例えば乙女ゲームだとしたら

ユウ

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第2章

開始の合図

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講堂……といっても、流石はゲーム世界。
全生徒が余裕で入れる程の吹き抜けたホールに、風格溢れる先輩方と先生方。

「うひゃー、こりゃスゲェ!佐倉はぐれん様にな」

生徒の群れに流されつつ、物珍しそうに辺りを見渡す史也君。
私はコクコクと首を振りつつも、同様に見渡す。

うーん、この同じ風景を幾度となく、画面越しで見ていたが、実際だと雰囲気が違って見える。
オペラハウスのような構造の上、椅子やカーペットまでが質の良い物だと素人目でも分かった。
というか、触り心地が良すぎるわ!
ここでならぐっすりお昼寝出来そうね!

「お、佐倉あそこが俺達の席やろか!行くでぇ!」

「お、おぉ?!は、はい?!」

急にグイッと手を引かれて人混みを掻き分けて行く文也君。

じ、自分で行けますぞぃ?

チラッと彼の顔を見上げると、どこか嬉しそうに口角を上げ、気分良さげに鼻歌を歌っている。
朝からの様子だと余程この学校を楽しみにしていたようだったので、口を出すのはアレなんで、そのまま身を委ねて、席まで案内をして頂きました。
むしろお手て繋げれてラッキーです!

「おぉ、九条やないか!まさかお前と同じクラスとはな」

向かった席でちょこんとお人形さんみたいに座る九条君。
チラリと私の顔を見るとあからさまに頬を膨らませる。

「……なぜこっちに来るんですか?席は他にもあったでしょう。あとキミはどなたですか?」

刺々しい物言いに対して、史也君の眉間のシワが刻まれる。

「なんや覚えとらんのか?俺は二階堂や!九条、お前とは3年前にも会ったやろう?」

え、そうだったの?
それは攻略本には載ってなかったような……?

「…3年…前……あぁ、あの時の。キミもこちらに来たんですね」

「当たり前や!俺としてはまだあん時の借りはまだ返してないからな」

「……まだ覚えているんですか?だからあれは別に──」

「せやからお前への借りは『友達』として返そう思ってん」
 
……ん?え、この人何か言った?

「あの~、ふ、史也君?お話が見えないんだけど……?」

ポカンとしている凛君に代わって質問します!

「せやから九条、前から友達おらへんかったやろ?じゃから俺がなったる言うてんねん」  

「し、失礼ですね!僕だって友達のひとりや2人……ぐらい……い、いる……もん」

段々と語尾が小さくなる凛君。
実際彼は人見知り過ぎて気弱で、友達がいない設定だったな……。あ、あと知人ですらない人には当たりがきついんだよ~。今みたいな?
まぁそこがいいといえば良いんだよね~。
ほら、猫みたいで可愛いし。
ひとりフムフムと、頷いていると私の肩に文也くんの手が乗る。

「勿論、佐倉もお前の友達や」

「…………え?」

目を丸くする九条君。
そりゃそうだ。初対面で『可愛い』なんて言うやつを友達にしたいか?
私だったらNOと言うだろうけど……。なんせ今
彼を見ると何やら眉間に皺を寄せ、私を見ている。

「…………まぁ、か、構いませんよ……」

しばしの間があったがか細いながらも了承の声がかかった。
デレスチル頂きました!

「あ、ありがとうございます(色々な意味で)!」

「べ、別に君が僕に『可愛い』なんて言わなければ良いんですよ!」

「はは、はぃ!き、気をつけます…」

グサリと釘を刺されたからには言わないと誓います!
それでキミとお友達になれるのなら!

お友達許可もでたことで、幸せの中文也くんと九条君に挟まれる形で席に座る。

暫くして開演のブザーとともに少しずつ暗くなる。

『──ゲフンゲフン!あーあー……マイクテスマイクテス──』

マイクのハウリングと共に男の声が講堂に響き渡る。

視線を向けると、ステージに小太りなおじさんが立っている。
誰?ゲームでもこんな人いたっけ?

「あ、あんのお方は……!」

「え、文也君、あの人誰だか知ってるの?」
 
隣に座る文也君に小声で聞くと頷く。

「いや、知らん」

知らんのかいっ!
だったら自信満々で答えるなよ!

『あー、諸君。これから理事長からお話がある、心して聞くように!寝るなよ!』

ビシッとポーズをとるおじさん。
お腹のお肉が振動でプルンプルンと揺れる。

いや~、笑うのを堪えるのは難しいですな。

そんな笑える誰だか知らないおじさんと代わって、1人の男性がステージに上がる。

「!!」

あれは……!



『生徒諸君、入学おめでとう。私はこの「探偵学園」理事長の氷崎だ』



長い黒髪をひとつに縛り、パリッとしたスーツに身を包んだその人は無表情に言う。

氷崎  光彦(ヒザキ  ミツヒコ)……。
この世界「ルルシュ」の攻略キャラの1人。
1番攻略が難しいとされていて、私も苦労したものだ。 
え、攻略出来たのかって?
……ふっ…それを聞くなよおぜうさん……。

いや、頑張ったんだよ、頑張ったんだけど最後の最後まで攻略できなかったんだよ!
最後のスチルの選択肢がなかったんだよ!
あのおじさまのデレスチルが出てくるであろう選択肢が‼

あの時の悔しさを思い出し、思わず氷崎理事長を睨んでしまう。

ミッタン……貴方は前世のお嬢さん方をどのくらい泣かせたのやら…罪深き男だな……。

「入学試験を経て、君たちは一歩探偵へ近づいた。しかし、現段階で君たちが現場で才能をフル活用できるか――否だ」

そう言い切る氷崎理事長。
どんな難事件も軽々と説いてゆくそのお姿は……


『現代を活きるシャーロック・ホームズ』


とまで言われている。
いわば、暗黙の攻略不可人物なのさ!
私の友人でも攻略が出来た奴はいないほど。

そんな氷崎理事長がおもむろに、薄い口を開く。

「ただ入学し勉学に励み青春を謳歌する……それはどこの学校でもできるが、『この学園でしかできないことをせよ』!君たちの蕾である才能を開花せよ‼」


そう締めくくられた入学式には、学園の誇りと小さく儚い夢が春風と共に講堂を駆け抜けていった。


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