【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい

椰子ふみの

文字の大きさ
40 / 49

集合

しおりを挟む
「ヴィオラ様が目を覚まされました」

 魔法でできた蝶が部屋に入ると、一枚の紙に変わり、文字が読めるようになった。ヴィオラにつけていた影からの連絡だ。
 イアンはホッと息を吐いた。ずっと、そばにいたかったが、追い出されてしまい、不安で仕方なかった。
 目が覚めてすぐに見舞いに行ったら、ヴィオラの負担になるだろうか。
 迷っていると、また、蝶が現れる。

「ヴィオラ様のお父上が到着」

 挨拶しておきたいと、イアンは身支度を始めた。そこへまた、蝶が現れる。

「ヴィオラ様、療養のため、お父上と共にグラント領へ出発されました」
「え?」

 もう出発したのか。速い、速すぎる。意識がなかったのにそんなにすぐに移動して大丈夫なのか? まだ、目を覚ました姿も見ていないのに。

「後を追う」

 決心したイアンの元にまた蝶が来た。

「ライル殿が後を追ってグラント領に向かいました」

 イアンは思わず、そのメッセージの紙を握りつぶした。



「私に黙って行ったの?」

 ジョセフィンは思わず、声を上げた。

「お嬢様」

 はしたないですよというニュアンスが侍女の声にこもっている。

「ごめんなさい」

 ジョセフィンは大きく息を吸った。ヴィオラは私のことを友達と思っていないのだろうか。いいえ、そんなことは関係ない。私が友達と思っているので充分なのだから。

「お友達をお見舞いに行くから旅行の準備をしてちょうだい」
「あの、授業は?」
「休みますと連絡してちょうだい。それから、お父様の許可を取ってください。お父様が断りそうになったら、王太子様と一緒ですって言って。それで許してくれるでしょうから」
「王太子様とご一緒されるんですか?」
「私が誘えば、すぐにのってくるわ」

 そう、私の誘いが言い訳になるから。

「急いで手紙を書かないと」

 ジョセフィンは事務的な白い便箋を手に取った。



「ピーター、この国で経済危機にありながら、見事に復興した領があるんだ。授業だけでなく、そういう実態を学ぶことも重要だと思うんだが」

 トムの言葉にピーターはジロリとにらんだ。

「グラント領のことでしょう。学びたいなんて格好をつけずに正直に言ってください。ヴィオラ様のお見舞いに行きたいんでしょう」
「ああ、訪問のついでに見舞うのもいいかもしれない」

 ピーターはため息をついた。格好をつけずに婚約の申し込みをすればいいのに。
 女性不信だった殿下はやっと心を惹かれる少女に出会った。ただ、まだ、普通に行動するようになるには時間がかかるのかもしれない。
 ただ、ヴィオラ様に惹かれている男子は大勢いる。のんびりしている場合ではない。まあ、それまで、ヴィオラ様に変な虫がつかないように見張るのは自分しかいない。
 ピーターは旅行の準備を始めた。



「ジョセフィンから手紙だと?」

 ジョージは顔をしかめた。ジョセフィンとの婚約をまわりが固めようとしている時期に手紙を送ってくるなんて、どういうつもりだ。お互い、婚約の気持ちはないというので一致しているのに。
 それより、ヴィオラはどうなったのだろう。治癒力に優れた神官を派遣するように神殿には圧力をかけておいたが、他にできることはないだろうか。ヴィオラを呪ったのはジョセフィンとの婚約を推し進めようとしている者に違いない。突き止めて、破滅させてやる。
 気もそぞろにジョージはジョセフィンの手紙を開いた。

「グラント領へ見舞いに行くだと?」

 ヴィオラの意識が戻ったというのにまだ、自分のところに情報が来ていないのはどういうことだ。
 本当に大丈夫なのか?
 グラント領までの道は険しいと聞くのに。

「誰か! グラント領に小旅行をするから準備を。急げ」

 ジョセフィンの言う通り、単独で女子を見舞いに行くことはできない。だが、婚約者候補と生徒会の一員を見舞うというのであれば、形式が整う。

「不思議な世界だ」

 王族のしきたり、貴族のしきたり。それらを枷と感じないほど、慣れ親しんで来た。
 その世界がヴィオラのことを考えるたびに崩れてしまう。

「悪くない」

 ジョージはつぶやいた。



「どういうことだ。七人もの生徒が急に休暇届を出すなんて。しかも、その中に王太子様もいるとは」

 ハーモニー学園の学園長は頭を抱えた。単なる休暇ならいい。全員、無期限とはどういうことだ。学園の運営に問題があると思われたら、どうなる。ただでさえ、キャンプの襲撃事件で評判が落ちてしまったのに。

「どうされました?」

 呼び出していたミューラー先生が部屋に入ってきた。

「君は原因を知っているかね。突然、大勢の生徒が休暇を取ったんだが」
「ああ、見舞いですね」

 けろりとミューラー先生が答える。

「特級クラスのヴィオラ嬢が呪われた件でしばらく療養するそうです。それを見舞いに行くため、休暇を取ったのでしょう」
「だが、なぜ、無期限に」
「一緒に学園に戻ってくるつもりなのでしょう。学園長、よかったら、私が皆に学園に戻るように説得してきましょう」
「た、頼む。よろしく頼んだぞ」

 ミューラーはグラント領に行く口実を得て、にやりと笑った。

「あれだけの魔力を持つヴィオラさん、両親にも会ってみたかったんです」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~

浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。 御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。 「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」 自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

乙女ゲームのヒロインに生まれ変わりました!なのになぜか悪役令嬢に好かれているんです

榎夜
恋愛
櫻井るな は高校の通学途中、事故によって亡くなってしまった ......と思ったら転生して大好きな乙女ゲームのヒロインに!? それなのに、攻略者達は私のことを全く好きになってくれないんです! それどころか、イベント回収も全く出来ないなんて...! ー全47話ー

その破滅エンド、ボツにします!~転生ヒロインはやり直し令嬢をハッピーエンドにしたい~

福留しゅん
恋愛
自分がシナリオを書いた乙女ゲームの世界に転生したメインヒロインはゲーム開始直後に前世を思い出す。一方の悪役令嬢は何度も断罪と破滅を繰り返しては人生をやり直していた。そうして創造主の知識を持つヒロインと強くてニューゲームな悪役令嬢の奇妙な交友が始まる――。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。 どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。 鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます! ※他サイトにも掲載しています

【完結】婚約者はお譲りします!転生悪役令嬢は世界を救いたい!

白雨 音
恋愛
公爵令嬢アラベラは、階段から転落した際、前世を思い出し、 この世界が、前世で好きだった乙女ゲームの世界に似ている事に気付いた。 自分に与えられた役は《悪役令嬢》、このままでは破滅だが、避ける事は出来ない。 ゲームのヒロインは、聖女となり世界を救う《予言》をするのだが、 それは、白竜への生贄として《アラベラ》を捧げる事だった___ 「この世界を救う為、悪役令嬢に徹するわ!」と決めたアラベラは、 トゥルーエンドを目指し、ゲーム通りに進めようと、日々奮闘! そんな彼女を見つめるのは…? 異世界転生:恋愛 (※婚約者の王子とは結ばれません) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

モブ令嬢は脳筋が嫌い

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
恋愛
イーディスは海のように真っ青な瞳を持つ少年、リガロに一瞬で心を奪われた。彼の婚約者になれるのが嬉しくて「祖父のようになりたい」と夢を語る彼を支えたいと思った。リガロと婚約者になってからの日々は夢のようだった。けれど彼はいつからか全く笑わなくなった。剣を振るい続ける彼を見守ることこそが自分の役目だと思っていたイーディスだったが、彼女の考えは前世の記憶を取り戻したことで一変する。※執筆中のため感想返信までお時間を頂くことがあります。また今後の展開に関わる感想や攻撃的な感想に関しましては返信や掲載を控えさせていただくことがあります。あらかじめご了承ください。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

処理中です...