上 下
39 / 75
第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる

04-7.

しおりを挟む
「ハルも意地の悪いことをする」

 旭は上機嫌に七尾を揺らす。

「これほどに優れた人の子を隠そうとは健気なものよ」

 旭の関心を奪われたくなかったのだろう。

 そう解釈をされたことに気づき、春博は何とも言えない表情を浮かべ、静かに首を左右に振ったものの、それに気づかれることはなかった。

「気が乗った」

 練習をさせる前にやり方を教えなければならない。

 古びた本を読むだけでは術式は身につかない。

 旭はそれを知っていながらも、狐塚一族が強大な力を手に入れようと足掻き、足掻き続け、諦めるまでの歴史を見続けていた。

「手本を見せてやろう。香織。いずれはお前に習得をしてもらう」

 旭の言葉に対し、香織は首がちぎれるのではないかという勢いで左右に振って、無理であると全身で表現した。

「時はいくらでもかかってもいい。俺を師として学べばいい」

「むむむむ無理です!」

「はははっ、力を込めるな。覚えが悪かろうとも、俺は構わぬよ」

 旭は七尾を揺らす。

 これほどに愉快なことは久しぶりだと声を漏らす。

「救う術を教えてやろう。香織よ。いつの日か、お前がその才能を誇りに思える日まで俺が手を貸してやろう」

 そういいながら、旭は、助けを求める霊魂の声に耳を傾ける。

 黄泉への道すら見つけることが出来ずに、ただ、苦しみの中にいるのだろう。

 身体から魂が離れても、未だに苦しみと悲しみに囚われ続けている。

 助けて欲しいと助けを求める声に気付かれることもなく、どれほどの年月を彷徨っていたのだろうか。

 通りすがりのあやかしや荒魂の餌食にならなかったのは、旭の存在が大きいからだ。

 人間からの認識は田舎町に残る妖狐の伝承の一つであったとしても、あやかしからの認識は異なる。

 誰も、好んで、七尾の白狐を敵に回す者はいない。

 餌食になるために足を運ぶものはいない。
しおりを挟む

処理中です...