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リッカとタイチ
その後
しおりを挟む結末として、あの後リッカの契約した魔獣が神獣であることがフィラノ中に広まることとなった。あの日和解したタイチとはあれ以来二日に一回は会う仲ほどになり、初対面の日を思い出せばその関係性は真逆のものとなっただろう。サイガもあの日以降あの傲慢さはなりを潜めているようだが、まだトウドウ家とアズマ家の仲はリッカとタイチほどよくは無いようである。
「狼はもっふもふだね。気持ちいい。」
「毎日ブラッシングしているからな。白虎もふわふわじゃないか?」
「まあね。シロくんもだけど、みんな一緒にお風呂に入るし、ブラッシング欠かさないから。」
「風呂か……狼は水は好きだけどお湯が苦手みたいなんだよな……」
現在リッカとタイチがいるのはトウドウ家のリッカの裏庭、森の中の一番大きな樹の下で神獣たち四匹と狼たちとまどろんでいるところだ。リッカに関してはスケッチブックと筆を持ち、スケッチをしている最中でもある。いろいろ会話をしたり、触れ合ったりしながら筆を進めているというわけだ。
「お湯が苦手、か……まずは水に近いぬるま湯から始めてみたら?慣れさせていくといいかも。」
「なるほどな、それもアリか。」
『狼はお湯が苦手というよりも、熱いお湯に慣れていないようですよ。お母様』
「あ、そうなの?じゃあやっぱり慣れしかないね。」
「朱雀が何か言ったのか?」
「狼は熱いお湯が苦手なんじゃなくて、慣れてなくてビックリするんだって。タイチ結構熱い湯に入るでしょ?だからじゃない?」
以前タイチがトウドウ家に泊った際に、リッカも驚いたものだ。洗い流している時に使っていたお湯が尋常じゃないほど熱かったのである。横に並んで洗っていたものだからはねた熱湯がリッカにかかり、大変な思いをした。リッカ自身も熱すぎるお湯は苦手なため、余計に熱いと感じたのだろう。
身に覚えがあるのか、タイチは気まずそうに眼を逸らした。
『すっごくあついっていってる!』
『クゥ~ン……』
『まー敏感だもんな、獣の皮膚って……白虎と朱雀がそうだし。』
『うちはお母さんが熱い湯に入れないからね。熱さで言えばそうでもないけど。』
「今日泊っていくでしょ?お風呂入るときにどれくらいがいいのか教えてあげるよ。」
「頼む……」
ガックリと肩を落とし、リッカの太ももに懐いていた狼の頭を撫でる。まさかそんなこととは、そう思っている顔だ。最後のそのひと筆が終わったのか、リッカは満足そうにうなずくとその完成した絵をモデルである狼に見せている。凛々しく、それでいてふんわりと描かれたそれに狼は満足するように一声鳴くと、嬉しそうに甘え始めた。
「いい感じでしょ?自信作。」
『ウォンッ』
「いつも思うけど、上手いよな……ほんとに。」
「何、急に。褒めても何も出ないよ?」
「純粋にそう思っただけだ。……そう言えば、うちの父がまた言っていた。」
「あー、取り合ってくれないって?だめだね、あれはもう時が来るまで待つしかないよ。」
先に、トウドウ家とアズマ家の仲はそれほど回復していないと述べたが、より詳しく言うならセイイチとサイガの仲が回復していないのだ。回復も何も最初からそこまでよかったわけではないのだが。息子のタイチとリッカ、そしてその母親たちはそれぞれいい仲を築いている中でサイガたちの仲が悪いと家同士の付き合いも満足いかないとサイガの方がその妻であるスミレに言われたらしい。ああ見えて尻にひかれているサイガなのだ。
サクラは夫は夫、妻は妻と割り切っているので、何も言わないのだが、スミレはそうでもないらしい。怒られているのを見たとタイチはリッカに話してくれた。そういうこともあって仲良くしようとサイガが持ち掛ける中、セイイチは全く取り合おうとしない訳である。
「それにしても、大きくなったね。」
「ああ、狼だろ?まだ一ヶ月も経ってないんだがな……そもそも魔獣って大きくなるものなのか?」
「んー、どうなんだろう?すーちゃんとかゲンくんは何かわかる?」
そう、あの模擬戦闘の時にだいたい百四十センチほどのタイチより少し小さいくらいだった狼が三週間たった今ではそのタイチよりも少し大きくなっているのだ。確実に大きくなっている。通常契約した魔獣は成長しないと言われているのだが、タイチの狼は成長しているので不思議に思っているわけである。
『よくここを訪れるようになったので、タイチの魔力量が増えたのでしょう。増えれば魔獣も成長します。』
『人間は魔力が微量に増えることはあってもごっそり増えることはよくあることじゃないからね。前例が少ないんだと思う。』
「ふーん、そんなもんなんだねぇ。」
『この裏庭は俺たち神獣の魔力と、母さんの魔力で満ちてるからなー。そりゃ増えるよー。』
「なるほど。そっかぁ……」
「何か分かったのか?」
濃い魔力に包まれれば自然と魔力量も増えていくものらしい。黄龍がリッカに髪を伸ばすように言ったのもより多くの魔力が貯めれるように器から大きくしたのである。だからと言って髪を切れば器が小さくなるわけではないが。 結果、リッカのように髪を伸ばしているわけではないタイチは魔力の増え幅がそこまで無かったと言える。
「ここによくいるから、魔力量が増えて成長したんじゃないかって。」
「……魔力って、増えるのか?」
「この子達が言ってるんだし、増えるんじゃない?」
「そういうもんか……でも、だとしたら神獣たちは大きくならないのか?」
「ああほら、シロくんたちは偽りの姿だからね。本来の姿はこの間のとそう変わらないよ。もうちょい大きくなるかもだけど。」
頭を撫でながらリッカは言うが、あれより大きくなると聞いたタイチは苦笑いしかなかった。
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