幸福からくる世界

林 業

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精霊たち井戸端会議

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生まれたときからルーンティルはいて。
俺のせいで色んなこと我慢させてきて。
守っているつもりなのに、護られてて。

だから兵士になって護りたかった。
ルーンティルの力になって、ルーンティルのために平和な国に尽くしたかった。



なのにあの日、帰るのが遅くなった。
ルーンティルに恋慕していた幼い王子やっかみを受けて、急いで帰ったら、家の中は真っ暗で。

養い子であったリースティーンはその日、学校に泊まりでいなかったのは不幸中の幸いだったかもしれない。

居ない十年。
最初の一年はただルーンティルを求めた。
次の二年は兵士を辞めて、リースティーンを独り立ちさせた。
次の三年目からは家を拠点にしてひたすらルーンティルを探した。
本当ならその年からちょっとした旅行にいくつもりだったのに。
五年目頃からユージーンたちとチームを組んだ。
六年目からは英雄と名を馳せるようになっていった。


十年とちょっと。
成長した王子に頼まれ、渋々付き添いに行ったその領地で聞こえた子守唄。

知っている声に知っている歌。
その日の夜。
侵入した場所にルーンティルはいた。


心壊れ、ようやく連れて帰った。
一日中椅子に座ってぼーっとして。
思い出したように何でもいいからと魔導具を作り出した。
ある日、今回のように渡り竜の時期が訪れワイバーンを襲っていた子供から守るために精霊を呼び出した。

その頃から心を徐々に取り戻し、拙くも会話ができるようになった。
俺は嬉しかった。
閉所に暗所の恐怖症があろうとも。
ただ、一緒に要られる幸せ。
名前を呼んでくれる。




だから、入れ替わりの魔術が刻まれた木箱。
そこを壊して懐に入れてから気を失ったルーンティルを抱き上げる。
その手が赤く染まり、舐める。
爪が割れ、痛みなど気づくことなく、壁を引っかき、恐怖を押し隠して、必死に出ようとしていたのだろう。

血の匂いに気づかなければ。
また、いなくなってた。
その事実にゾッとする。

「レイラ」
声を掛ければ、レイラがなんでと小さな声を上げる。
「ちょっと手当お願いしていいか」
商人が逃げ出そうとしているので近くにルーンティルを座らせて、彼女に頼む。
即座にサジタリスは踵を返して走り、商人の首根っこを掴んで城壁の壁に叩き付ける。
「誰に頼まれた」
「う、うぅう」
「ルーをつれて来いと誰に頼まれた」
ルーンティルを守るために、国はギルドや国の許可がないとルーンティルは城壁の外に出れないようになっている。
許可を取りに行くときも、ルーンティルとサジタリスが揃っていないと承諾されない。
「お、俺はただ馬車を走らせてあっちこっちの避難所に行ってから、ここから出ろって大金をもらっただけだ」
(だから間に合ったのか)
いや。単に運が良かっただけと切り捨てる。
男を走ってきた兵士に投げてルーンティルの下に戻る。

「ルー。戻ろう。ルシオも待ってるしな。泣いてないといいが。ユージ。アーリ。後任せていいか?」
寂しがり屋のハルシオを思い出す。
なんだかんだで、ルーンティルやサジタリスが気づいたらいないと、戻ってきたとき愚図っている姿を目撃する。
「ちゃんと戻って来いよ」

ユージーンが呆れたように告げるのでルーンティルを抱き上げて、飛び出し、避難所へ急ぐ。



「おい。いるんだろ。鳥」
声を出せば、急降下してくるオーラン。
そして嬉しそうに小さな体でルーンティルに近づく。

ようやく馴染みの避難所へ来れば、涙目のハルシオが飛びついてくる。

「しぶぅ、じぇんせぇ。置いて行かないで」
「大丈夫。大丈夫だ」
頭を撫でながらルーンティルを片手に抱き直し、ハルシオを抱き上げる。
何時もならぐずるぐらいで、此処まで大泣きはしないのにと背中を撫でる

「俺、俺」

部屋へと戻り、司祭に頼んで個室を用意してもらう。ルーンティルを寝かせ、泣きじゃくるハルシオを抱き締めて慰める。

ウルカがきゅうと窓から飛び込んでルーンティルにしがみつこうとしている。
「ルーのいたところに何か落ちてなかったか?」
聞けばウルカは首を捻り、ララが心臓核を加えてやってくる。
色合いから察するに、蜥蜴の亜種の心臓核だろう。
うとうとと疲れて眠りだすハルシオに近づくララと肩に現れるクラーク。


背中を優しく抱き締めていれば眠ってしまう。
抱き上げて横に寝かす。
「南瓜。三度目はねぇからな」
俺だけ!と言わんばかりにジャックウィリーがランタン片手に現れる。

司祭に献金を渡して、お願いすると急ぎ、城壁へ戻る。



ルーンティルが目を覚ます。
(なんで、寝てるんだろ)
明るい部屋で、ハルシオがしがみついて眠っている。
ルーンティルの服を無理に解くのを躊躇われるほど握っている。
「しふぅ」
寝言を呟く可愛い姿にここに居ると抱き締めれば落ち着いたのか、深い眠りへと落ちていく。

クラークとララが心配そうに覗き込んでいるので、いい子たちと頭を撫でる。



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