージⅤ世級については、ビスマルクとの戦いで命中弾を受けましたが、被害を受けつつも切り抜けています。つまり、主砲や船体、水平装甲板もかなり重装甲になっていると想定されます。新型爆弾のそれも重量級でないと有効ではない可能性があります。爆撃をしたうえで、空母も新型の戦艦も最終的には、雷撃により撃沈させるという戦法になろうかと思います」
源田航空参謀が続けて意見を述べる。
「我々が、エンタープライズとレキシントンの戦いで実行した作戦は今回も有効であると考えます。まずは墳進弾による対空火器の制圧を実施します。今回は艦戦のみでなく艦爆でも墳進弾を装備できます。但し、最も対空火器の熾烈な一番手の攻撃は速度の速い艦戦による攻撃としないと、艦爆では被害が大きくなるので不向きです。対空砲火を制圧できれば、手順としては新型爆弾と魚雷による攻撃が中心となって敵艦を撃沈します」
「反跳爆撃は今回の戦いでは使わないのかね?」
「敵艦の行き足を止めるためには、高速時にも艦艇への命中率の高い反跳爆撃が有効ですが、25番では効果が少ないことがわかってきています。今回は50番と80番を反跳爆撃で用いることを考えています」
山口長官が再び電文を見て発言する。
「もう一つ重要な情報がある。米軍の戦略情報の分析の結果だと書いているが、小沢さんの艦隊や我々が行動を開始したことを、米軍は察知しているとのことだ。我々の無線を傍受して解析している可能性について書かれている。それに加えて、シンガポールやフィリピン、ジャワ島の民間人に米英に通じた人物が紛れていて艦隊の行動を監視しているとのことだ。まあ、攻撃目標や攻撃日時までは察知されてはいないと書いてあるが、我々自身がまだ最終的に日時は決めていないのだから、それは無理もないな」
草鹿参謀長が答える。
「インド洋で我々が攻勢に出るということは、敵側に察知されていることを前提に行動することになります。その前提で、攻撃目標と攻撃の実行日時については、欺瞞暗号電を発することにより敵に誤解させる方法があります。敵に解読させた電文よりも10日ないし1週間程度早く敵の泊地を攻撃できれば、出撃準備中の艦隊を攻撃できる可能性があります。出港の目的が、我々と戦うためなのかそれとも逃げるためなのかは敵の司令官の判断次第ですが、実際の攻撃日時を前倒しにすれば敵が行動を開始する直前に捕まえることができます。また、攻撃する場所も欺瞞してもよいでしょう。例えばコロンボを攻撃すると打電しておいて、敵の本拠地を攻撃するようなやり方です」
草鹿少将が続ける。
「英海軍は大きな艦隊が停泊できる規模の泊地としては、インド洋中部で3カ所を有しています。コロンボ、トリンコマリー、アッズ環礁の3カ所です。その中で我々がインド洋に侵入した時点を想定すると、最も可能性の高い艦隊泊地はインドの南西にあるアッズ環礁だと思われます。英海軍は、我々がアッズ基地のことをまだ知っていないと考えています。民間人の少ない環礁ならば秘匿性が極めて高くなります。これは加賀に行った時にあった私の友人からの情報なのですが」
山口中将が質問する。
「君の友人の情報が十分信頼できるということは私も承知している。しかし、我々にとって最も大きな問題は、果たして英国の艦隊はどこにいるのかということだ。君の意見では、東洋艦隊の停泊地の3カ所の中でアッズ環礁が最も可能性が高いということだろう。しかし、コロンボやトリンコマリーに停泊している可能性もゼロとは言い切れないのではないか。あくまで可能性では困る。どうやって確定させるのだ?」
草鹿参謀長が答える。
「わが軍の潜水艦がアッズ環礁の状況を確認すべく向かっています。また、コロンボでも別の潜水艦が偵察予定になっています。もちろん敵からは絶対に発見されないように厳しく命じています。我々が航海している間に、何らかの情報が潜水艦から得られると思いますが、残念ながら現状の我々の判断には間に合いません。私としては、まずはアッズ環礁を攻撃する前提で行動を開始すべきだと考えます。我々がインド洋に出てから潜水艦の偵察により何らかの情報が得られれば、それに基づいて、行動を変えればよいと考えます」
山口長官が決断する。
「わかった。当面はアッズ環礁を第一目標として行動を行う。アッズ環礁に敵がいない場合には、セイロン島周辺に敵艦隊がいることを想定してインド大陸の南方及び東方海域を捜索する。コロンボとトリンコマリーへも空襲を行うが、これはインド洋に敵艦隊がいないとわかった後だ。偽電を発して敵を欺くために草鹿君の考案した作戦に従おう。敵にはコロンボを4月11日に空襲する予定で打電する。一方、実際には我々は4月2日を目標としてアッズ環礁を空襲する。偽電を信じてくれれば、敵は環礁内でセイロン島に向けて出撃の準備中のはずだ。まあ、偽電を信じていなくてインド洋で決戦することになっても、全力で受けて立つがね。航海参謀、作戦の日程に基づいて航路を調整してくれ」
山口長官の決定に基づいて、艦隊が行動を開始した。空母6隻からなる艦隊はセレベス島のスターリング湾を3月21日に出航していった。アッズ礁を4月2日に空襲するためには充分間に合う航程だ。
草鹿参謀長は、想定以上に変化した加賀の様子を見てしきりに感心していた。
「それにしても、蒸気カタパルトと斜め飛行甲板の組合せは便利だな。蒸気カタパルトから発艦しながら、同時に着艦することもできる。作戦を考えるうえでこれは大きな利点になるな」
源田参謀が答えた。
「まあ、今まで着艦か離艦かどちらを先にするかということを考えていましたが、その制約がなくなったと考えていいでしょう。但し、それも加賀のような大型艦だからできることです。これより一回り小さな蒼龍クラスの空母では、さすがに発着艦同時は無理です。それよりも、斜め甲板のおかげで着艦のやり直しができることが大きいです。操縦士の腕が未熟だったり、突風や船の揺れで着艦体勢が崩れたりすることがありますが、そんな場合でも着艦直前でもやり直しができれば機体を壊すことが少なくなります。搭乗員の訓練もやりやすくなります」
そこに通信士官がメモを持ってやってきた。源田参謀がメモを見ている。
「どうやら新型の機体が試験のためにやってくるようです。まあ、最新の設備で試験をするのにはいい機会ですからね。新鋭の艦戦と艦爆が来るとのことです。我々がこれから使う機体になるはずです。ここは、じっくりと見ておきましょう」
しばらくすると、5機の機影が見えてきた。空母の上空を航過して旋回してから、次々と斜め甲板を使って着艦してくる。まず、十六試で開発している艦戦が2機着艦した。続いて十三試で試作されて、彗星として正式化したばかりの艦爆が3機降りてきた。最後の機体は、両翼や胴体から魚の骨のようなアンテナが前方に突き出している。機体を痛めたくないのか、着艦したどの機体も格納庫にすぐに降ろしてゆく。最後に着艦してきた電探を搭載した機体は、後に二式艦偵として制式化された機体だ。単発機に搭載可能なように小型化した空六号12型と命名された90センチのマイクロ波を利用した電探を搭載している。海上の艦船を探知可能とするために、2本の導波器を有する約50センチ長の八木・宇田アンテナが左右の両翼の外翼部から前方に張り出すとともに腹部にもアンテナを収めた出張りが追加されている。
加来大佐はこれらの試験機を空技廠で仕事をしていた時に見たことがある。1年前までは新型機を開発しているところが職場だったのだ。
「あれが十六試艦戦です。呼び名は烈風になると聞いています。後から着艦してきたのは彗星艦爆です。爆弾を80番(800kg)まで搭載できるので、とんでもなく攻撃力が強力になっていますよ。最後の機体は、彗星の改造型ですね。それにしてもアンテナがいっぱいついているなあ」
草鹿少将たちは近くから新鋭機を観察するために艦橋から格納庫に降りていった。
「さすがに2,000馬力だな、4枚プロペラでなかなか迫力がある。零戦に比べてかなり速度も速そうだ」
すると彗星の後席から顔見知った男が降りてきた。にこにこしながら草鹿少将が声をかける。
「鈴木大尉じゃないか。わざわざ空母にまでお出ましとは珍しいね。今日はまた、何をするためにやって来たのかね?」
アンテナが突き出た機体を指さしながら表向きの理由を説明した。
「今日は、あの電探機のお守りです。技研との共同開発でやっとめどが立ったので、海の上でこの新式電探の性能を試そうということです。50浬(93km)くらいなら、夜でも雲の上でも監視して、海上の船を見つけられますよ。しかも、航空機に対しても30浬(56km)程度の距離で探知することができます。艦偵としてこれが使えれば便利だと思いませんか。まあ、今日着艦してきた機体ならば電探機以外の艦戦も艦爆もかなり高性能なので、そちらも便利に使えますよ」
ひとしきり、鈴木大尉が烈風となる予定の十六試艦戦と彗星の性能などの説明を行った。源田参謀はさかんに感心している。
説明が終わると鈴木大尉が草鹿少将にささやきかけた。
「試作機を試験したいのは事実なのですが、私自身が飛んできたのは、もう一つ話しておくべきことがあってこちらにお邪魔したのです。草鹿さんがここにいるというのは、調べれば直ぐにわせてもらえればと思ってやってきました」
草鹿少将が、ピンと来たような顔をした。構わず説明を続けた。
「少し遠い所というのは、インド洋だと私は思っています。開戦劈頭のマレー半島近海での戦いでは、惜しいところで英国の新戦艦を逃してしまいましたので、あえてインド洋に打って出て英国海軍の活動を抑えこむという作戦が要求されるはずです」
思わず草鹿少将が加来大佐と顔を見合わせる。
「まいったな、君が想像するとおり、次はインド洋作戦だ。それでだ、ズバリ聞くが、インド洋の戦いにおいて我々が注意すべき事項は何があるのか教えてもらいたい」
少し考えこんで、自分しかわからないことを答えることにした。
「まず、英国海軍の艦隊の所在地の件です。セイロン島のコロンボとトリンコマリーを泊地としていると考えていると思いますが、インドの西南方向にあるアッズ環礁というところに英海軍は新しい基地を作っています。場所はほぼ北インド洋の中央と言ってもいいでしょう。モルディブの南端にある環礁です。我々にとってなじみはないかもしれませんが、東洋艦隊くらいならば、充分停泊できます。補給のための石油タンクや基地としての設備に加えて、飛行場も整備して、哨戒や攻撃を可能にしているようです。セイロン島では、民間人の暮らしている場所から、泊地に停泊している英艦隊の状況を観察することができます。そのため、戦闘が想定される時期にはセイロン島の泊地を利用することは不適切と考えているようです。加えて、停泊中の艦艇の様子を連絡されて、いきなり奇襲されるという真珠湾の二の舞はごめんだと警戒しているでしょう」
草鹿少将が早口で話しだす。
「アッズ環礁の英海軍基地というのを、我々は承知していないぞ。どの程度の基地なのか、潜水艦に一度偵察させてみよう」
「潜水艦は絶対に見つからないように、注意してください。日本軍はアッズ環礁に英海軍基地があることをまだ知らない。その前提で英海軍が行動すれば我々はアッズ環礁を奇襲できる可能性があります。しかし、我々にばれてしまったと知ったならば、英艦隊はマダガスカルまで一時的に下がるようなことも考えられます。それと、アッズ環礁の英軍基地からは哨戒機が出ている前提で行動してください。しかも、その哨戒機はたぶん電探を搭載しています。潜水艦にとっては手ごわい相手ですよ」
加来大佐が意見を述べた。
「もし我々の艦隊がセイロン島の泊地を攻撃することを英軍が知ったならば、空襲を避けるためにアッズ環礁に一時的に移動する可能性は大ですね。まさに偽電による策略で誘導できる可能性がありますよ」
しばらく考えて草鹿少将が答える。
「敵艦隊としては、我々がセイロンを空襲すれば、一時的に安全な所に身を隠す可能性がある。更に、隠れているだけではなく、決戦を挑むならば、セイロン島を空襲している我々の背後に忍び寄って攻撃することもできるな。東洋艦隊には正規空母が配備されてくるとの情報がある。さすがに空襲部隊を出している間に背後から航空機で攻撃されると、2面作戦となってすぐさま反撃ができない。東洋艦隊の空母とキングジョージ級の高速戦艦が無傷の間は、陸上基地や湾内の攻撃は控えなければだめだな」
ミッドウェーの悪夢を思い出した。兵装転換時に攻撃される事態は、インド洋の戦いでも起きていたはずだ。
「基地の攻撃をしている最中に敵艦隊を発見すると、陸上基地向けの攻撃兵装を艦艇攻撃の魚雷などに変換する作業が発生します。その間に攻撃を受けると1発の爆弾で次々と飛行甲板や格納庫の爆弾が誘爆して、撃沈されるということにもなりかねません。とにかく、兵装の交換作業に気をつけてください。敵の爆撃機は空母からも飛んできますが、コロンボ攻撃のような場合には、陸上基地から爆撃機が飛んできますよ。それと英海軍の空母ですが、新型のイラストリアス級の空母を2隻、東洋艦隊に配備したようです。英海軍の空母は飛行甲板が3インチ(76mm)か5インチ(127mm)の装甲板になっています。ご存じと思いますが、現状で使用している25番(250kg)では無理ですよね。新型爆弾ならば有効です」
草鹿少将が思わず加来大佐に顔を向けて話す。
「陸用爆弾からの兵装転換か、魚雷の威力を信じている南雲長官ならやりそうなことだな。肝に銘じておこう。イラストリアス級については、我々も攻撃法を研究しているところだ。空技廠が新型の爆弾を開発していると聞いているぞ。まさにこの空母への攻撃にはうってつけだ。並行して英海軍の艦載機についても調査している。長く複葉機を艦載機として運用してきたが、手っ取り早く高速機を入手するために空軍のハリケーンを艦載化したようだね。それでも足りないので、米軍のグラマンを手に入れた。それに、複座の戦闘機を運用している。どうやらその機には偵察も任務に含まれているとのことだ」
「私は複座の艦上戦闘機は、米軍の戦闘機に比べて性能は一段低いと思います。また、艦攻はいまだに複葉機を使っています。英艦上機についてはあまり恐れる必要はないと思います。むしろ、東洋艦隊には戦艦を多数が配備していますのでそちらにも注意が必要です。恐らく艦隊行動のしやすさから30ノットを超える空母や高速戦艦の部隊と、25ノット以下の戦艦を中心とする部隊に2分して行動すると思います。空母部隊だけを追いかけて、戦艦に懐に入られると英空母のグローリアスのようなことになりますよ」
しばらく黙って聞いていた草鹿少将が何か思いついたようだ。
「先ほど鈴木大尉から聞いたアッズ環礁だが、インド洋から英国艦隊を駆逐することができれば、我々が英国に代わって占有することも可能ではないか。インド洋北側の中央にあって、大艦隊も停泊可能で、しかも航空基地までそろっているのだ。我が国が保有できれば、かなり有効に活用できるに違いない。現状でインド洋に面していて、我が国が使えるのは、同胞となったタイのメルギー港がある。そことアッズ環礁が連携できれば。相当広い海域で連合国艦船の活動を抑え込むことが可能になるはずだ」
上陸までは考えていなかったが、環礁が我が国にとって重要なのは間違いないだろう。
「おっしゃる通り、アッズ礁に艦隊と航空機を派遣して哨戒活動を行えば、英国はかなり大きな打撃を受けるでしょう。欧州とインド、あるいは欧州と中東の間の海上輸送がインド洋で遮断されれば、どれほど大きな影響があるのか想像もできません。アッズ礁に基地を設けて維持してゆくとなると、シンガポールが石油や物資を集積する後方拠点となりますよね。基地として維持するための方策も検討が必要になります」
「アッズ礁の有効活用については、軍令部に検討を依頼してみよう。まあ、我々としては、とらぬ狸の皮算用にならないように、まずは目の前の敵との戦いに勝つことが最優先だ」
最後に草鹿少将が発言した。
「今日も役に立つ話を聞かせてもらった。新型機と新型爆弾の装備の件は、是非とも早期に実現したい。航空本部にしっかりと要求しておくよ。我々からの要望というよりも、山本長官の名前をつける方が効果が大きいから、長官名で要望書を出すことにする。インド洋作戦に関係する知見については、我々連合艦隊の作戦に生かせることは直ぐにでも検討に入ることとする。アッズ礁の件も依頼するよ。やはり君に会えてよかった。インド洋から帰ったらいい報告をさせてもらう。くれぐれもこの部屋から出たら、今日の話は他言無用でお願いしたい」
昭和17年3月になると、6隻の空母を中心とする一航艦は、真珠湾の戦いで損害を受けた航空機の補充と空母の修理も終わり、日本から出航した。南雲中将は負傷が完治していないため、次席の山口中将が昇級して艦隊司令として赤城に搭乗していた。二航戦の指令は、大西少将が指名されて、航空本部から移動して飛龍に着任した。
3月20日には、セレベス島のスターリング湾に、一航艦の6隻の空母と護衛の艦隊が集結した。すると湾内の赤城の上空に1機の一式陸攻が飛来して通信等を投下していった。
海軍暗号が解読されていることは、この艦隊では山口司令と草鹿少将、加来艦長、源田参謀だけが知っていた。特に秘匿性の高い指令は、わざわざ無線を使用しないで伝達する可能性があった。この方法をとるということは、軍令部からの重要な情報だということだ。日本本土から台湾とサイゴンを経由して飛来した一式陸攻のもたらした電文は、小沢中将のマレー部隊の行動予定を示していた。さらに想定される英海軍の艦隊編成の情報と軍令部第4部が米国暗号から読み取った極秘情報を含んでいた。
電文を草鹿少将が山口長官に渡す。山口長官は、目をしかめて文書を読み出す。
「小沢さんの部隊もインドの東側で活動するから日程を言わせて、連携しろと言われている。我々の第一の任務はインド洋の英国艦隊の無力化だ。この要求は気にかけはするが、英艦隊の撃滅を優先する。軍令部からも君の友人の情報をうらづける話が入ってきたぞ。英国艦隊は空母3隻とキングジョージⅤ世級を中心とした高速戦艦が2隻の機動部隊と戦艦5隻の打撃部隊とみられるとのことだ。そのうちの空母2隻はインドミダブル級で今年の2月になって、新たに配備されたと書いてある」
草鹿参謀長が答える。
「情報が完全に一致しました。インドミダブル級に対しては、先般説明したように装甲板が飛行甲板に張り詰められています。ここはやはり、空技廠が開発した新型の爆弾を使用する必要があります。キングジョージⅤ世級については、ビスマルクとの戦いで命中弾を受けましたが、被害を受けつつも切り抜けています。つまり、主砲や船体、水平装甲板もかなり重装甲になっていると想定されます。新型爆弾のそれも重量級でないと有効ではない可能性があります。爆撃をしたうえで、空母も新型の戦艦も最終的には、雷撃により撃沈させるという戦法になろうかと思います」
源田航空参謀が続けて意見を述べる。
「我々が、エンタープライズとレキシントンの戦いで実行した作戦は今回も有効であると考えます。まずは墳進弾による対空火器の制圧を実施します。今回は艦戦のみでなく艦爆でも墳進弾を装備できます。但し、最も対空火器の熾烈な一番手の攻撃は速度の速い艦戦による攻撃としないと、艦爆では被害が大きくなるので不向きです。対空砲火を制圧できれば、手順としては新型爆弾と魚雷による攻撃が中心となって敵艦を撃沈します」
「反跳爆撃は今回の戦いでは使わないのかね?」
「敵艦の行き足を止めるためには、高速時にも艦艇への命中率の高い反跳爆撃が有効ですが、25番では効果が少ないことがわかってきています。今回は50番と80番を反跳爆撃で用いることを考えています」
山口長官が再び電文を見て発言する。
「もう一つ重要な情報がある。米軍の戦略情報の分析の結果だと書いているが、小沢さんの艦隊や我々が行動を開始したことを、米軍は察知しているとのことだ。我々の無線を傍受して解析している可能性について書かれている。それに加えて、シンガポールやフィリピン、ジャワ島の民間人に米英に通じた人物が紛れていて艦隊の行動を監視しているとのことだ。まあ、攻撃目標や攻撃日時までは察知されてはいないと書いてあるが、我々自身がまだ最終的に日時は決めていないのだから、それは無理もないな」
草鹿参謀長が答える。
「インド洋で我々が攻勢に出るということは、敵側に察知されていることを前提に行動することになります。その前提で、攻撃目標と攻撃の実行日時については、欺瞞暗号電を発することにより敵に誤解させる方法があります。敵に解読させた電文よりも10日ないし1週間程度早く敵の泊地を攻撃できれば、出撃準備中の艦隊を攻撃できる可能性があります。出港の目的が、我々と戦うためなのかそれとも逃げるためなのかは敵の司令官の判断次第ですが、実際の攻撃日時を前倒しにすれば敵が行動を開始する直前に捕まえることができます。また、攻撃する場所も欺瞞してもよいでしょう。例えばコロンボを攻撃すると打電しておいて、敵の本拠地を攻撃するようなやり方です」
草鹿少将が続ける。
「英海軍は大きな艦隊が停泊できる規模の泊地としては、インド洋中部で3カ所を有しています。コロンボ、トリンコマリー、アッズ環礁の3カ所です。その中で我々がインド洋に侵入した時点を想定すると、最も可能性の高い艦隊泊地はインドの南西にあるアッズ環礁だと思われます。英海軍は、我々がアッズ基地のことをまだ知っていないと考えています。民間人の少ない環礁ならば秘匿性が極めて高くなります。これは加賀に行った時にあった私の友人からの情報なのですが」
山口中将が質問する。
「君の友人の情報が十分信頼できるということは私も承知している。しかし、我々にとって最も大きな問題は、果たして英国の艦隊はどこにいるのかということだ。君の意見では、東洋艦隊の停泊地の3カ所の中でアッズ環礁が最も可能性が高いということだろう。しかし、コロンボやトリンコマリーに停泊している可能性もゼロとは言い切れないのではないか。あくまで可能性では困る。どうやって確定させるのだ?」
草鹿参謀長が答える。
「わが軍の潜水艦がアッズ環礁の状況を確認すべく向かっています。また、コロンボでも別の潜水艦が偵察予定になっています。もちろん敵からは絶対に発見されないように厳しく命じています。我々が航海している間に、何らかの情報が潜水艦から得られると思いますが、残念ながら現状の我々の判断には間に合いません。私としては、まずはアッズ環礁を攻撃する前提で行動を開始すべきだと考えます。我々がインド洋に出てから潜水艦の偵察により何らかの情報が得られれば、それに基づいて、行動を変えればよいと考えます」
山口長官が決断する。
「わかった。当面はアッズ環礁を第一目標として行動を行う。アッズ環礁に敵がいない場合には、セイロン島周辺に敵艦隊がいることを想定してインド大陸の南方及び東方海域を捜索する。コロンボとトリンコマリーへも空襲を行うが、これはインド洋に敵艦隊がいないとわかった後だ。偽電を発して敵を欺くために草鹿君の考案した作戦に従おう。敵にはコロンボを4月11日に空襲する予定で打電する。一方、実際には我々は4月2日を目標としてアッズ環礁を空襲する。偽電を信じてくれれば、敵は環礁内でセイロン島に向けて出撃の準備中のはずだ。まあ、偽電を信じていなくてインド洋で決戦することになっても、全力で受けて立つがね。航海参謀、作戦の日程に基づいて航路を調整してくれ」
山口長官の決定に基づいて、艦隊が行動を開始した。空母6隻からなる艦隊はセレベス島のスターリング湾を3月21日に出航していった。アッズ礁を4月2日に空襲するためには充分間に合う航程だ。
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