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呪文
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午後五時五十分。
家を出てから二時間と少し、居酒屋のチェーン店【マルマルモリモリ】に到着した。
入店するには流石に早すぎるので、近くに見えるパチンコ店で時間潰しをしようと思う。と言っても、本腰を入れて遊技するつもりは無く、謝礼代わりに千円ほど投入した後は自販機でコーヒーを買い、休憩スペースで寛ぐつもりだ。
東京には意外と椅子で休める場所が無いので、僕はそうして休憩することが少なくない。
「徹!」
「えっ? あっ、ショーダイ!」
一瞬、女性から声をかけられたのかと思ったが、パチンコ店に向かおうと信号待ちをしていた僕に呼び声を上げたのはショーダイこと前田 将大だった。
容姿も声も中性的だが本人は気にするどころか使えるネタだと思っており、去年の日ロボ大学園祭で行われたミスターコンテストに悪ノリから女装で参加し、まさかの二位を獲得した黒髪美青年でもある。
にしても、こんなに早く来る人が僕以外に居るとは。
「おっす! 徹、なんかお洒落になった?」
「やっぱ分かる?」
「そりゃあな。前は毛玉ボツボツのスウェットとかだったじゃん。やっと目覚めたか」
「そんなに酷かったっけ……まぁ、今後ちょっとは気にしようかなってね」
「良いじゃん。で、あいつらは? もう店ん中?」
「いやいや、小野と涼太はまだじゃない? てかショーダイが早いのにビビったわ」
「早いって、今日、六時っしょ?」
「ああ……なるほど。予約、六時半だよ」
「六時半だっけ!? まじか! ああ、でもまぁ、もうちょいか! んで、徹はどこ行こうとしてたの?」
「まだ早いし、時間潰しでもしてようかなって」
そう言いながらパチンコ店を指さす。と、ショーダイはなぜか嬉しそうな顔をして自らの財布の中身を確認した。
「徹も勝負師だな。おけ、付き合うわ!」
「いや、一人なら行こうと思ったけど、ショーダイが来たならそこ(コンビニ)でコーヒーても買って喋ってたらすぐじゃない?」
「ええぇ? 酒飲む前にコーヒーかよ、全然良いけど。買うべ買うべ」
ちなみに、将大は僕と違い、驚くほど酒に強い。日本酒一升だろうとペロリと飲み干してしまうウワバミなのだ。綺麗な面して恐ろしい奴め。
そうして僕らは缶コーヒーを買い、【マルマルモリモリ】の前で残りの二人を待つことにした。
「論文、苦戦したって?」
「それな。いや、オレって二足歩行のロボットってか、人型ロボットにめっちゃ浪漫感じるタイプじゃん? でも国内の人型ロボットの水準なんてまだ、良くても走れたり踊ったり出来るくらいじゃん? だからもっと研究開発に力を入れてもらう為にロボットが人型である事の実用性と必要性を書きたかったんだけど、書けば書くほど人型の限界っつうか、どうしても実用性が機械型に負ける気がしちゃってさ!」
とても早口だ。
友達だからギリ聞き取れるけど、知らない人からしたら一種の呪文に聞こえるんじゃないだろうか。
「なるほど」
「そうそう! だから医療現場だとか介護施設の為に配備されるロボットが完全人型なら、施術をされる側の精神的負担も軽減されるでは? っていう方向に書き直した訳ね。そしたら先生から、例えば車椅子型の可愛らしい見た目のロボットなら起き上がりの補助、そのまま自身に要介護者を乗せて移動も出来るのでは? って指摘されたんよ。確かに案件なんだよな。仮に人型で同じ事が出来たとしても、移動は絶対人型の方が揺れるしな、って」
「たしかに」
「だからまた書き直そうと思ったけど、よくよく考えたら人型なら車椅子を使えば良いじゃんって気付いたのよ。その場合、車椅子型ロボットなら一台につき一人必要になるけど、人型がベッドに寝た人を起こして車椅子に乗せるっていう力仕事をこなして、その先は人間の介護職員さんにバトンを渡すようにすればロボットが人の職を奪うっていう問題も軽減されるし、人も力仕事が減って助かる。その場合だと車椅子の数だけ要介護者を助けられるからロボット一台あたりのコスパも上がるじゃん? これだ! と思ったわけよ。で、それで提出したら『まぁ、良しとする』ってさ!」
「なる、ほど……」
「いや、言いたいことは分かる。今でも機械式ベッドで人を起こして車椅子に乗せれる物があるけどって思うよな。だから、結局は人型の方が精神的な安心につながるし、人型っていう見た目の強みとAI会話機能をかける事で、忙しい介護職員さんに代わって話し相手になれることで、ボケ防止にもなるでしょう。みたいな事を推し推しで書いといた! ははは! 良いべ? 良い感じだべ?」
相変わらずのマシンガントーク。
ロボットの事となると人が代わるんだよな。
まぁ、それ込みで面白いんだけどさ。
「結局ロマンじゃん」
「あたぼうよ!」
その後もロボ論文の話は続き、気付けば午後六時二十分。
「おう、お前らもう来てたのか。坂上(涼太)はちょっと遅れそうって言ってたから、先に入ってようぜ」
「おっす」
「小野! 久しぶり!」
久しぶりに会った小野(浩司)は薄めの口髭と顎髭を貯えたうえ日焼けも相まって、以前にも増してワイルドになっていた。
挨拶もそこそこにズカズカと入店していく。
僕とショーダイは缶コーヒーを殆ど飲んでいなかった事に気が付き、一気に飲み干して小野に続いた。
家を出てから二時間と少し、居酒屋のチェーン店【マルマルモリモリ】に到着した。
入店するには流石に早すぎるので、近くに見えるパチンコ店で時間潰しをしようと思う。と言っても、本腰を入れて遊技するつもりは無く、謝礼代わりに千円ほど投入した後は自販機でコーヒーを買い、休憩スペースで寛ぐつもりだ。
東京には意外と椅子で休める場所が無いので、僕はそうして休憩することが少なくない。
「徹!」
「えっ? あっ、ショーダイ!」
一瞬、女性から声をかけられたのかと思ったが、パチンコ店に向かおうと信号待ちをしていた僕に呼び声を上げたのはショーダイこと前田 将大だった。
容姿も声も中性的だが本人は気にするどころか使えるネタだと思っており、去年の日ロボ大学園祭で行われたミスターコンテストに悪ノリから女装で参加し、まさかの二位を獲得した黒髪美青年でもある。
にしても、こんなに早く来る人が僕以外に居るとは。
「おっす! 徹、なんかお洒落になった?」
「やっぱ分かる?」
「そりゃあな。前は毛玉ボツボツのスウェットとかだったじゃん。やっと目覚めたか」
「そんなに酷かったっけ……まぁ、今後ちょっとは気にしようかなってね」
「良いじゃん。で、あいつらは? もう店ん中?」
「いやいや、小野と涼太はまだじゃない? てかショーダイが早いのにビビったわ」
「早いって、今日、六時っしょ?」
「ああ……なるほど。予約、六時半だよ」
「六時半だっけ!? まじか! ああ、でもまぁ、もうちょいか! んで、徹はどこ行こうとしてたの?」
「まだ早いし、時間潰しでもしてようかなって」
そう言いながらパチンコ店を指さす。と、ショーダイはなぜか嬉しそうな顔をして自らの財布の中身を確認した。
「徹も勝負師だな。おけ、付き合うわ!」
「いや、一人なら行こうと思ったけど、ショーダイが来たならそこ(コンビニ)でコーヒーても買って喋ってたらすぐじゃない?」
「ええぇ? 酒飲む前にコーヒーかよ、全然良いけど。買うべ買うべ」
ちなみに、将大は僕と違い、驚くほど酒に強い。日本酒一升だろうとペロリと飲み干してしまうウワバミなのだ。綺麗な面して恐ろしい奴め。
そうして僕らは缶コーヒーを買い、【マルマルモリモリ】の前で残りの二人を待つことにした。
「論文、苦戦したって?」
「それな。いや、オレって二足歩行のロボットってか、人型ロボットにめっちゃ浪漫感じるタイプじゃん? でも国内の人型ロボットの水準なんてまだ、良くても走れたり踊ったり出来るくらいじゃん? だからもっと研究開発に力を入れてもらう為にロボットが人型である事の実用性と必要性を書きたかったんだけど、書けば書くほど人型の限界っつうか、どうしても実用性が機械型に負ける気がしちゃってさ!」
とても早口だ。
友達だからギリ聞き取れるけど、知らない人からしたら一種の呪文に聞こえるんじゃないだろうか。
「なるほど」
「そうそう! だから医療現場だとか介護施設の為に配備されるロボットが完全人型なら、施術をされる側の精神的負担も軽減されるでは? っていう方向に書き直した訳ね。そしたら先生から、例えば車椅子型の可愛らしい見た目のロボットなら起き上がりの補助、そのまま自身に要介護者を乗せて移動も出来るのでは? って指摘されたんよ。確かに案件なんだよな。仮に人型で同じ事が出来たとしても、移動は絶対人型の方が揺れるしな、って」
「たしかに」
「だからまた書き直そうと思ったけど、よくよく考えたら人型なら車椅子を使えば良いじゃんって気付いたのよ。その場合、車椅子型ロボットなら一台につき一人必要になるけど、人型がベッドに寝た人を起こして車椅子に乗せるっていう力仕事をこなして、その先は人間の介護職員さんにバトンを渡すようにすればロボットが人の職を奪うっていう問題も軽減されるし、人も力仕事が減って助かる。その場合だと車椅子の数だけ要介護者を助けられるからロボット一台あたりのコスパも上がるじゃん? これだ! と思ったわけよ。で、それで提出したら『まぁ、良しとする』ってさ!」
「なる、ほど……」
「いや、言いたいことは分かる。今でも機械式ベッドで人を起こして車椅子に乗せれる物があるけどって思うよな。だから、結局は人型の方が精神的な安心につながるし、人型っていう見た目の強みとAI会話機能をかける事で、忙しい介護職員さんに代わって話し相手になれることで、ボケ防止にもなるでしょう。みたいな事を推し推しで書いといた! ははは! 良いべ? 良い感じだべ?」
相変わらずのマシンガントーク。
ロボットの事となると人が代わるんだよな。
まぁ、それ込みで面白いんだけどさ。
「結局ロマンじゃん」
「あたぼうよ!」
その後もロボ論文の話は続き、気付けば午後六時二十分。
「おう、お前らもう来てたのか。坂上(涼太)はちょっと遅れそうって言ってたから、先に入ってようぜ」
「おっす」
「小野! 久しぶり!」
久しぶりに会った小野(浩司)は薄めの口髭と顎髭を貯えたうえ日焼けも相まって、以前にも増してワイルドになっていた。
挨拶もそこそこにズカズカと入店していく。
僕とショーダイは缶コーヒーを殆ど飲んでいなかった事に気が付き、一気に飲み干して小野に続いた。
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