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依頼消化編
依頼達成
しおりを挟む浮蛇を掴んだまま最初に街を訪れたときと同じように門をくぐる。一応下手に攻撃されてしまわないように街に入ってすぐに浮蛇に我慢してもらってケージの中に入ってもらったが、どうにも不機嫌そうなオーラが漂っていた。
リッカはケージの隙間から指を入れ、こちょこちょと浮蛇を撫でてあやす。ギルドマスターであるグランの元まで連れて行けばケージから出しても問題ないだろうし、それまでの我慢だ。
「ごめんねー、キミ珍しいしちょっかいかけられないって確信持てるわけじゃないし、ちょっとだけ我慢してねー」
「いつまで話しかけてるんだリッカは……ノアはもう先に行ってるぞ。」
「分かってるよ。フェリもまたごめんね、おさがりリボンで。」
『んーん、ぼくこのりぼんすきだからいいよ!』
リッカの言うようにフェリは最初のように小型犬のサイズになり、リッカのリボンをつけている。朱雀を頭の上、青龍を肩に乗せ、玄武にはいつも通りバッグの中に入ってもらい、白虎を抱っこした状態で、フェリと顔を合わせ話す。ちなみに浮蛇が入ったケージはタイチが持っていた。リッカではなくタイチが持っている理由だが、リッカに持たせるといつまでも目的地にたどり着けないからである。そのためリッカは白虎を抱っこして我慢しているのだ。フェリがそんな白虎を見て羨ましそうにしているのは余談である。
やんややんやと会話をしているうちに目的地であるギルドへ到着し、勝手知ったるやスタスタと遠慮なく歩を進めノアが待っている場所までやってくることができた。
「やっと来たね。さ、ギルマスに報告しに行くよ。」
「はいはーい。説明聞いた部屋にいるの?」
「イレギュラーがない限りはいつもあの部屋にいるよ。ほら、浮蛇も早く出してあげないとでしょ?」
「そうだね、タイチもいける?」
「ああ。」
受付を抜け、廊下を歩く。流石に浮蛇もあと少しでケージから出してもらえると分かったのか、大人しくしているようだった。ノックをし、返事を待って扉を開ける。中に入ると驚いた様子のグランが椅子から立ち上がっているところだった。
「……もう保護できたのか?」
「もうって……結構時間かかったと思うんですけど。」
「いや、そもそも俺たちは時間をかけても見つけきれてないんだぞ。……それがこんなに早く、」
「落ち着いてください、ギルマス。」
「……とりあえず浮蛇を出してあげてもいいですか?」
混乱しているグランにノアが落ち着くように促す。その様子を見て、リッカはテーブルの上に置いたケージから浮蛇を出してもいいか許可を求めた。居場所が変わりそわそわとしている浮蛇を早く宥めてあげたいのである。
グランはリッカの問いに頷くと、一つ深呼吸をし着席した。
「すまん、取り乱した。」
「いえいえ。正直見てた僕らもリッカくんのやり方は予想外すぎて信じられませんでしたもん。ね、タイチくん。」
「まあ、確かに。でも俺はもう慣れているからな……。」
「あー、故郷が一緒だもんね……ってそれより、この子で間違いないんですか?」
リッカにふんわりと握られ、居心地よさそうにまどろんでいる浮蛇を見ながらノアは言う。魔道具で判別もしているので間違いはないと思うが、確認をとって損はない。グランはノアの問いに、しっかりと頷き、手元の資料を眺めながら口を開く。
「そもそも浮蛇はこの辺には生息していないんだ。日のよく当たる森の中にいて、気温がそれほど高くない場所が彼らにとっては適地と言われている。この辺一帯はどう譲歩しても気温が低いとは言えないからな。」
「そっか……じゃあまあこの子で間違いないんですね?」
「ああ。それに、浮蛇を従魔にしているのなんて滅多にいないからな。うちのギルドのデータにも今回の一人だけが唯一浮蛇と契約してたみたいだしな。」
リッカの手の中でリラックスしている浮蛇に視線を移しながらグランはそう言った。リッカにあやされているからか、今は人間に対してさほど過剰な警戒心も抱いておらず、これならばしばらく保護して野に返すことができるだろうとグランは続ける。
その言葉に対してタイチはふと疑問に思うことがあった。
「あの、気になったんですけど、従魔契約から解放した後ってそのまま街の近くの森に放すんですか?」
浮蛇の生息地は少なくともここら一帯にはない。魔獣の中には自身にあった地でないと、弱ってしまう個体も数自体は少ないがいるにはいる。従魔になればその限りではないが。そして、浮蛇もまた、弱ってしまう個体の一つでもあるのだ。今までは縛っていたはずの従魔契約のおかげで影響はなかったが、従魔契約から解放した後はそうもいかないだろう。
タイチは浮蛇の生態に詳しいわけではないが、魔獣にはそれぞれ適した環境というものがあり、中にはその環境の中にいないと弱ってしまう個体もいるというのは知識として身についている。それゆえの疑問だったのだ。
グランはタイチの質問に首を横にふり、「いや、」と否定した。
「こいつに適した環境がある場所にきちんと送り届ける。浮蛇は環境があってないと弱体化する魔獣だからな。」
「ま、保護しといて後はぽい、とかじゃあ保護とは言えないよね。」
「こらこらリッカくん、言い方言い方。」
「だってその通りでしょ?ですよね、グランさん。」
「そういうことだ。だから安心してくれ。」
なんだかんだ言いつつもタイチだって心配はしている。リッカ程ではないが。この後は浮蛇も一旦保護所に預けられ、身体や心を癒し落ち着けて先に返す予定地に連れて行き、そこで契約を解除するらしい。つまり、野生に戻す直前までは従魔契約に縛られたままになってしまうということだ。しかし、ここで不用意に解除してしまうと環境が適していないため浮蛇が弱ってしまう。野生に戻すまで我慢してもらうことになるが、確実に安全は保障できる。
諸々説明をしてもらい、全員が理解したところで依頼は達成したということになった。今後はもともと持っていた依頼用紙に依頼達成を記すサインをグランにしてもらい、それをアカデミーの依頼受注報告所に持っていけば報酬と共に成績につけてもらえることになる。しかし、今回のこの依頼は最初のパーティの活動であると知ったジルが候補をいくつか持ってきてくれた中に入っていたものなので、依頼用紙自体はグランから受け取らなければならない。
ノアがグランにその旨をつたえると、グランはあっらかじめ用意していたのか、さっと用紙を取り出し渡してくれた。
「これでいいんだろ?もうサインはしてある。」
「ありがとうございます。ほら、時間も頃合いだし、さっさと帰るよ。じゃないと今日中に王都に帰れなくなる。」
「はっ!そうだ!ごめんね、また縁があったら今度は一緒に遊ぼうね!グランさんもありがとうございまーす!」
「あ、おいちょっと待て!すみません、ありがとうございます!ノア、俺リッカ追いかけて止めとくからなるだけ早くな!」
「はーい。リッカくん多分何か勘違いしてるな?……まあいっか、ってことで、また何かあったらよろしくお願いしますね。」
そそくさとテンションが上がったまま軽く挨拶をし、出て行ってしまったリッカを追いかけてタイチも出ていく。浮蛇は残念そうにしていたのだが、出ていく前にリッカの手によって、大人しくケージに戻された。その二人の後姿を見送り、ノアもまた立ち上がり挨拶をする。
もはやグランもこの短時間でリッカの性格を理解したのだろう。仕方がないと言わんばかりの表情だ。そのままグランは出ていくノアを見送り、一つ息をついてケージの中の浮蛇へ視線を向けた。
「嵐のような奴らだったな。」
グランの一言に浮蛇は同調するかのようにふわりと空中で一回転した。
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