4 / 4
Looking for purpose
Looking for purpose act1
しおりを挟むこの世界は十四個の大陸からなり、それぞれは海で隔てているのはもちろん。空間としても大陸同士を分け隔てている。そんな大陸の中でも圧倒的面積を誇るミリア大陸。
ミリア大陸には大小様々な国家が点在する。
その中にあるミリア硬貨を誕生させ、一躍大国家へと上がった国。アランフェルト帝国。
そんなアランフェルトの国境線と重なるように二国をまたぐ大森林がある。
そこは言わずもがな、ナギとシアが一夜を過ごした森である。
そしてこの森はアランフェルト正規軍ですら入るにはそれなりの用意を必要とする、ミリア大陸でも群を抜いて危険な森であったのだが…。
―――――
「おはよ」
「ん。あったかい…」
そんな会話をしているのは、真っ白な狼のような体に頭の三つあるケルベロス。ナギ・ハウトバウンと、彼女が昨日の夜に救った龍の少女シア・ヴォルイアである。
この森の危険性などつゆ知らず、のほほんと朝を迎えた二人。
「まだ寝る?」
「いや…。おなか減った」
「でもこの辺に食料になる動物とかっているのかな」
この世界に来てから十数時間目のナギがこの森にいる生物など知る由もなく、三つの頭をそれぞれ違う方向へと視線を向ける。
ケルベロス化に伴い、寝ている間になぜか体の使い方を感覚的に理解したナギは戸惑うことなく、辺りを見回したのち、横たわった体を起き上がらせる。
「近…くに、リザード、マンなら、いる」
「リザードマン? 食えるのそれって」
「焼け…ば?」
「なぜ疑問形…。でも朝ごはん抜きはきついよな…。どこら辺にいるか分かる?」
「左…に三千メートル先」
「行ってみますか」
ナギが大きな体を動かし、左を見る。
「ナギ…逆、バカ」
「…シア? 絶対に君ボクと顔の向き逆で背中に寝っ転がってるでしょ!」
「…フッ」
「あと! いつから背中で寝てたのさ! 昨日の夜はボクを背に寝てたでしょ?!」
「ふかふか…もふもふ。全身?」
「はぁ…。なるほどね。ボクがモフモフだったから全身で感じたかったと」
「せい…かい」
なぜ自分自身分かったのだろうか。と頭を悩ませつつ、ナギはシアを背中に乗せたまま今度こそ左方向へと歩みを進めた。
―――――
葉を落とし始めた木々を横目に枯葉の森を歩くこと数分。
黒猫の常時移動速度上昇効果とナギ自身の歩幅の大きさでは三千メートル。三キロ程度を軽々と歩ききると、シアの言う通りリザードマンの群れがいた。
「なんか…二足歩行のトカゲって感じ」
爬虫類の肌に手足。そして尻尾のある。トカゲが二足歩行で歩いている。
「トカゲ…? リザードマンは、どちらか…というと、ドラゴ…ン?」
「ドラゴンか。あれ? シアも龍の魔種じゃ…」
「気の…せい。あと、ナギ。姿戻さな…きゃ、不便じゃ、ない」
「…。シアが降りてくれたらすぐ済む話なんだけど…」
そういうとシアはナギの背から飛び降りる。降りたのを確認し次第、ナギもケルベロス化を解いてあの、白髪の幼女の姿となる。
「ナギ…尻尾と耳。隠し…たら?」
「どうやって?」
そういうのもナギの頭には二つの三角形の耳があり、腰あたりからふさふさの真っ白い尻尾が生えている。
ふさふさと左右に揺れるたびに光を反射するように煌びやかに輝く尻尾はもはやいかなる時も幻想的そのものであった。
「…バカ。プロテクト」
シアがナギへ手をかざすと耳としっぽは見えなくなっていった。
プロテクト。不可視魔法の一種で、範囲内の全てを透明化させる。高レベルになればなるほど索敵スキルなどによる効果を軽減する。
「すご…いな」
思わず感嘆の声を漏らす。
「どうやって倒せばいいかな?」
「魔法…か魔術」
「魔法と魔術って違うの?」
「説明…めんどくさい」
あとで辞書を引こう。と心に決め、木々の間からリザードマンの姿を確認する。
「ボク…魔法とか魔術って使い方知らないんだけど」
「ナギ…に魔術の才能、ない。よ?」
「え…」
突然の才能無し宣言にナギは、目が漫画の如く白くなっていく感覚に陥った。
そして、燃え尽きたような消失感もうっすらと現れた。
「かわ…りに。魔法なら、適性…ある」
「魔法! 例えば? 例えば!」
はしゃぐ子供の如く飛び跳ねるナギの姿に顔を変えずとも、一歩身を引いたシアは淡々とナギの魔法適性について説明した。
―――――――
「へー。魔核ねー」
ナギの持つ魔法適性は分岐に分岐を経て編み出された、魔核式の魔法。
詠唱型や言霊、精霊とは大きく異なる魔核式は洗礼者が少なく、魔法学からすれば無能とされる地域があるほど、マイナーな魔法であった。
「魔核は…私もあま、りしらない」
「うーん。どうすればいいんだろうか」
「でも、魔核は無から放てる…はず」
(無から…。こんなことなら少し位ゲームとかしておけばよかったな)
「今日は、私がっ!」
木々の隙間から勢いよく飛び出したシアは地面を蹴りだし、飛び上がる。
「スピン・バレット」
飛び上がり、地面から二メートル強の位置。リザードマンは反応できても逃げることはできない。
シアの周囲に昨日の夜見た狙撃銃の弾に似た形が空気の乱れで形成される。見た目はガラスのような透明感がある。しかしその周囲には目に見えるほどの流線型の白い空気の流れが螺旋状に渦巻いている。
その様子を鮮明に見えていた者はこの場所においてナギだけであった。
リザードマンからすれば何なのか理解することもできなかった。
事実。これはたった三秒間の出来事なのである。
リザードマンが視角に入れた瞬間にはもう。シアの魔法によって仲間を含め七匹の脳天を貫通し、血が噴き出していた。
「…しょく…りょう」
シアは脳天を貫通され、血を垂れ流しながら倒れたリザードマンを横目に木陰にいたナギへうっすらと笑みを浮かべた。
ナギはただひたすらに恐怖心だけが募っていくだけであった。
「ナギ? 食料、手には…いったよ」
そのシアの両手にはしっかりとリザードマン二匹の尻尾ががっしりと掴まれ、引きずられた跡がきれいな一線を描いていた。
この時、もしもシアが殺し方を選び間違え、返り血を浴びるような魔法を選んでいたならばきっと。
ナギはこの場で逃げ出していたことだろう。
それもそう。元より食のために生きている動物を殺す場面をまじかで見るなど、前世においては一生に一度見れるかどうか。
常軌を逸している。ただそれだけであった。
「う…うん」
苦し紛れの返答であった。
一夜にして心を開いたシアにとってこのリザードマンを狩るという行為は昨日の恩返しなような物。
しかしナギの表情は苦し気。
「……。ごめん、ね」
シア自身、なぜ謝罪をしたかなど説明できるわけがない。
でも、ナギがうれしくなさそうな表情ならこの場所において原因は自分にしかないと、無意識のうちに判断し、その言葉を発した。
「え? え。ええ。ああ。ああ?」
ナギの情報処理限界を迎えた瞬間であった。
数秒前には異様な光景を目にし、その少し後にはシアが自分へ謝ってきている。
ナギはただ、天を仰ぎ天使に向かって愚痴をこぼすのだった。
「生きていける気がしないんですけど…ねえ?」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる