リバースワールド・原初・ 転生したので黒猫として事物の配達いたします!

黒目朱鷺

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Who are you ?

Who are you ? act2

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 つい先ほど。
 ボクは森の中で怪しげな集団を見つけ、その中にいたぼろ着の少女をなんとなくの気分で連れ出してきたところである。

 あれ? これ最悪ボクが人攫いになりかねない…?

 でもこの森の中でこんな格好させて歩かせてるなら犯罪だ! …ろう。
 う…。それよれもちょっと移動酔いが…。
 さっき分かったことだが黒猫の短期間の連続使用は脳みそが処理しきれないようで、頭が強引に揺らされている気分だ。
 はっきりといって船酔いだとかとは比べ物にならないほどに気持ち悪い…。

「ありがと。私はシア・ヴォルイア」
「え? …ああ、よかった救って大丈夫な状況だったのか。秋…。いや、ナギって言います」

 危うく前世の名前を言うところだった。
 シア…か。やっぱり異世界らしい名前なんだね…。

「何語…?」
「へ…? あれもしかしてボクの言葉って伝わらないの?」
「私の言葉、理解できる。でも話すのはできない…バカ?」

 なんだ。このクソガキ。
 悪いがバカではない。標準的な学力は持っている。

「いたぞ! 撃て! 売り物じゃない方を狙え!」
「んなこたわかってる。バレット」

 マジかよ。酔いがきつくてあんまり距離離せてなったのか。
 まずいぞ。さっきはなんだかよく分からなかったけど落ち着いてる今じゃ…! 返って何もできない!

「めんどくさいな!」
「ナギ。理解した。『ヤー』って言ったらあの五人のことを意識して」
「へ? 理解?」
「ヤー」

 いや! ちょはやい! 突然口を開いたかと思えば何事だよ!
 でも体は無意識にも反応していた。シアの発声の次の瞬間には訳も分からぬ自分自身を置いて意識は五人の標的へと静かに狙いすましていた。

「「ブラッドバレット」」

 気付けばボクはそんな言葉をシアとともに発していた。
 そして目の前にある五つの赤黒い色のした先のとがった細長い弾。
 まさに狙撃銃の弾薬そのもの。
 浮かんだそれらは目にもとまらぬ速度で異様な曲線軌道を描きながら五人の兵士の足を的確に打ち抜いていった。

「な、なんだ今の…」
「ナギ。まだ死んでない」
「いやこの際動けないならそれでいいよ! 黒猫!」

 やはりさっきから思考と体がいまいちマッチしていない。
 なんだろう…。ボクという存在が分割されている気分だ。
 今だってシアと名乗った謎の少女を抱えて走り逃げているのだから。
 一度整理したいな。

―――――――――――

「ナギ。落ち着いて」
「え。え、ああ。うん」
「いいよ、止まって。あいつらは動けない」
「そ、そうか」

 足を止め、大きく息を吸う。

「はぁーー」
「落ち着いた?」
「おかげさまで…。えっと君は」
「シア・ヴォルイア。ドラゴンの魔種」
「そ、そっか。ボクはナギ」
「知ってる。一度落ち着いて」
「落ち着いてるよ? なにを…」
「まだ。魔石が乗っ取ろうとしてる。私を見て、ナギ」

 シアがグイっと顔を近づけてくる。
 顔の所々に切り傷がついているが、シアの美貌の前には無意味。それすら顔のステータスとさえ思えてしまう。
 幼い顔立ちながらも大人びた雰囲気が出るほどクールな表情。
 極めつけは真っ白な肌に青色の瞳。そして腰辺りにまで伸びた長い髪の毛。
 髪の色にも異様に目をひかれる。表向きは明るめの紫色なのだが微妙な光加減で緑っぽい色が覗かせている。

「落ち着いた?」

 と、顔をじっと見ていたらふとシアが頬を緩ませた。
 その表情はどんな人でも一目見れば心癒されることだろう。

「あ、あり…がとう」
「ふふ。さて、整理できた? 状況の」
「はっ! そうだった…。えーと」

 そうだ。まず、プロパティについて知らなきゃ。

「ぷ、プロパティ!」
『現在機能制限が設けられております。ステータスのみ表示します』

『名前:ナギ・ハウトバウン
 性別:女
 年齢:二七一歳
 レベル:2
 種族:ケルベロス(魔種)
 能力:黒猫 王呼伏令
 スキル:共通言語理解 一人称固定 ex.抜刀術
 称号:ヘル・ハウトバウン・ハウンドの孫』

 いや。今はそんな情報はいらない。
 そうだ。ボクはまずあの時飛び出したんだ。そこは自分の意志だし普通だった。
 それから、あの五人のうち二人が声を張り上げてきて魔法とやらを使おうとしたとき、プロパティのやつが色々とたくさんのタスクを出してきて…。

「ナギは魔弾をなにかの魔術で打ち消した」
「へ? あれ。今口に出しちゃってた」
「出してない」
「あれ? まず言葉通じたっけ?」
「…バカ。公開ステータス」

『名前:シア・ヴォルイア
 性別:女
 年齢:非表示
 レベル:非表示
 種族:龍(魔種)
 能力:エラー
 スキル:瞬間言語把握 魔術 ポーカーフェイス
 称号:非表示』

 なるほど…。わからん。

「え、ええとつまり?」
「え…」

 シアの表情は呆気にとられ、すまし顔が目を見開き口も小さくぽかんと開いている。

「ご、ごめん」
「瞬間言語把握。相手の言語について少しでも該当する情報を得た瞬間、その言語を理解し会話を可能とするスキル」
「あ、ああ。なるほど…」
「はぁ…。異世界の言語。ちょっぴり興味、ある」
「きょ、興味?」
「そう。で? 整理はついた?」

 少しドキッとしてしまった。「そう」といった時のシアの笑みは誰が見ても心を奪われることだろう。
 ましてやボクは元は男だし、この体になってまだ数時間だ。

「あ、うん。シアの言葉にヒントがあったからね」
「ヒント? 出したつもりは、ない」

 どうであれ主悪の根源は見つけた。
 あの「餞別」のせいである。
 プロパティで詳細を表示させてみると日本語ではっきりと
『所持者の能力を大幅に上昇させる。が、上昇酔いが発生する。主な症状として言動乖離や思考と行動の不一致などがあり、上昇後の自分を知る必要がある』
 と書いてあった。
 アズリエールさんめ…。何が餞別だ。
 とんだデバフ効果を押し付けられたもんだ。

「この石」
「ああ。ユーフラテシア虹石のこと」
「ユーフラテシア虹石?」
「うん。別名は…知らない方がいい。初心者とか奴隷兵士を無理やり使い物にする石」
「もしかして…危険なもの?」
「もしとかそんな話じゃない…。基本的に自我を崩壊させる石」
「こっわ! あれ? でもボク普通に持ててるけど?」

 事実そんな危険な石は綺麗な光を放ちながら手のひらでふわふわ浮いている。

「それは分からない…。でもナギ、初心者より強い。事実」
「ふーん。実感ない」
「ナギ。…寒い」
「あ、ご、ごめんね! でも予備の服とかないから…とりあえずこれ羽織ってて」

 この地へと降り着いた時に着ていた真っ白いフード付きローブをシアへ渡す。
 シアは少し驚いた顔の後に微笑みながら羽織ってくれた。
 でも…そうするとボクが寒くなっちゃうんだよな。ローブの中は襟元にリボンのついた白のワイシャツのような服と下は…黒を基調とした制服のスカートである。

 天使様。あなた方のセンスなかなか際どいっですね!!

 と心の中の鬱憤をまき散らしたところで。どうしましょうか。
 そよ風がほほを撫でていった。
 でも体は寒さを感じていなかった。いや、感じてはいたのだが脳みそがそれよりも重要だと判断した情報が視覚から入ってきていた。

 真っ白に十数本程度束なっても先が透き通るように見透かせる髪の毛が目の前をそよいだ。
 それは絹だとかそんな素材じゃ表現できないほど上質そのものであった。

「な、ナギ。その髪色…」

 そうシアに言われ、いろいろな思考を巡っていたのがシャットアウトされた。

「ボク自身、初めて見た。自分の髪の毛…」
「ナギ。名前、フルで教えて」

 フル? ああ、フルネームってことか。

(プロパティ)

「ナギ・ハウトバウン」
「ハウト…バウン。しゅ、種族は?」
「ケルベロスの魔種」
「……え?」

 あれ? ボクまた変なこと言っちゃった?
 なぜかシアが黙って考え事始めちゃったんですけど!?
 んー。あ。

 なんとなく察しがついた。
 アズリエールさんが言ってた王呼伏令の前者。ヘル・ハウトバウン・ハウンドって…。
 あと、称号にヘル・ハウトバウン・ハウンドの孫だとかなんとかって。

「ナギは魔種…ヘル・ハウンドは魔族…。別人…? でも酷似して・・・」
「ヘル・ハウトバウン・ハウンドはボクの祖父だよ」

 正確に言うと転生後の祖父だけど! 前世の方はまだ生きてました!

「…!」

 シアの青い瞳が一層、月の明かりを反射し輝いた。
 やっぱり何かあるのかな。

「でも。ボクは異世界から来ている。だから祖父のことはなんも知らない」
「…そう。私は何とも思わない。でも、嫌う人も…いる」
「なんだっけ、魔王を殺させないために封印し、その代償に自分の命を賭けた魔族界における英雄…」
「魔種にとって、魔王の封印はうれしく、なかった」

 シアは少し悲しげな表情の後につぶやいた。

「シアはこの後どうするの?」
「え?」

 ボクが謝る義理もないし、この空気を残すのも嫌だ。
 祖父には祖父なりの考えだろうし、そんな大ごとに悲しむ人と喜ぶ人が生まれるなんてつきものだ。
 ましてや過去の産物でもあるのだから。

「ほら。後ろばっか見てたら前にあるものにぶつかるでしょ?」
「ナギ…。よく分からないからもっと簡潔に、して」
「え。ま、まあいいや。それで? どうする?」
「ナギについていく、予定」
「うーん。そっか…でもボクも今日、この世界に来てるからどうするかなんて決めてないんだよなー」

 そう。今日を生き延びる、寒さをしのぐのこの二つが目標だったのである。
 いまだに達成できていない!

「ナギ。なんで、ケルベロス化しない? ケルベロスに寒さだとか…関係なくない?」
「…。知らない…」
「なんて?」
「ケルベロス化なんて知らないよ! ボク元は人間だからね!」
「…ほんとバカ」

 いや。こればっかりは天使様へ言ってほしい。
 前世が人間な奴が鳥になったら空を飛べますか?

 無理ですね!!!

―――――――――――

「できた」

 シアが疲れ切った声とともに四足歩行の動物となったボクに目線を向ける。
 シアに罵倒されながらケルベロス化する方法を色々試した挙句、意識すれば成功することが判明したわけなのだが…。
 ボクのイメージしていたケルベロスと違う気がする。

「やっぱり。ヘル・ハウンドと同じ毛並み。真っ白」

 その通り。ケルベロスって黒とか濃い紫とかそんな色じゃないんですか!?
 髪色と同じで真っ白かつ煌びやかとか!

 ん? ヘル・ハウンドと一緒?
 遺伝問題かよ! ケルベロスってなんかかっこいいイメージだったのにこれじゃあ…白いモフモフの超大型犬だよ。
 この体の大きさは背中に三人は乗せれそうなほど。
 長さは…。分からないな。二メートル以上ではある。

「はぁ…。寝ようかな」

 ケルベロス化すると寒さは全く感じなくなった。
 毛量もさることながら、細く透き通るような毛でも全く風を感じない。
 ケルベロス。いいかも! 真っ白だけど!

「私も。ナギ、そこに横たわって?」
「言われなくてもそうする予定だったよ」

 ふう。やっと一息つける。明日はなんとかご飯になるものを見つけるのと…情報収集をしなきゃな。
 う。どっと疲れが押し寄せてきた…。

―――――――――――――

 カサッ。
 ナギが一番最初に転生した地点。

「へー。生老が」

 枯葉の上に落ちていた紙切れを手に黒い外套に身を包んだ男はうっすらと笑みを浮かべた。
 ナギが本を開いた時、挟まっていた手紙は二通。
 一通は天使たちからの謝罪文。そして、もう一通は今この男が手にした紙切れである。
 それは、生老がこっそりと忍ばせていた生老自身からの手紙であった。

「生老。君はまだ鼬ごっこの続きをしたいのかい? いいだろう。楽しくなりそうだね!」

 男は月に向かって笑いかける。
 月明かりはスポットライトの如く森林の中に立つ男を美しくも照らしつけていた。
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