命の質屋

たかつき

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良いお店

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 翌日。

 僕は五時半から目が覚めて、九時には約束していた新宿のスイゼリア近くに着いていた。
 我ながら早すぎると思う。
 起きたら眠れなくなった為、早々に準備をして家を出たのだが。約束の二時間前に到着は流石にやり過ぎだ。
 彼女欲しさにがっつき過ぎイコールダサいと思われてしまう。
 
 仕方無しに、僕は休憩できる場所を探して彷徨った。
 結局、近くに自由に座れる椅子が無かったので偶然見つけた喫茶店に入り、アイスコーヒーを注文した。
 口数少なそうな、でも優しそうな顔をした白髪の男性がマスターをしている、何十年も前から在りそうなカフェだ。
 メニューはどれも時代錯誤じだいさくごなくらい安いので、正直あまり味に期待はしていない。
 一時間も居座ると怒られるかな?
 
「どうぞ」

「…………美味しい、です」

 提供されたコーヒーを一口飲むと、心地良い甘さと、冷たさとほろ苦さからくる爽やかな余韻に、感想が無意識に口から出る。

「良い味でしょう。甘いのがお嫌いでなければ、此方もどうぞ。お代は要りません」

「レモンケーキ。ありがとうございます…………これも美味しい! 大好きな味です」

「ふふ。ご満足頂けて何よりです。時間を気にせずごゆっくりくつろいでください」

「はい」

 こういうお店のマスターって、実際も映画みたいに一つ一つ丁寧にグラスを磨くんだ。まだ朝だし、そんなにグラスが使われたとは思えないけど、手持ち無沙汰からかな。
 理由はともかく、本当に絵になる所作に見惚れてしまう。早起きしたお陰で良い店を見つけたものだ。

 行きつけにしようかな。
 もし彼女が出来た時『僕のの喫茶店に行こうか』なんて洒落た事が言えたら格好良いもんね。
 
 途中一杯のおかわりを頼み、一時間が経過した。
 入店してから程なくして他に二人組の女性客が来たけど、その客ものんびり談笑しているので、僕も安心して過ごすことが出来た。

「お会計、お願いします」

「かしこまりました」

 レジの画面を見た僕は目を疑った。
 表示されていたのは三百八十円という数字。
 
「あの、一杯分になってますよ」

「はい。アイスコーヒー一杯の代金になります」

「とても美味しかったですし、長居をしたので、しっかり請求して頂いて大丈夫ですよ?」

「ふふ。今日は特別サービスです。行きつけにしてくれるのでしょう? 次回は是非、お連れ様といらしてください」

「えっ?」

「気に入ってくれた人の違いは分かるんですよ。私も長くやっておりますのでね」

「お兄さん! 良いのよ! マスターは全然お金儲けを考えない人だから! 気にしないで甘えちゃいなさい!」

 二人組の女性が横槍を入れる。
 こういう喫茶店は初めてだし、そんなものなのかと自分を納得させて笑顔を返し、僕はスマホをかざし支払いを済ませた。

「ご馳走様でした。また来ます」

「お待ちしております」

 つくづく良いお店だったな。
 ただ一つ不満があるとすれば『次はお連れ様と』って言われたけど、僕は今のところモテ歴ゼロだ。
 マスターの期待には応えられない。

 もし今日のダブルデートに成功すれば話は別だけど、デートに失敗したら涼太でも連れてくるか。
 一応、お連れ様には違いないしね。
 
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