龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業

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精霊の奇跡

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アレクサンドラは母を見あげる。
何時も母を見上げてた気がする。

翠の綺麗な瞳が自分を見つめてくるのが好きだった。


「おかあさん!おかあさん!」
母の夢を見るとあの日が繰り返される。

突然やってきた勇者が母との話し合いの中、自分を見た瞬間の憎悪に染まった瞳。
母を悪だと断罪し、自分を勇者が即席で作った穴の中の地下へと隠された。


そして歌うことはもちろん喋ることすら許されず、言葉を発することすら許されなかった日。

ボロボロの姿で母が現れた。

「ーーーー」

母が嬉しそうに笑って手を伸ばし傷を撫でてくれる。

「アレク。大丈夫。すぐに助けが来るわ。精霊があなたを助けるすべを模索してくれるのよ」
優しい手に何度も頷いていれば、村人が怒鳴り込んでくる。
「歌うのを恐れちゃ駄目よ。歌はアレクを助け、精霊の助けを求める歌だから」

微笑む母は目の前で村人に殺された。

「おかあさん!」

血まみれの中、母の最期。


「ーーーーーさま」

「おかあさん!やめて!やめて!」

必死に手を出すが母には届かない。
むしろその手を跳ね除けられ、喋ったことへの罰だと殴られる。



その痛みで飛び起きる。

(おかあさん)

口にならない言葉に精霊がざわめいている。
アレクサンドラの精神の乱れに精霊が反応しているのに気づいて慌てて歌を口にする。

このまま放っておけば精霊が何をするかわからない。
 
大丈夫だからと無理矢理微笑む。


隣を見るが今日はサンムーンがいない。
今日は夜会でお城に泊まり込んでいるからだろう。

精霊が落ち着き、ほっと息を吐いた瞬間、涙が溢れて止まらない。
精霊が再び騒ごうとするので大丈夫だと止める。
(おかあさん)

母は最期に誰を見たのだろう。

アレクサンドラにとっての光。
サンムーンのような存在を見れただろうか。


何時も寄り添ってくれている精霊が姿を現す。
大丈夫かと心配そうに見つめてくる目。
涙を拭ってくれる手。

お母さん夢を見ただけだと告げる。
だから大丈夫と笑うのだが精霊は不安そうに瞳を揺らし、しかし彼女は素敵な人だったと母のことを語ってくれる。

「アレクに聖夜の奇跡を」

精霊が突如として願うことに珍しいと息を呑む。
精霊たちが奇跡と口にすることは、アレクサンドラの名を呼ぶことなどなかったのに。


アレクサンドラとは長い付き合いだがこの精霊が一体何ができるのかを知らない。



聞こうとしたが、この精霊をこれ以上頼るのは違うと感じて、願ったことを考える。

そういえばもうすぐ、精霊信仰のなかでも特別な日が訪れる。
何でも神様が世界を作った新年。
精霊を作った日という豊穣祭。
神様が精霊と共に世界を整えた星祭。
最期に生命を作った日だという、聖夜の祭。

そういえばもうすぐ聖夜の祭だと思い直す。
家族と過ごすもの。
愛しいものと過ごすもの。
祭りだからと催しもあるという。

一年を無事に過ごせたこと、生まれてきたことを感謝するためプレゼントすることがあるという。
「今年のプレゼントどうしようかな」
今年もルーカスに付き合ってもらうか、それとも友人に付き合ってもらうか窓の外を眺めつつ考える。

おかあさん。アレクは今こんなに幸せなんです。
おかあさんは今、お空の上で安らかに過ごせてますか?

いつの間にか窓の側で眠っていたらしく、熱が出て使用人たちが慌てていた。
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