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椰子ふみの

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第一章

魅力

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 ザクッ。
 切ると決めたら、私は大胆だ。
 まずは肩の長さに切る。普通なら、床に散らすところだけど、一応、取っておこう。女性が長い髪を切る時によく記念で取っておく、その時と同じ扱いにしておく。
 それから、予定していた通りに切っていく。
 ウルフカットをベースとして、レイヤーはガンガン入れる。入れても毛量が多いし、ウェーブがきつめの髪なので、ペタンコにはならない。

「この世界にはライオンっていう生き物はいますか? 顔のまわりにたてがみがあって、一番、強い生き物なんです」
「うーん、顔のまわりにたてがみか。そんな生き物はいないと思う。この世界で一番強い生き物はドラゴンだし」

 おおっ、ドラゴン。さすが、異世界。

「ドラゴンと戦ったことってあるんですか?」
「ああ」
「すごい」
「十人がかりで追い払っただけだから、すごくなんてないよ」
「でも、十人でドラゴンと戦えるなんて、それ、十分、すごいんじゃないですか?」
「追い払うだけじゃ、危険は残ったままだからな。次は討ち果たしてみせるさ。それでライオンとかいうのはドラゴンくらい強いのか?」
「いえ。レオさんだったら、簡単に勝てると思います」

 だって、ライオンって、ドラゴンの十分の一よりずっと、弱いと思うもの。

「でも、私の世界では最強で王家の紋章に使われたりしたんです」
「紋章に使われるのはドラゴンと一緒だな」
「そうなんですね。それでライオンのイメージはレオさんにピッタリだと思うので、髪型もそのイメージにしようと思います」
「うーん、よくわからないけど、強いならいいかな」

 前髪は長めにする。さて、このぐらいで顔を剃って、イメージを確認しよう。

「髭を剃りますね」

 長いので、まずはバリカンを当てよう。スイッチを入れ、顔に近づけると、音に驚いたのか、レオさんは少し腰を引いた。
 ドラゴンと戦った人がびびってると思うと、なんだか、可愛い。

「大丈夫ですよ。私の世界の道具ですが、安全です」
「わかった」

 覚悟を決めたように目をつぶったので、遠慮なく、バリカンをかけていく。もみあげは長めに残す。
 次はシェーバー。剃っていくと、すべすべの肌が現れる。三十代かと思ったけど、この肌の張りはもっと、若い? もしかして、私と変わらないくらいかも。
 彫りが深くて、まっすぐな鼻筋、やっぱり、整った顔をしている。
 眉も少し整えておこう。少し、強そうな感じに。

「すみません、もう一度、髪を洗わせてください」

 切った髪を洗い流す。タオルで押さえた後はドライヤーだ。オイルをつけて乾かしていく。
 ツヤを取り戻した髪は予想通り、ライオンのたてがみのようだ。

「はい、これで、できあがりです」
「軽いなあ。髪が短いとこんなに軽いのか」

 レオさんがしみじみと言った。

「髪の量が多かったので、かなり減らしました。できたら、一ヵ月に一回は来てくださいね」
「わかった」

 レオさんは不思議そうに鏡を見ている。
 すっごくカッコよくなったこと、わかってるんだろうか。

「何か気になるところ、ありますか?」
「いや、自分の顔って、こんな顔だったんだなと思って。見慣れなくて、変な気分だ」
「そういえば、初めて会った時、レオさんの顔って目しか見えなかったですね」
「変な男に買われて怖かっただろう」
「あまり、実感がなかったんですよ。それにすぐにいい人だって、わかりましたし」

 レオさんが照れくさそうに頭をかいた。せっかく整えたところなのに。そう思って、手を伸ばすと、レオさんの手に触ってしまった。
 慌てて引っ込めようとすると、レオさんが私の手をギュッと握った。

「マリアさんはすごいな。あれから、一年も経っていないのに夢を叶えたんだから」
「レオさんのおかげです。レオさんの言葉で私、がんばろうと思えたんです。動かなくなった体を元に戻せたのもレオさんの髪を切るって約束があったからだし」

 レオさんが私の手を握ったまま、立ち上がった。背が高いから、見上げるようになってしまう。
 すると、レオさんは片膝をついた。

「マリアさん、付き合ってくれませんか?」

 え? それって、買い物に付き合うとか、そういう付き合いじゃないよね。そうだったら、片膝ついたりしないもんね。
 でも、なぜ、私? いいの?

「は、はいっ」

 疑問に思いながらも勢いよく答えてしまった。がっついてるみたいで恥ずかしい。

「ありがとう」

 その笑顔、反則だよ。お礼を言いたいのは私なのに。

「魅力的にしてくれるって言うから、髪を切った後で告白しようと思っていたんだ。その方が成功率が上がるかと思って」
「そんな。髪を切る前から魅力的でした」

 レオさんの顔が近づく。
 え、え?
 私は目をつぶるべき?

「ひゃ」

 小さな叫び声にパッとレオさんが振り向いた。
 ミルルが口を抑えてこちらを見ている。ミルルがいることをすっかり、忘れていた。

「あ、どうぞ。私のことはお気になさらず。どうぞ、続きを」

 ミルルがぶんぶんと手を振った。
 レオさんはため息をつくと、私の耳元でささやいた。

「続きは二人きりになった時に」

 私は耳を押さえてコクコクうなずくことしかできなかった。

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