例えば乙女ゲームだとしたら

ユウ

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第2章

自己紹介であります!

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春のそよ風が教室を駆け抜けて新しい空気を運んでくる。

「はい次」

それとは別に、案内役の教師のたんたんとした指示。
それに応じて生徒が席を立ち自己紹介を行っている。

うあぁぁぁあ!
この元ヒッキーに何やらすんですか!?
人前に出てもうまく話せないし、その上さっき初めて教室入った時に転けて凄く恥ずかしい思いをしたのに!

だんだんと近づく順番。
次第に震える身体。

いっそ消えたいわ……。

「はい、次の……佐倉さん」

「ウェ?!あ、ははい!」

突然呼ばれたことに声が裏返る。
どこからか忍び笑いが聞こえた。

恥ずかしさのあまり、ヨロヨロと椅子から立ち上がる。

「さ、佐倉  雪です…」

うぅ……クラスメイトの視線が!心の声が聞こえてくるよ!

《ボソボソ喋んな!》

《暗い人だな……》

とか!

え、被害妄想?!
そ、そんな事ないよ!
チキンな私に元気よく喋れとか無理難題を解けと一緒だよ!?

うう、もう泣きそう……。

鼻の奥がツンとしてきてしまった。
どうしようもなく言葉が出てこない。

──いっそ逃げる?

なんて馬鹿な思考さえも今の私には必要なのだよ!
……よし、逃げよう!
そう決意して顔をあげた瞬間に教室の扉が開く。

その開けた人物に生徒一同の視線が集中する。

「っと、ギリギリセーフッ?!」

滑り込みと言った感じで言うが、時間はどう見ても遅刻確定。

「セーフでもないし、オマケに遅刻だ。罰として君、自己紹介しなさい」

「あちゃー、しゃーないなぁ」

やれやれと肩を落とす赤髪の少年。
着崩した制服に肩にかけた羽織。
赤髪をガシガシかき、黒板へと向かう。

『二階堂 文也』

黒板に大きく記入された名前を背に、少年はニカッと笑う。

「俺は二階堂 文也や!よろしゅう頼んます!」

大きくハッキリした声が、彼の性格を表していた。

「……また……攻略キャラが!」

思わず口から出る。

「はぁ……。取り敢えず二階堂、お前の席は空いている席だ」

「へーい」

気の抜けた返答と共に歩を進め、私の横を通り過ぎて、窓際の席……私の後ろへと座る。

うひぃ!
い、イケメンが後ろに……!
天に召される感覚の中、不意に背をつつかれる。

「ちょいちょい、アンタの自己紹介の途中やったんやろ?邪魔して悪かったわ!これからよろしゅうな?」

スマンと小さく手を合わす二階堂君。
邪魔なんてとんでもない!
むしろ回避出来たので有難い。

「き、気にしないで!あ、えと佐倉雪です……その、よ、よろしく……」

「おう!」

お互いに自己紹介を終え、笑い合う。
くすぐったいようなフワフワするような感覚が体を通り抜けていった。

──これで攻略キャラは現在2名。

「さ、自己紹介の後は、講堂に集まるので廊下に並べ!」

行く末を知っているのは主人公ただひとり。
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