蒼穹の裏方

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第5章 帝都防空戦

5.2章 日米空母登場

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 ホーネットは、昭和17年3月31日と4月1日にかけてアラメダの埠頭から16機のB-25を積み込んでいた。B-25の搭載と同時に100名を超える陸軍航空隊員が乗艦してきた。翌4月2日には、B-25の整備に必要な物資も積み込んでサンフランシスコを出港することができた。ホーネットには、第18任務部隊として、重巡ヴィンセンスと軽巡ナッシュビルと駆逐艦4隻と、更に補給艦としてシマロンが随伴していた。太平洋を西方に航行してから、ホーネットの艦内で初めて今回の作戦目的が、日本本土爆撃であることが通知された。それまでは陸軍航空隊のB-25搭乗員にも、この極秘作戦の目的地は知らされていなかったのだ。

 艦内で陸軍航空の隊員に対して初めて作戦の詳細がドーリットル中佐から説明された。それぞれの機体の目標と中国大陸での行動が示される。
「……以上説明したように、今回は編隊での爆撃は行わない。各機とも単独行動で資料に示した軍事目標に爆撃を行う。爆撃目標を各自よく研究するように。攻撃が終わったら、日本海を超えて中国大陸まで飛行してくれ。当然、日本軍の制圧地域ではなく、我が国が支援している中国軍の支配地域まで飛ぶ必要がある。それと本作戦に対してのソ連からの協力は得られない。ソ連は日本との間に不可侵条約を交わしているからだそうだ。航続距離を延長した諸君の機体でもギリギリの飛行になるから、回り道や燃料を無駄にする飛行はできない。また、機体が無事に戻ってくることは期待してない。不時着してもいいから生きて本国に戻ることを優先してくれ。これはルーズベルト大統領自身が大きく期待している作戦である。もちろん私自身も諸君の大いなる活躍に期待している」

 第18任務部隊は、4月8日になって南方の航路から西進してきたヨークタウンを中心とする第17任務部隊とミッドウェー島近海で合流した。ヨークタウンの乗組員はホーネットの甲板上に固定されている多数のB-25を見て驚いた。

 ヨークタウンに座乗した第17任務部隊の司令官であるフレッチャー少将が参謀や士官を集めて説明を始めた。

「今回の我々の任務は、ホーネットを含めてこの部隊を日本軍の攻撃から守ることだ。見てわかる通り、ホーネットはあの荷物を発艦させない限り、艦載機は全く使えない。一方、お荷物をホーネットが発艦させるのは日本本土に近づいてからだ。あの爆撃機が日本軍の施設を攻撃できる距離まで艦隊が進出しない限り、甲板上の荷物はなくなることはない。もちろん日本軍も本国の近海では哨戒をしているだろう。我々は哨戒をしている艦艇や機体をまず排除する。敵から攻撃されるような事態になったら、全力でホーネットを守る。私も日本軍が本土の近くでどんな防衛体制をとっているのか詳しくはわからない。つまり、どれだけの敵が待っているのかわからないということだ。但し、危険は大きいがそれだけ得るものも大きな作戦だと思っている」

 続いて、ヨークタウン艦長のバックマスター大佐が状況を説明した。
「一つだけ日本海軍の空母の話をしておこう。太平洋艦隊司令部からの情報だ。日本海軍の正規空母6隻で構成される機動部隊は、日本にはいない。日本の空母とインド洋の英海軍との間で大規模な戦闘が発生した。その結果、英海軍の空母と戦艦には大きな被害が出た。それでも、日本近海にはあの真珠湾を攻撃した強力な空母部隊は存在しないことは確定している。しかし、哨戒や偵察を行っている日本軍の艦艇や潜水艦、航空機には気を付けてくれ。それと、足の長いベティ(一式陸攻)も洋上哨戒している可能性がある。この双発機は、シンガポールやマレー半島の戦いでとんでもない長距離を飛んできて攻撃を行ったことがわかっている。しかも、爆撃だけでなく雷撃も可能だ。とにかく油断はしないでくれ」

 フレッチャー少将も日本海軍について注意をうながした。
「日本の空母だが、インド洋で行動している艦隊以外にも存在している。恐らく小型の空母は日本近海にもいるはずだ。それも1隻ではなく複数の可能性がある。我々を迎え撃つ艦艇に空母が含まれている可能性について、忘れないでほしい」

 第18任務部隊と合流した第16任務部隊は無線封止を続けながら静かに日本本土に向かって航海を続けていた。

 ……

 空母「祥鳳」は房総半島の東側の太平洋を航海していた。この艦は前年の昭和16年末に潜水母艦剣崎を改装して空母として竣工したばかりだった。新鋭艦だけあって姉妹艦の瑞鳳に続いて、カタパルトと斜め飛行甲板、電探を備えた最新装備の空母として完成している。

 祥鳳は、1月から新規装備のカタパルトや電探の試験を行っていた。試験後は、2月になって横須賀に戻ったのだが、すぐに出港しろとの命令がでた。しかも、南方への戦闘機と爆撃機の輸送を完了した姉妹艦の瑞鳳も訓練に加わってきた。2隻の空母はトンボ釣りの駆逐艦を連れて、訓練のための臨時の艦隊を編制することになった。

 しかし艦長の伊澤大佐は浮かない顔だ。
「この艦の部隊の訓練が必要だと思って航海に出ていたのだが、最近はどうだ、陸の航空隊の訓練専用になっているんじゃないか。空母の搭乗員が実戦で消耗しているので、早く訓練して戦力化したいというのはわかる。しかし、最近はあちこちの基地から途切れることなくやってくる。これじゃあ自分の艦の部隊に訓練をさせる暇がない」

 2月中旬から始まった訓練では、関東各地の訓練基地から、連日艦載機が飛んできては離着艦の訓練をしてゆくのだ。横須賀や木更津、厚木からの機体には最新型の彗星や十六試艦戦も含まれていた。そんな訓練を続けていると、後方からこの2艦よりも大きな空母が盛んに発光信号を光らせて接近してきた。遠くからでも右舷の艦橋から斜めに突き出した特徴的な煙突が判別できる。

 開戦が近づいて工期を前倒させて竣工した空母「隼鷹」は、3月に公試を終了したばかりであった。艦首が延長されて1基の蒸気カタパルトを設置した。艦尾から中央部にかけては斜め飛行甲板となって、中央部は左舷側に大きく張り出している。また、艦橋と後部のマストには茶碗、花魁のカンザシ、焼魚の網などいくつかの言葉で揶揄されている多くの電探用のアンテナが設置されている。一式40mm連装機関砲は両舷合わせて8基を装備した。両舷で6基の連装高角砲は、当初予定された12.7センチ砲から高初速で連射性能に優れる長10センチ砲に工事の途中で変更されていた。いずれも日本海軍の艦艇としては最新の装備だ。
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