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第4章 インド洋の戦い
4.9章 英軍基地からの攻撃
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東洋艦隊A部隊から通報された日本艦隊の位置を目指して、14機のブリストル・ブレニムは東方に飛行していた。やがて一航艦の空母よりも10浬(19km)程度前方を航行していた比叡の電探がそれを探知した。この時、戦艦部隊は第一小隊の比叡の後方に霧島続いて縦列となり、比叡の左舷側に榛名、その後方に金剛が位置した隊形だった。つまり4隻の戦艦がほぼ長方形となって航行していた。加えて、護衛として第十七駆逐隊の4隻の駆逐艦が前後を守っていた。
更に、今まで一航戦の護衛についていた大型の駆逐艦が、山口長官の指示で応援に加わった。榛名の前方を航行するこの艦は、工期を早めて昭和17年2月に竣工したばかりの秋月だった。秋月は新造艦だけあって、改良された二号一型と二号四型、更に二号三型という3種類の最新型電探を備えていた。秋月も電探により双発機の接近を既に探知していた。
比叡から上空の烈風隊に敵編隊を40浬(74km/h)の距離で探知したことが通知された。続いて敵機が接近したおかげで、正確な方位と高度4,200mを飛行していることが二号四型電探でも探知された。上空の烈風隊は既に敵機に向けて飛行を開始していたが、具体的な距離と高度、方位が比叡の電探士官から指示された。編隊が10機以上だろうとの情報も追加してくる。
「西南方向、30浬、高度は4,000。機数10機以上。敵味方不明。繰り返す……」
「こちら板谷、了解」
板谷中佐は機内で感心していた。
「なんとまあ便利になったものだ。まだ何も見えないのに、方向だけじゃなくて、高度と機数まで教えてくれるとは」
11機の烈風編隊は迎撃を命令されてから、数分で編隊を視認していた。2番機の平野一飛曹が知らせてくる。
「前方、同高度、編隊。双発機だ」
板谷少佐が機体のシルエットをよく見ると、主翼の真ん中あたりにふくらみが見える。もちろんこの空域に日本軍の双発機はいない。
「間違いなく敵機だ。攻撃する。一度上空をやり過ごして背後に回り込む」
この時刻は、英艦隊を攻撃した第二攻撃隊が帰ってくる可能性があった。今までに2回の電探探知があったが、全て攻撃を終えて戻ってきた第二次攻撃隊の友軍機だった。しかし、今回は努力が報われた。
ブレニムは艦上機の編隊とは異なり、緩く広がった編隊を組んでいた。背後から板谷中隊が接近してくると、背中に飛び出した砲塔から機銃による射撃を始めた。板谷機は被弾を警戒して高度を下げた。
板谷中佐は機体を沈み込ませて下方から、胴体から主翼にかけて射撃すると主翼に20mmが連続して命中した。20mmの炸裂弾の命中により主翼上で爆発が発生した。破孔から黒い煙と炎が噴き出した。ブレニムは機首をがっくりと下げて落ちていった。烈風隊が繰り返し攻撃することにより、飛行しているブレニムの編隊は15機から5機にまで減少していた。しかし機銃座からの反撃と烈風よりも機数が多いことから、短時間で全てを撃墜するまでには至らない。
その時、烈風の無線に高角砲の射撃を開始するとの通報が入る。こんなことは初めてなので、板谷少佐はびっくりしたが、思い直して中隊に指示する。
「一旦、退避せよ。繰り返す、退避せよ。」
烈風隊は、指示された通り艦隊から遠ざかる北の方向に全速で飛行した。
ブレニムの編隊が日本艦隊に近づくと、秋月は、新型の二号四型電探で探知した方位と距離を、電探との連動機能を改良した九四式高射装置に入力した。
古賀艦長は、新たに秋月に配属された電探士官と艦内通話で敵編隊の距離や方位を確認して指示を出した。
「おもかーじ、対空射撃開始。砲術は狙いがついたら射撃してよし」
秋月は西に進んでいた艦首を面舵により、北西方向に向けた。艦首と艦尾側の4基の連装高角砲が敵編隊を射界に収められるようにするためだ。敵編隊への距離が8,000mになると射撃を開始した。他の艦の12.7cm高射砲とは異なる甲高い射撃音が、従来の高射砲よりも短い間隔で繰り返される。約30秒間で4基の砲塔の長10cm高角砲が8斉射を撃った。先頭の機体の至近で高射砲弾の爆炎が発生している。しばらくしてその機体の左翼から黒煙が出てきた。機首をぐらりと下げると海面に落ちてゆく。直ぐに2番目の機体に照準を合わせて射撃すると、十秒程度で再び至近弾が発生する。機体の機首が砲弾の爆炎に包まれたようになると、そのまま錐もみになって落ちてゆく。
残った3機のブレニムは右旋回しながら降下することで秋月からの射撃をかわそうとした。秋月も照準のやり直しになって、一時的に射撃が停止する。一方、秋月の南東側を航行していた比叡は、高射砲の射撃はしていたが、思うように至近弾が出ていなかった。艦の右舷側に出てきたブレニム編隊との距離が詰まったことで、右舷の3基の40mm連装高射機関砲が全力射撃を開始する。この高射機関砲には、新型の電探で計測した距離と方位情報が入力されていた。1機のブレニムに機関砲弾が直撃すると、胴体の前半部が40mm砲弾の爆発でバラバラになってしまう。驚いた残りのブレニムは比叡への距離がまだ遠いにもかかわらず、爆弾を落としてしまう。
ブレニムから3発の爆弾がぽろぽろと投下された。見張りの兵が大声でそれを伝える。
「敵機が爆弾を投下。3発が落ちてくる」
比叡の西田艦長は、間髪をいれず、兵に負けないほどの大声で回頭を命令した。
「面舵だ。いっぱいに切れ」
比叡が右に急速に艦首の向きを変え始めたところで、爆弾が落ちてきた。狙いの不十分な爆弾は比叡の左舷側の海上にしぶきを上げただけで命中しない。爆弾を投下してしまったブレニム機は、方向転換して全速で基地に戻ってゆく。しかし、上空から見ていた烈風隊が見逃すはずもなく、全速で追いかけてゆく。
三川中将は比叡の艦橋からこの戦いの様子を見ていた。彼の後ろの状況表示板には味方の艦隊の駒と、上空の航空機が味方の青と敵の赤に分けられて張り付けられていた。赤の駒を無力化したことを示す黒の駒にどんどん変えてゆく。
「あの新型の駆逐艦はなかなか優秀だな。これからは航空機の時代だ。駆逐艦の主兵装も全て新型の高射砲にして、電探を装備すべきだ。対空戦闘の効果が全然違う。今度戻ったら艦政本部に進言しよう」
更に、今まで一航戦の護衛についていた大型の駆逐艦が、山口長官の指示で応援に加わった。榛名の前方を航行するこの艦は、工期を早めて昭和17年2月に竣工したばかりの秋月だった。秋月は新造艦だけあって、改良された二号一型と二号四型、更に二号三型という3種類の最新型電探を備えていた。秋月も電探により双発機の接近を既に探知していた。
比叡から上空の烈風隊に敵編隊を40浬(74km/h)の距離で探知したことが通知された。続いて敵機が接近したおかげで、正確な方位と高度4,200mを飛行していることが二号四型電探でも探知された。上空の烈風隊は既に敵機に向けて飛行を開始していたが、具体的な距離と高度、方位が比叡の電探士官から指示された。編隊が10機以上だろうとの情報も追加してくる。
「西南方向、30浬、高度は4,000。機数10機以上。敵味方不明。繰り返す……」
「こちら板谷、了解」
板谷中佐は機内で感心していた。
「なんとまあ便利になったものだ。まだ何も見えないのに、方向だけじゃなくて、高度と機数まで教えてくれるとは」
11機の烈風編隊は迎撃を命令されてから、数分で編隊を視認していた。2番機の平野一飛曹が知らせてくる。
「前方、同高度、編隊。双発機だ」
板谷少佐が機体のシルエットをよく見ると、主翼の真ん中あたりにふくらみが見える。もちろんこの空域に日本軍の双発機はいない。
「間違いなく敵機だ。攻撃する。一度上空をやり過ごして背後に回り込む」
この時刻は、英艦隊を攻撃した第二攻撃隊が帰ってくる可能性があった。今までに2回の電探探知があったが、全て攻撃を終えて戻ってきた第二次攻撃隊の友軍機だった。しかし、今回は努力が報われた。
ブレニムは艦上機の編隊とは異なり、緩く広がった編隊を組んでいた。背後から板谷中隊が接近してくると、背中に飛び出した砲塔から機銃による射撃を始めた。板谷機は被弾を警戒して高度を下げた。
板谷中佐は機体を沈み込ませて下方から、胴体から主翼にかけて射撃すると主翼に20mmが連続して命中した。20mmの炸裂弾の命中により主翼上で爆発が発生した。破孔から黒い煙と炎が噴き出した。ブレニムは機首をがっくりと下げて落ちていった。烈風隊が繰り返し攻撃することにより、飛行しているブレニムの編隊は15機から5機にまで減少していた。しかし機銃座からの反撃と烈風よりも機数が多いことから、短時間で全てを撃墜するまでには至らない。
その時、烈風の無線に高角砲の射撃を開始するとの通報が入る。こんなことは初めてなので、板谷少佐はびっくりしたが、思い直して中隊に指示する。
「一旦、退避せよ。繰り返す、退避せよ。」
烈風隊は、指示された通り艦隊から遠ざかる北の方向に全速で飛行した。
ブレニムの編隊が日本艦隊に近づくと、秋月は、新型の二号四型電探で探知した方位と距離を、電探との連動機能を改良した九四式高射装置に入力した。
古賀艦長は、新たに秋月に配属された電探士官と艦内通話で敵編隊の距離や方位を確認して指示を出した。
「おもかーじ、対空射撃開始。砲術は狙いがついたら射撃してよし」
秋月は西に進んでいた艦首を面舵により、北西方向に向けた。艦首と艦尾側の4基の連装高角砲が敵編隊を射界に収められるようにするためだ。敵編隊への距離が8,000mになると射撃を開始した。他の艦の12.7cm高射砲とは異なる甲高い射撃音が、従来の高射砲よりも短い間隔で繰り返される。約30秒間で4基の砲塔の長10cm高角砲が8斉射を撃った。先頭の機体の至近で高射砲弾の爆炎が発生している。しばらくしてその機体の左翼から黒煙が出てきた。機首をぐらりと下げると海面に落ちてゆく。直ぐに2番目の機体に照準を合わせて射撃すると、十秒程度で再び至近弾が発生する。機体の機首が砲弾の爆炎に包まれたようになると、そのまま錐もみになって落ちてゆく。
残った3機のブレニムは右旋回しながら降下することで秋月からの射撃をかわそうとした。秋月も照準のやり直しになって、一時的に射撃が停止する。一方、秋月の南東側を航行していた比叡は、高射砲の射撃はしていたが、思うように至近弾が出ていなかった。艦の右舷側に出てきたブレニム編隊との距離が詰まったことで、右舷の3基の40mm連装高射機関砲が全力射撃を開始する。この高射機関砲には、新型の電探で計測した距離と方位情報が入力されていた。1機のブレニムに機関砲弾が直撃すると、胴体の前半部が40mm砲弾の爆発でバラバラになってしまう。驚いた残りのブレニムは比叡への距離がまだ遠いにもかかわらず、爆弾を落としてしまう。
ブレニムから3発の爆弾がぽろぽろと投下された。見張りの兵が大声でそれを伝える。
「敵機が爆弾を投下。3発が落ちてくる」
比叡の西田艦長は、間髪をいれず、兵に負けないほどの大声で回頭を命令した。
「面舵だ。いっぱいに切れ」
比叡が右に急速に艦首の向きを変え始めたところで、爆弾が落ちてきた。狙いの不十分な爆弾は比叡の左舷側の海上にしぶきを上げただけで命中しない。爆弾を投下してしまったブレニム機は、方向転換して全速で基地に戻ってゆく。しかし、上空から見ていた烈風隊が見逃すはずもなく、全速で追いかけてゆく。
三川中将は比叡の艦橋からこの戦いの様子を見ていた。彼の後ろの状況表示板には味方の艦隊の駒と、上空の航空機が味方の青と敵の赤に分けられて張り付けられていた。赤の駒を無力化したことを示す黒の駒にどんどん変えてゆく。
「あの新型の駆逐艦はなかなか優秀だな。これからは航空機の時代だ。駆逐艦の主兵装も全て新型の高射砲にして、電探を装備すべきだ。対空戦闘の効果が全然違う。今度戻ったら艦政本部に進言しよう」
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