悪役令嬢ですが、勘違い聖女から王国を救うことになりました

佐倉海斗

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第一話「悪は咲き誇る」

02-5.理不尽な扱いには慣れている

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 知っていながら私はなにもしなかった。

「アレクシスのことを語ることができるほど、彼のことを知っているわけではないのです。彼の考え、彼の興味、彼の好きなもの、様々なことを知る機会があっても知ろうとしなかったのですから」

 私はアレクシスのことを知ろうとしなかった。

 だから、彼は自分自身を愛してくれるだろう女性の元に擦り寄ったのだろう。

「なにもしなかった私には、婚約者を責めることはできませんよ」

 お父様から対等な立場でも問題のない婚約者が与えられたと紹介された日から私たちは形だけの婚約者になった。

 共に王国を守る者として手を繋ぐべきだったのかもしれない。

 私は彼に寄り添う努力をしなかった。

 彼が欲しているものがどのようなことなのか、気付いていながらも、それは私が与えられるようなものではないと一方的な判断を下してしまった。

「お父様、婚約の解消ではなく破棄を望まれる理由をお聞きしても?」

「思い出したかのように言うのだな」

「はい。私の意見よりもそちらの方が重要でしょう」

「理解が早くて助かるが、……女というのは情に訴えるのではなかったか?」

 お父様の言葉を聞き、お母様は肩を震わせて笑っていた。

 笑ってしまうお母様の気持ちは理解できる。

 我が家に情に訴えるような者がいるのならば見てみたい。

 本家である我が家だけではなく分家すらも情ではなく武で語り掛けるような人ばかりなのに、どうして、そこでそのような発想になったのだろうか。

「情に訴えて得られるものなど限られています」

「お前という奴はそういう奴だったなぁ。学校に入れて感化されたのではないかと心配をしていたんだが、その心配は無さそうで安心したと言えばいいのか、気が抜けたと言えばいいのか……」

「お父様。それよりも用件をおっしゃってください。時間がないのです」

「せっかちは損をするぞ。何事にも時間の余裕をもってだなぁ」

「三日の休学期間しか用意しなかったのはお父様でしょう。今日中に領地を出発しなければ授業に間に合わないのです」

 文句を言いたいのは私の方だ。

 せっかく領地に戻ったのだからゆっくりしたいというのに、それを許さないと言わんばかりの予定を組んだのはお父様なのに忘れてしまったのだろうか。

「国王陛下が急におっしゃられたのだよ」

 遠いところを見ている。

 その時のことを思い出しているのかもしれない。
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